派遣社員がすぐに辞める理由とは?定着率向上のために派遣先企業がすべき5つのこと

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派遣社員がすぐに辞める理由とは?定着率向上のために派遣先企業がすべき5つのこと派遣社員がすぐに辞める理由とは?定着率向上のために派遣先企業がすべき5つのこと

「勤務を開始したばかりの派遣社員が退職してしまった」「派遣社員の定着率が低い」といった悩みを持つ人事担当者の方は少なくないでしょう。コストをかけて採用した人材がすぐに退職してしまうと、企業にとっては大きな損失となります。だからこそ、派遣社員の定着率向上を人事面における重要課題と捉える企業は多いのです。

派遣社員が早期に離職してしまう背景にはさまざまな理由があるものの、実は似たような事例が繰り返されているといいます。さらに、離職予防のための施策は事前に想定できるため、派遣先企業としては派遣社員が就業する前に十分な対策を講じておきたいところです。

この記事では、派遣社員がすぐに辞めてしまう理由とともに、定着率向上のために派遣先企業が取り組むべきことをご紹介します。

参考:派遣社員の契約途中における退職~急な事態に派遣先企業の担当者が気を付けること

目次

  1. 派遣社員がすぐに辞めてしまう5つの理由
    • 理由①:収入面での不満
    • 理由②:人間関係のトラブル
    • 理由③:業務内容のミスマッチ
    • 理由④:契約内容以外の業務指示
    • 理由⑤:本人のスキル不足
  2. 派遣社員の定着率向上のために派遣先企業がすべき施策5選
    • 施策①:業務内容に見合った給与の設定
    • 施策②:良好な職場環境づくり
    • 施策③:募集内容の明確化
    • 施策④:業務指示の適正化
    • 施策⑤:研修の充実と詳細なマニュアルの準備
  3. まとめ

1.派遣社員がすぐに辞めてしまう5つの理由

派遣社員の定着率を上げるためには、なぜすぐに辞めてしまうのか、その理由を把握しておくことが重要です。派遣社員は自社が雇用する社員ではないため、派遣社員ならではの離職理由があることに注意しなければなりません。

ここでは、派遣社員が早期に離職する理由をご紹介します。

派遣社員がすぐに辞めてしまう5つの理由

理由①:収入面での不満

派遣社員の場合、正社員と比べて年収が低くなる傾向にあります。派遣社員の中には正社員と同等か、正社員以上の業務量をこなしている人もいますが、それに見合った給与を受けられないことや賞与が受け取れないことに不満を感じがちです。契約更新時の昇給が少ないことを不満に感じるケースもあり、特に以前の職場で契約更新時に昇給を経験した人は難色を示す傾向が強く、早期に離職する要因となります。

また、同じ派遣会社から派遣されていても、スキルや経験、資格などを考慮した結果、時給に差が生じることがあります。自分よりも後から入ってきた人のほうが時給が高い場合、それを不満に感じてしまうケースもあるようです。

参考:派遣社員の時給相場はどれくらい?地域別・職種別の時給相場を紹介

理由②:人間関係のトラブル

派遣社員は契約期間が固定されているため、時間をかけて人間関係を形成することができません。上司や同僚との人間関係による悩みは、多くの職場で起きやすい問題といえます。

たとえば、派遣社員と正社員との間で無意識のうちに上下関係が形成されていたり、派遣社員が社内の輪に入れずに孤立してしまったりすることがあります。これらは代表的な人間関係のトラブルといえます。また、同じ会社や部署に自分以外に派遣されているスタッフがおらず、気兼ねなく話しかけられる社員もいない場合、気軽に悩みを相談できないことが大きなストレスとなるでしょう。

いうまでもなく、派遣先企業からのパワハラやセクハラなどの行為も、派遣社員の心身に大きな負担を及ぼします。これらの迷惑行為は法律による規制の対象となっており、企業としてはパワハラやセクハラを許さない姿勢を示す必要があります。

関連記事: 中小企業を含むすべての企業に施行されるパワハラ防止法~人事担当者が備えるべき対応策とは

理由③:業務内容のミスマッチ

実際に勤務を始めたものの、任された仕事が思っていたものと違うという理由から、派遣社員が業務内容とのミスマッチを感じることがあります。こうした状況が起こる要因として、仕事内容が変わっているにもかかわらず、派遣社員向けの募集要項が更新されていないことが挙げられます。これがきっかけとなり派遣社員の退職につながることもありますが、派遣先側であらかじめ募集要項をしっかりと確認していれば防げる要因です。

また、入社時の受け入れ態勢が十分に整っていないことも、派遣社員が不満を感じる要因となります。たとえば、派遣社員に業務指示をおこなう担当者が決まっていない、業務に必要な備品が準備されていない、社内ルールやマニュアルを共有してもらえないといったことが挙げられます。

理由④:契約内容以外の業務指示

実際に派遣されてみると、最初に聞いていた契約内容と違っていたり、範囲外の業務を任されたりといったトラブルもあります。注意点として、派遣社員の業務内容はあらかじめ労働者派遣契約によって決められており、契約外の業務を任せることはできません。この場合、正社員がやりたがらない業務を派遣社員に押し付けることも起きがちで、派遣社員がすぐに辞めてしまう要因となります。

派遣社員は契約内容以外の業務指示を断ることができますが、職場の人間関係が悪くなるのではないかと感じ、断るに断れないということもあり得ます。派遣先企業としては、派遣社員の契約内容をしっかりと確認し、契約外の業務を任せることがないよう徹底すべきでしょう。

理由⑤:本人のスキル不足

当初は自分でもできると思って応募したものの、実際に業務を始めてみるとうまく対応できず、就業開始後に派遣社員がスキル不足を感じることもあります。業務を十分に遂行できないことに後ろめたさを感じると、結果的に早期離職につながってしまいます。

この場合、業務内容は合っていると感じながらも、自らのスキル不足が原因で退職することになります。これを防ぐためには、あらかじめ自社が求めるスキルレベルを明確にし、より適切に業務内容を派遣社員に伝えておくことが重要です。就業前の職場見学や顔合わせの際に、派遣社員に任せる業務についてよくすり合わせることも有効な対策となるでしょう。

参考:アンガーマネジメントとは?トレーニング方法や派遣社員の対応にも役立つ理由を紹介

2.派遣社員の定着率向上のために派遣先企業がすべき施策5選

派遣社員の早期離職は企業にとって大きな損失であり、離職防止・定着率向上のための対策を講じる必要があります。派遣社員がすぐに辞めてしまう理由を踏まえたうえで、派遣先企業が取り組むべき施策を以下にまとめました。

施策①:業務内容に見合った給与の設定

派遣社員に対して業務に見合った待遇を設定することは必要ですが、実際のところ派遣社員に正社員と同等の権限や職務を与えることは難しいといえます。このため、給与面で派遣社員と正社員がまったく同等になることは現実的ではありません。

しかし、 2020年には同一労働同一賃金の制度が施行され、正社員と派遣社員との格差是正が法律で定められました。これを受けて、派遣社員に対しても業務に見合った給与を支払うことが義務付けられており、正社員との不合理な格差は法律違反となります。

同一労働同一賃金の施行により、派遣社員の待遇は「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」を用いて確保されます。派遣先企業には、このいずれかの方式によって派遣社員の待遇を確保できるよう、派遣料金について配慮する義務があります(労働者派遣法第26条第11項)。派遣社員の待遇改善に関しては雇用主である派遣会社が主に取り組むべき事柄ではあるものの、派遣先企業にも一定の義務が課されている点に注意が必要です。

参考:厚生労働省『派遣労働者を受け入れる際に注意すべきポイント』

施策②:良好な職場環境づくり

派遣社員の定着率を高めるためには、派遣社員がなじみやすい職場環境をつくることが重要です。具体的には、受け入れ前に現場の職員に周知しておくことや、休憩時間の雑談などでコミュニケーションをとることなどが有効です。また、メンター役を担当する先輩社員をあらかじめ決めておき、業務はもちろん人間関係のフォローも含めたケアをおこなうようにするとよいでしょう。

特に重要となるのは、派遣社員が勤務を開始してから最初の1週間のコミュニケーションです。少しずつ業務内容や社内ルールを覚えて職場の雰囲気にも慣れてくると、どのタイミングで上司に声をかけるべきか、同じことを繰り返し質問してもよいかなど、コミュニケーションにおける新たな悩みが生じてきます。派遣社員が声をかけやすい雰囲気をつくるのはもちろん、上司や教育担当者から積極的に声をかけてフォローすることも大切です。

コミュニケーションが円滑にとれている職場であれば、派遣社員のモチベーションアップにつながります。派遣社員が不安を感じず早期に定着できるよう、継続的なコミュニケーションと良好な職場環境づくりを心がけましょう。

関連記事:派遣社員の働く意欲を高める社内コミュニケーションの方法とは

施策③:募集内容の明確化

派遣社員の早期離職を防ぐには、業務内容とのキャップが生じないように募集要項を明確にする必要があります。具体的には「業務の中でどのように動くのか」を明確化することが重要であり、職場で働いている自分をイメージできるよう業務の流れを1日のスケジュールに合わせて記載しておくのもおすすめです。

また、募集要項で未経験者の応募を認めると、求職者が幅広く応募する傾向にあります。求職者と受け入れ側のミスマッチを防ぐためには、職種を限定して応募条件を経験者に絞ることも有効な対策となります。

派遣社員の募集要項に際しては、同じ文面を使い回しているケースもあり、時間の経過とともに仕事内容とのギャップが必然的に生じてしまいます。同じポストであっても派遣社員の募集を出すごとに募集要項を見直し、必要に応じて最新の内容に更新すべきでしょう。

さらに、就業した派遣社員がスムーズに業務を始められるように、派遣先の受け入れ体制を整えておくことも重要です。座席の確保や備品の用意はもちろん、社内設備の使い方や電話の取り方、部内メンバーの紹介、業務内容に関する説明など、派遣社員に戸惑いや孤独感を生じさせないよう受け入れ準備をしっかりと進めておきましょう。

関連記事:押さえておきたい人材派遣のポイント【依頼~受け入れ編】

施策④:業務指示の適正化

派遣社員は派遣元企業と業務内容に関わる契約を締結しています。通常、派遣社員は契約の範囲内で業務に従事することになりますが、派遣先企業の担当者が契約内容を十分に確認していないために、契約範囲外の指示を出してしまうことがあります。この場合、派遣先企業に契約違反の意図がなかったとしても、派遣社員としては契約範囲外の業務を依頼されたことになり、会社や仕事に対して不満を抱く要因となります。

このような事態を避けるには、人事担当者だけでなく派遣先企業の上司や教育担当者も派遣社員の契約内容を十分に確認し、業務指示の適正化に努める必要があります。適切な業務指示は派遣社員のパフォーマンス向上にもつながるため、派遣先企業としては法律を遵守し、適正な対応をとることが重要です。

施策⑤:研修の充実と詳細なマニュアルの準備

派遣社員自身のスキル不足に対しては、業務内容に関わる研修を実施することで対処できます。正社員と比べて派遣社員に対する研修を十分に実施しない企業は多いものの、早期退職を防ぐためには定期的に研修をおこない、正社員と同様に派遣社員のスキル向上も目指すべきでしょう。

しかし、研修で取り上げた内容をすぐに理解し、業務の中で使いこなすのは難しいと考えられます。この場合、研修内容を振り返って見直しできるようなマニュアルも準備し、派遣社員がいつでも確認できるようにしておくとよいでしょう。

なお、派遣社員のスキル不足による離職を防ぐためには、募集の段階で必要なスキルレベルを具体的に示すことが重要です。この点、応募者を増やすために「簡易な作業です」といった文言を使うこともありますが、派遣社員が業務開始後にギャップを感じてしまうと、早期離職につながるリスクが高まります。派遣社員と派遣先企業、両者のミスマッチを生じさせないためにも、募集に使う文言は慎重に選ぶべきでしょう。

関連記事:押さえておきたい人材派遣のポイント【受け入れ後編】

3.まとめ

派遣社員がすぐに辞めてしまう理由としては、収入面での不安や人間関係のトラブル、業務内容とのミスマッチなどが挙げられます。退職に至るまではある程度、定型化されたパターンがあり、近似した事例が繰り返し起きているといっても過言ではありません。これにより、派遣先企業は職場の現状に合わせた施策を事前に講じやすく、その対応によって派遣社員の早期離職を防ぐ確率は高まると考えられます。

派遣社員を採用するコストは思いのほか大きく、早期の退職は大きな損失をもたらすものです。また、近年は労働人口の減少による人材不足という側面も強くなっており、新たな人材を採用すること自体が困難な状況にあります。

今後、採用コストはさらに高騰し、企業の人材不足もますます深刻化することが見込まれます。だからこそ、受け入れ側の派遣先企業としては、この記事でご紹介したような派遣社員の定着率向上を目指して積極的に施策を講じていくべきでしょう。

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