アンガーマネジメントとは?トレーニング方法や派遣社員の対応にも役立つ理由を紹介

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アンガーマネジメントとは?トレーニング方法や派遣社員の対応にも役立つ理由を紹介アンガーマネジメントとは?トレーニング方法や派遣社員の対応にも役立つ理由を紹介

派遣先企業は派遣社員に対する指揮命令権を持ち、同一部署に所属する社員のなかから「指揮命令者」を選任します。派遣社員を迎えるタイミングでは、直属の上司である指揮命令者を中心に自社の業務について教えることになります。

その際に、指導する立場の人間が「怒り」の感情をコントロールできないでいると、派遣社員に大きなストレスを与えてしまい、生産性の低下や早期離職にもつながりかねません。派遣社員とコミュニケーションを深めながら指導・育成するためには、自分の感情とうまく付き合う心理トレーニング「アンガーマネジメント」の習得が有効です。

この記事では、アンガーマネジメントを身につけるメリットやその重要性とともに、怒りの感情をコントロールするための具体的なトレーニング方法をご紹介します。

目次

  1. アンガーマネジメントとは
    • 怒りのメカニズム
  2. アンガーマネジメントのメリット
    • 円滑なコミュニケーション
    • パワーハラスメントの防止
    • 働きやすい職場環境
  3. 派遣社員受け入れにあたってアンガーマネジメントが重要な理由
    • 派遣社員への教育訓練が義務化
    • 怒りの感情が派遣社員に与える影響
  4. 怒りの6つのタイプ
    • 公明正大
    • 博学多才
    • 威風堂々
    • 天真爛漫
    • 外柔内剛
    • 用心堅固
  5. 衝動のトレーニング
    • カウントバック
    • ストップシンキング
    • 呼吸リラクゼーション
    • コーピングマントラ
    • スケールテクニック
    • グラウンディング
    • タイムアウト
  6. 思考のトレーニング
    • 「許せる」「許せない」
  7. 行動のトレーニング
    • 「変えられる」「変えられない」
    • 「重要」「重要でない」
  8. まとめ

1.アンガーマネジメントとは

アンガーマネジメントとは「怒り」や「苛立ち」といったネガティブな感情を自分自身でコントロールするスキルのことです。怒ることをマイナスに捉えるのではなく、必要なときだけうまく怒る、そして必要のないときには怒らないようにするためのトレーニングです。

元々は犯罪者の矯正プログラムとして用いられていましたが、近年は教育現場やビジネスシーンなどにも活用の場が広がっており、アンガーマネジメントを社員研修に取り入れる企業も増えています。怒りの感情を自分で管理できるようになれば、社員同士のコミュニケーションが円滑化し、ひいては組織全体の生産性向上につながることが期待されます。

アンガーマネジメントとは?トレーニング方法や派遣社員の対応にも役立つ理由を紹介

怒りのメカニズム

怒りは、ネガティブな一次感情と、その蓄積である二次感情から構成されます。ネガティブな一次感情とは日常において感じる不安や焦り、辛さ、寂しさなどのことです。これらが積み重なって「~すべき」「~であるべき」という自分の価値観や理想、期待とのギャップが生じたときに、二次感情として「怒り」が現れます。つまり、二次感情の裏には一次感情が存在しており、蓄積されたマイナス感情が大きいほど怒りも大きくなります。

2.アンガーマネジメントのメリット

アンガーマネジメントを身につけるメリットとして以下が挙げられます。

円滑なコミュニケーション

アンガーマネジメントでは、感情的にならずに自分の考えを相手に伝えるように心がけます。怒りや苛立ちを自分でコントロールし、理性的かつ冷静に対応することで、相手との円滑なコミュニケーションにつながります。

パワーハラスメントの防止

アンガーマネジメントはパワーハラスメントの防止策としても有効です。仕事をするなかで苛立ちを感じた時、強い感情をそのまま相手にぶつけても萎縮させてしまうだけです。怒りの感情をうまく取り扱い、指導や教育の場でも冷静に対応できれば、パワハラを減らすことにつながります。

働きやすい職場環境

職場内のコミュニケーションが円滑で、適切な教育が行われる職場になれば、人間関係のストレスが減り、チームワークが強化されます。まさに誰もが働きやすい職場環境に近づけるといえます。また、このような良好な職場環境を維持することで、社員一人ひとりのモチベーションも高まり、業務の生産性向上につながることが期待できます。さらに、自社の人材流出の防止にもつながります。

3. 派遣社員受け入れにあたってアンガーマネジメントが重要な理由

派遣社員を受け入れる際には、以下の理由でアンガーマネジメントが重要といえます。

派遣社員への教育訓練が義務化

2020年4月の労働者派遣法改正に伴い、派遣先企業は派遣社員に対して教育訓練を実施することが義務付けられました。派遣先企業は自社の社員と同様の教育訓練をおこない、業務を遂行するうえで必要なスキルを派遣社員に付与する必要があります。

教育訓練の義務化により、派遣先企業がアンガーマネジメントを身につける意義は一層大きくなっているといえます。指導する側が怒りの感情をコントロールし、うまくコミュニケーションをとりながら業務指導をすれば、派遣社員も委縮せずにスムーズに教育が進められるはずです。

怒りの感情が派遣社員に与える影響

指導が思うように進まないときには、怒りや苛立ちを感じることがあるかもしれませんが、その感情をそのままぶつけることは派遣社員を委縮させ、モチベーションを低下させることにつながる可能性があります。アンガーマネジメントを身につけて怒りの感情を自ら管理することは、派遣社員との信頼関係を築くうえでも重要となります。

4. 怒りの6つのタイプ

アンガーマネジメントを身につけるには、まず自分の怒りの傾向を理解する必要があります。自分がどのようなときに怒りを感じるのか、何に対して怒りの感情が現れるのかを考えるうえで、日本アンガーマネジメント協会が示す「怒りの6つのタイプ」が役立ちます。以下に挙げた怒りのタイプを参考に、自分の怒りがどれに該当するか把握しましょう。

公明正大

曲がったことが嫌いな正義感の強いタイプで、決められたルールに従わない人に対して怒りを感じる傾向にあります。また、正しい方向に導こうとするあまり、物事に深く介入しがちです。

博学多才

物事に白黒を付けたい完璧主義なタイプで、自分にも他人にも厳しくなる傾向にあります。うやむやにせず、何でもはっきりさせたいタイプのため、曖昧な状態に対してストレスを感じやすくなります。

威風堂々

自分の考えに誇りを持っているプライドの高いタイプです。考え方や価値観を曲げることを嫌い、自分の思いどおりに物事が進まなかったり、自尊心を傷つけられたりすることに怒りを感じます。

天真爛漫

自分の感情を素直に表し、制限を受けず自由に行動したいタイプです。明確に意思表示をしない人や、自分の考えや行動を抑えることに対してストレスを感じます。

外柔内剛

表面は穏やかでおとなしそうな印象でありながら、実際は意思が強く、自分の考えやルールを重んじるタイプです。自分とは異なる意見を受け入れず、自らのルールに反する出来事に直面したときに怒りを感じます。また、周りから頼りにされすぎることにもストレスを感じる傾向にあります。

用心堅固

不要な衝突を避けるために他人と距離をとりたいタイプで、自分の領域に他人が踏み込んでくることに怒りを感じます。非常に慎重で用心深く、周囲に頼ることが苦手な面があり、ストレスを溜め込んでしまう傾向にあります。

参考:一般社団法人日本アンガーマネジメント協会

5. 衝動のトレーニング

ここからは怒りの感情を抑えるトレーニング方法をご紹介します。

まずは衝動的な怒りに対応するためのトレーニングです。怒りは一時的に高まっても、少し待つだけで自然に収まっていくものです。この性質を利用したものが「6秒ルール」です。他人や物事に対して腹立たしい気持ちになったとき、6秒間だけ怒りの感情を表面化しないように意識することで、衝動的な行動を起こしにくくなるといわれています。

簡単そうに聞こえる6秒ルールですが、怒りの感情が高まった時に6秒待つというのは、意外と難しいものです。そこで、6秒ルールを実践するために有効なテクニックをいくつか紹介します。

カウントバック

カウントバックは「6秒ルール」を発展させた形で、数える数字を大きいほうから小さいほうへ引き算していく方法です。「1、2、3、4、5...」と順番に数えるのではなく、たとえば「50、49、48、47、46...」というように大きい数字からマイナスして数えていきます。さらに難しくして、「100、97、94、91、88...」というように、マイナス3をしながら数えていく方法も良いでしょう。単純に数を数えるよりも、少し頭を使った数え方をしてみることで、怒りの感情から意識をそらしやすくなります。

ストップシンキング

ストップシンキングはその名のとおり「思考をやめる」方法です。怒りや苛立ちを感じたら、それが膨れ上がる前に考えることをストップし、頭の中で真っ白な世界を思い描きます。怒りが生じたときに頭の中で「ストップ!」と唱え、強制的に思考をやめさせるのがポイントです。

呼吸リラクゼーション

呼吸リラクゼーションでは、腹式呼吸の要領で深呼吸を繰り返します。腹式呼吸のポイントは「①鼻から息を吸うこと」「②口から息を吐くこと」「③吐く息を長めにすること」の3点です。ゆっくりと大きな呼吸をすることで頭の中が冷静になり、怒りや苛立ちが収まりやすくなります。

コーピングマントラ

コーピングマントラは、自分自身に話しかけることで怒りの感情を落ち着かせる方法です。具体的には、怒りを感じたときに「大丈夫」「落ち着こう」「気にしなくていいよ」など、自分を落ち着かせる前向きな言葉を心の中で投げかけます。こうすることで怒りの感情から気がそれ、衝動的に怒りをぶつけることがなくなります。

スケールテクニック

スケールテクニックとは、自分の怒りに対して点数をつける方法です。たとえば10点を「激怒」とするなら、3点を「苛立ちを感じる」とするなど、自分の尺度で怒りのレベルを数値化していきます。そのときの怒りの強さを数値で表すことで、自分の怒りを客観的に、冷静に認識できるようになります。

グラウンディング

グラウンディングとは、怒りの感情が現れたときに別の物事に注目し、自分の意識を怒りからそらすトレーニングです。手元にあるスマートフォンやボールペンなどに意識を集中させ、その形状や質感を心の中で実況中継します。怒りとはまったく別の物事に目を向けることで、イライラする気持ちも徐々に落ち着いていきます。

タイムアウト

6秒ルールをはじめ、ここまで紹介した方法が難しそうであれば、タイムアウトが有効です。タイムアウトとは、怒りや苛立ちを感じたときに、いったんその場から離れてみる方法のことです。怒りの原因から物理的に距離をとることで感情がリセットされ、その場の空気を乱すこともなくなります。場所を離れている間は深呼吸やストレッチをおこない、心を落ち着かせることが大切です。

6.思考のトレーニング

衝動的な感情を抑えることができたら、次は自分の思考を管理していく必要があります。ここでは自分の許容範囲を客観的に見て、思考をコントロールするトレーニングをご紹介します。

「許せる」「許せない」

怒りに対する許容範囲は人によって異なります。他人の言動を「許せる」「まあ許せる」「許せない」の3つに分けたとき、怒りやすい人ほど「まあ許せる」のゾーンが狭く「許せない」のゾーンが広くなる傾向にあります。

思考のトレーニングでは、他人の言動を「許せる」「まあ許せる」「許せない」の3段階に分けて、自分の許容範囲である「まあ許せる」のゾーンを広げていきます。たとえば相手が待ち合わせの時間に遅れる場合、何分までなら「許せる」「まあ許せる」、何分を超えると「許せない」というように考えます。自分の許容量(=まあ許せる)を認識し、その範囲を広げる習慣をつけることが重要です。

7.行動のトレーニング

行動のトレーニングでは、2つの視点のマトリクスで考え、自らの行動をコントロールします。怒りの感情を整理することで、どのような行動をとるべきか客観的に認識できるようになります。

「変えられる」「変えられない」

「変えられる」「変えられない」は、自分でコントロールできるかどうかの軸です。自分で「変えられない」のであれば、それを怒ったところで何も変わりません。「変えられない」という現実を受け入れたうえで、それが自分にとって「重要」であれば対処法を考える「重要でない」のであれば手放して良いと判断します。一方、自分で「変えられる」ものに対しては、具体的に「何を」「いつまでに」「どうやって」対処していくか考え、実際に行動に移すことが大切です。

「重要」「重要でない」

「重要」「重要でない」は、自分にとってどれだけ重要であるかの軸です。それが「重要」であり、かつ自分で「変えられる」ものであれば、高い優先順位で取り組んでいく必要があります。一方、自分で「変えられる」ものの、それほど「重要でない」場合には、自分に余力があるタイミングで取り組むとよいでしょう。

8.まとめ

アンガーマネジメントとは、怒りの感情とうまく付き合い、自分自身でコントロールする能力のことです。業務指導をおこなうとき、自分の怒りや苛立ちを制御できないままでは相手を萎縮させてしまい、信頼関係を築くことはできません。アンガーマネジメントを身につけることで、自分の怒りをコントロールできるようになり、良好な人間関係や職場環境の構築につなげられます。

派遣先企業にとっても、派遣社員を受け入れる際には教育訓練が必須となり、適切な業務指導をおこなう義務があります。アンガーマネジメントを習得し、派遣社員が働きやすい職場環境を目指しましょう。