

派遣社員は契約期間の満了まで業務をおこなうのが基本です。しかし、勤務先の人間関係が合わなかったり、家庭の事情や健康上の理由から継続した勤務が困難になったりと、契約期間の途中で退職を考える派遣社員も少なくありません。
派遣社員が契約期間の途中で退職してしまうと、派遣元企業(派遣会社)と派遣先企業の両方に影響を及ぼすことになります。仮にこのような事態に直面した場合、退職手続きは派遣元企業の担当者が対応します。しかし、実際に派遣社員が就労するのは派遣先企業であり、現場で業務をおこなう派遣先企業の担当者も不測の事態に備える必要があるでしょう。
この記事では派遣社員が契約期間の途中で退職するケースを想定し、派遣社員自身のリスクや派遣先企業の担当者が注意すべきポイントについて解説します。
目次
- 契約期間の途中で派遣社員が退職する際に理解しておくべき基礎知識
- 民法上の規定
- 例外的に退職が許容されるケースとは?
- 派遣社員が派遣契約を途中で終了する場合のリスク
- 派遣社員としての信頼を損なう
- 人材派遣会社から新規契約を紹介してもらえなくなる
- 失業手当の待機期間が長期化する
- 派遣先の担当者も把握すべき、契約期間の途中で退職する場合の手順
- 手順①:派遣元企業の担当者に退職の意思を伝える
- 手順②:派遣元企業の担当者に手続きをおこなってもらう
- 手順③:派遣先企業の担当者に退職の意思を伝える
- 契約期間の途中での退職が発生した場合に気を付けること
- 退職の意思を伝えるタイミング
- 有給休暇の確認
- 業務の引継ぎの確認
- まとめ
1.契約期間の途中で派遣社員が退職する際に理解しておくべき基礎知識
派遣社員が契約期間の途中で退職することに関連して、派遣先企業の担当者も下記の事項を理解しておく必要があります。

民法上の規定
派遣社員は契約期間が終了するまでは退職できないのが原則です。契約期間を定めて働く有期雇用契約では、その契約期間において労働力を提供することを取り決めています。契約期間の最後まで仕事をやりきることは派遣契約における重要事項であり、派遣社員の退職に関してはこの点が大前提であることを理解しなければなりません。
そのうえで民法によると、期間の定めのある雇用については「やむを得ない事由」がある場合に、例外的に退職できるとされています(民法第628条)。つまり、契約期間の途中であっても、その退職理由が「やむを得ない事由」として認められる場合には仕事を辞めることができます。
なお、期間の定めのない雇用に関しては、いつでも退職の申し入れができるとされています。民法上の規定として、退職の意思を示してから2週間が経過すると両者の雇用関係が終了します(民法第627条第1項)。
参考:民法 | e-Gov法令検索(民法第627条・628条)
例外的に退職が許容されるケースとは?
上述のとおり、あらかじめ働く期間を定めた雇用形態であっても「やむを得ない事由」がある場合には例外的に契約期間の途中での退職が許容されます。
法律上の定義はないものの、以下に挙げた事由は一般的に「やむを得ない事由」として解釈されています。もちろん「何となく仕事に行きたくない」「他にいい仕事が見つかった」といった理由では認められません。
- 契約所定の内容以外の業務を担当している
- 職場でパワハラやセクハラが存在する
- 家族を介護しなければならない事情が生じ、業務との両立が難しい
- 家族の仕事の事情により、通勤不可能な遠方への転居が決まった
- 業務の継続が困難なほどの体調不良が生じている
- 業務内容が法令に違反している
ただし、上記はあくまでも例外的な措置です。そもそも、有期雇用契約を結んでいる派遣社員が契約期間の途中に退職することは、派遣元企業・派遣先企業の双方に多大な影響を与えかねない行為といえます。加えて、現在の派遣元企業から仕事を紹介してもらえなくなる、失業手当の給付が遅延するなど派遣社員自身に降りかかるリスクもあります。このため、契約期間の途中での退職は慎重に判断しなければなりません。
また、民法で決められた「やむを得ない事由」の他にも、労働基準法の規定によりその派遣先での勤務が1年以上に及ぶ場合には契約期間の途中でも退職できるとされています(労働基準法附則第137条/専門的な知識を有する労働者および60歳以上の労働者は適用外)。これにより「やむを得ない事由」がある場合に退職を認める民法の規定にかかわらず、契約期間の初日から1年を経過した日以後はいつでも退職することができます。
派遣社員の途中退職ではこのような法律上の規定も関わってくるため、実際に退職する場合には契約書をもとに契約解除の手続きについて確認しておく必要があります。また、契約期間満了前に退職する際の退職理由が「やむを得ない事由」に該当するかどうかは、個々の事例によるものとされています。