派遣社員の契約途中における退職~急な事態に派遣先企業の担当者が気を付けること

人材派遣の実践
派遣社員の契約途中における退職~急な事態に派遣先企業の担当者が気を付けること派遣社員の契約途中における退職~急な事態に派遣先企業の担当者が気を付けること

派遣社員は契約期間の満了まで業務をおこなうのが基本です。しかし、勤務先の人間関係が合わなかったり、家庭の事情や健康上の理由から継続した勤務が困難になったりと、契約期間の途中で退職を考える派遣社員も少なくありません。

派遣社員が契約期間の途中で退職してしまうと、派遣元企業(派遣会社)と派遣先企業の両方に影響を及ぼすことになります。仮にこのような事態に直面した場合、退職手続きは派遣元企業の担当者が対応します。しかし、実際に派遣社員が就労するのは派遣先企業であり、現場で業務をおこなう派遣先企業の担当者も不測の事態に備える必要があるでしょう。

この記事では派遣社員が契約期間の途中で退職するケースを想定し、派遣社員自身のリスクや派遣先企業の担当者が注意すべきポイントについて解説します。

関連記事:派遣社員がすぐに辞める理由とは?定着率向上のために派遣先企業がすべき5つのこと

目次

  1. 契約期間の途中で派遣社員が退職する際に理解しておくべき基礎知識
    • 民法上の規定
    • 例外的に退職が許容されるケースとは?
  2. 派遣社員が派遣契約を途中で終了する場合のリスク
    • 派遣社員としての信頼を損なう
    • 人材派遣会社から新規契約を紹介してもらえなくなる
    • 失業手当の待機期間が長期化する
  3. 派遣先の担当者も把握すべき、契約期間の途中で退職する場合の手順
    • 手順①:派遣元企業の担当者に退職の意思を伝える
    • 手順②:派遣元企業の担当者に手続きをおこなってもらう
    • 手順③:派遣先企業の担当者に退職の意思を伝える
  4. 契約期間の途中での退職が発生した場合に気を付けること
    • 退職の意思を伝えるタイミング
    • 有給休暇の確認
    • 業務の引継ぎの確認
  5. まとめ

1.契約期間の途中で派遣社員が退職する際に理解しておくべき基礎知識

派遣社員が契約期間の途中で退職することに関連して、派遣先企業の担当者も下記の事項を理解しておく必要があります。

契約期間の途中で派遣社員が退職する際に理解しておくべき基礎知識

民法上の規定

派遣社員は契約期間が終了するまでは退職できないのが原則です。契約期間を定めて働く有期雇用契約では、その契約期間において労働力を提供することを取り決めています。契約期間の最後まで仕事をやりきることは派遣契約における重要事項であり、派遣社員の退職に関してはこの点が大前提であることを理解しなければなりません。

そのうえで民法によると、期間の定めのある雇用については「やむを得ない事由」がある場合に、例外的に退職できるとされています(民法第628条)。つまり、契約期間の途中であっても、その退職理由が「やむを得ない事由」として認められる場合には仕事を辞めることができます。

なお、期間の定めのない雇用に関しては、いつでも退職の申し入れができるとされています。民法上の規定として、退職の意思を示してから2週間が経過すると両者の雇用関係が終了します(民法第627条第1項)。

参考:民法 | e-Gov法令検索(民法第627条・628条)

例外的に退職が許容されるケースとは?

上述のとおり、あらかじめ働く期間を定めた雇用形態であっても「やむを得ない事由」がある場合には例外的に契約期間の途中での退職が許容されます。

法律上の定義はないものの、以下に挙げた事由は一般的に「やむを得ない事由」として解釈されています。もちろん「何となく仕事に行きたくない」「他にいい仕事が見つかった」といった理由では認められません。

  1. 契約所定の内容以外の業務を担当している
  2. 職場でパワハラやセクハラが存在する
  3. 家族を介護しなければならない事情が生じ、業務との両立が難しい
  4. 家族の仕事の事情により、通勤不可能な遠方への転居が決まった
  5. 業務の継続が困難なほどの体調不良が生じている
  6. 業務内容が法令に違反している

ただし、上記はあくまでも例外的な措置です。そもそも、有期雇用契約を結んでいる派遣社員が契約期間の途中に退職することは、派遣元企業・派遣先企業の双方に多大な影響を与えかねない行為といえます。加えて、現在の派遣元企業から仕事を紹介してもらえなくなる、失業手当の給付が遅延するなど派遣社員自身に降りかかるリスクもあります。このため、契約期間の途中での退職は慎重に判断しなければなりません。

また、民法で決められた「やむを得ない事由」の他にも、労働基準法の規定によりその派遣先での勤務が1年以上に及ぶ場合には契約期間の途中でも退職できるとされています(労働基準法附則第137条/専門的な知識を有する労働者および60歳以上の労働者は適用外)。これにより「やむを得ない事由」がある場合に退職を認める民法の規定にかかわらず、契約期間の初日から1年を経過した日以後はいつでも退職することができます。

派遣社員の途中退職ではこのような法律上の規定も関わってくるため、実際に退職する場合には契約書をもとに契約解除の手続きについて確認しておく必要があります。また、契約期間満了前に退職する際の退職理由が「やむを得ない事由」に該当するかどうかは、個々の事例によるものとされています。

参考:労働基準法 | e-Gov法令検索(労働基準法附則第137条)

2.派遣社員が派遣契約を途中で終了する場合のリスク

派遣社員は派遣契約を途中で終了したからといって直ちに違法になるものではありません。しかし、現実にはさまざまなリスクが生じることを、派遣社員本人はもちろん派遣先企業の担当者も十分に理解しておかなければなりません。そして、契約期間の途中での退職を希望する派遣社員には以下のようなリスクを示しつつ、翻意を促していく必要があります。

派遣社員としての信頼を損なう

期間の定めのある雇用契約を締結している場合、その期間が満了するまで労働力を提供することが前提となります。派遣社員が契約期間の途中で辞めることになれば、人材確保が間に合わないだけでなく、任せていた業務が遅滞することも考えられます。この結果、派遣社員本人が「責任感に欠ける人」という印象を持たれてしまう可能性があり、関係者からの信頼を損なう可能性があります。派遣社員の途中退職は、派遣元企業・派遣先企業に多大な迷惑がかかるだけでなく、退職する派遣社員自身にも影響が及ぶおそれがあるのです。

人材派遣会社から新規契約を紹介してもらえなくなる

関係者からの信頼を損ねてしまった結果、人材派遣会社から新たな仕事の紹介を受けられなくなるリスクも生じます。契約期間の途中での退職は、派遣契約の一方的な破棄に該当する行為です。当然ながら、人材派遣会社からの印象が悪くなってしまい、結果的に新しい仕事を紹介してもらえないという事態が生じかねません。また、紹介の優先順位が低くなり、希望する仕事に就きにくくなることも考えられます。人材派遣会社としても派遣先企業との良好な関係性を望んでいるため、途中退職したことのある派遣社員に対しては消極的な対応になってしまう可能性があります。

失業手当の待機期間が長期化する

仕事を辞めると、雇用保険から失業手当が給付されます。派遣会社の倒産や整理解雇など、会社都合による退職であれば失業後 7日間の待機期間を経過した後に給付を受けられます。しかし、派遣社員本人の意思による自己都合退職の場合には給付制限期間が設けられ、7日間に加えて 2~3か月が経過した後に失業手当の支給が開始されることになります。

待機期間は会社都合・自己都合の双方で適用されますが、給付制限期間は自己都合退職や懲戒免職の場合にのみ適用されます。つまり、派遣社員が契約期間の途中で退職すると、会社都合退職と比べて失業手当の受け取りが大幅に遅れてしまうのです。

関連記事:派遣社員の雇用保険を解説!加入条件や失業手当についても紹介|旭化成アミダス株式会社

3. 派遣先の担当者も把握すべき、契約期間の途中で退職する場合の手順

派遣社員が契約期間の途中で退職する場合、以下のステップを踏むことになります。これらは派遣社員本人と派遣元企業が主体となっておこないますが、現場の担当者は派遣社員から手続きに関して質問を受けることも想定されます。派遣社員をフォローしなければならない場合に備えて、しっかりと段取りが踏まれているか、派遣先企業の担当者としても把握しておくことが重要です。

手順①:派遣元企業の担当者に退職の意思を伝える

退職を考えている派遣社員は、まず派遣元企業の担当者と連絡を取り、状況を説明します。原則として契約期間の途中で退職することはできないため、退職理由によっては断られる可能性があります。それでも退職の意思が固い場合には話し合いをおこない、契約期間満了前の退職を了承してもらわなければなりません。

退職の意思を伝える際は、できれば文書として記録に残しておくのが望ましいでしょう。

手順②:派遣元企業の担当者に手続きをおこなってもらう

派遣元企業の担当者が退職理由を確認し、必要な手続きを開始します。この際の処理としては、契約書や法的な側面を確認し、派遣先企業に通知することも含まれます。

契約期間の途中で退職する場合には、派遣社員であっても退職願や退職届の提出を求められることがあります。派遣元企業の指示に従い、提示された期限までに必要な書類を準備・提出しなければなりません。また、これらの書類を提出する際はコピーを取り、控えとして手元に残しておきましょう。

なお、派遣社員の退職において退職願や退職届が必要となるのは、契約期間の途中で退職した場合に限ります。契約期間満了に伴う退職であれば、派遣社員が退職願や退職届を提出する必要はありません。

手順③:派遣先企業の担当者に退職の意思を伝える

退職が確定した後は、派遣先企業の担当者にも退職の旨を伝え、必要に応じて業務の引継ぎや書類の整理を進めていきます。派遣社員が退職を希望している場合、派遣先企業へその意思を伝えるのは派遣元企業の役割です。このため、派遣社員は派遣元企業の指示を受けてから、退職する旨を派遣先企業に伝えることになります。

関連記事:派遣社員の働く意欲を高める社内コミュニケーションの方法とは

4. 契約期間の途中での退職が発生した場合に気を付けること

派遣社員が契約期間の途中で退職する場合、派遣先企業の担当者として以下の点に注意する必要があります。

退職の意思を伝えるタイミング

派遣社員の雇用主は派遣元企業であり、派遣先企業と直接的に契約を結んでいるわけではありません。派遣社員が退職を希望する場合には、まず雇用主である派遣元企業に意思を伝える必要があります。また、派遣社員は派遣元企業からの指示を受けるまで、派遣先企業の担当者に退職の意思を伝えるべきではありません。派遣社員の退職に関わるやりとりは、派遣元企業と派遣先企業との間でおこなわれるのが基本となるからです。

しかし、派遣元企業の指示を受ける前に、派遣社員が自己判断で退職の意思を派遣先企業の担当者に伝えてしまう可能性が少なからずあります。そうなると、派遣元企業と派遣先企業との間でトラブルが起こってしまうなど、両者の関係性に影響が及ぶことにもなりかねません。派遣社員から退職の申し出があった際は、派遣元企業の担当者に先に連絡をしているのか、周りの同僚に口外していないかなどを確認しておくことが重要です。

有給休暇の確認

有給休暇の取得は労働者の権利であり、当然ながら派遣社員にも認められています。派遣社員は退職までの残り日数の中で有給休暇を取得できるかを確認し、状況に応じて有給消化をおこなうことになります。

注意点として、派遣社員は派遣先企業の休業日に有給休暇を取得することはできません。また、派遣社員の有給休暇は「継続した勤務期間」としてカウントされるため、就業先が変わっても日数は引き継がれます。派遣先企業の担当者はこれらの点にも注意し、退職する派遣社員が「有給休暇を何日取れるのか」「いつから消化期間に入るのか」などを確認しておくとよいでしょう。

関連記事:派遣社員の有給休暇はいつから?付与日数や取得条件を解説|旭化成アミダス株式会社

業務の引継ぎの確認

派遣社員が契約期間の途中で退職する場合、後任者への業務の引継ぎがスムーズにおこなわれているか把握することも重要です。派遣社員の途中退職は、派遣先企業にとって不測の事態といえます。使用していた備品や機材が忘れずに返却されているか、引継ぎが丁寧におこなわれ、次の担当者が円滑に業務に入れるようになっているかなどを十分に確認しておきましょう。

引継ぎや備品返却に不備があると、後任者の業務遅滞や情報漏洩の発生など、会社の不利益につながるおそれがあります。自社が被る被害を最小限にとどめるためにも、引継ぎや返却が確実におこなわれているかチェックすることが大切です。

関連記事:【業務の引き継ぎ】派遣期間終了までに行うべき企業の対応を解説

5. まとめ

派遣社員が契約期間の途中で退職することは、法律上認められていないのが原則です。しかし、継続した勤務が困難となる「やむを得ない事由」がある場合に限っては、契約期間の途中での退職が許容されることもあります。

ただし、派遣社員が途中退職してしまうと、派遣先企業を含む関係各所に迷惑がかかるのは明白です。派遣元企業からの信頼を失い、次の就業先を紹介してもらえなくなるなど、派遣社員自身も不利益を被る可能性が高いでしょう。派遣社員が途中退職を希望している場合には、さまざまなリスクを伝えたうえで、慎重に対処していく必要があります。

派遣社員本人はもちろん、受け入れ先である派遣先企業の担当者としても、万が一の事態に備えることが重要です。派遣社員の退職によって不備やトラブルが発生しないよう、退職の手順や注意すべきポイントを理解しておきましょう。

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