派遣社員に労災が起きたら?派遣先企業の対応について解説

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派遣社員に労災が起きたら?派遣先企業の対応について解説派遣社員に労災が起きたら?派遣先企業の対応について解説

原則として労働者を一人でも雇用する企業には労災保険への加入義務があり、労災保険は雇用形態を問わずすべての労働者に適用されます。派遣社員が仕事中に被った災害も労災保険給付の対象となりますが、派遣社員と派遣先企業との間に雇用関係は生じないため、派遣先としてどう対応すべきか戸惑う場面があるかもしれません。

この記事では労災保険制度の基礎知識とともに、派遣社員に労災が起きた場合の派遣先企業の対応について詳しく解説します。

関連記事:休業手当の計算方法とは?「平均賃金の6割」が想定の半分以下になる理由

目次

  1. 労災とは
    • 業務災害
    • 通勤災害
  2. 労災保険制度
    • 労災保険の適用者
    • 健康保険との違い
  3. 労災保険給付の種類
    • 療養(補償)等給付
    • 休業(補償)等給付
    • 障がい(補償)等給付
    • 遺族(補償)等給付
    • 葬祭料等(葬祭給付)
    • 傷病(補償)等年金
    • 介護(補償)等給付
    • 二次健康診断等給付
  4. 派遣社員に労災が起きた場合
  5. 労災の発生に伴う派遣先企業の対応
    • 派遣元企業への連絡
    • 労災保険の様式第5号の記入
    • 労働者死傷病報告の作成・提出
    • 安全に働ける職場環境の構築
  6. 労災発生における派遣先企業の注意点
    • 労災申請が可能な期限
    • 労災が起きた日の医療費用
    • 労災ハラスメントに注意
  7. まとめ

1.労災とは

労災とは「労働災害」の略称であり、業務や通勤が原因でケガをしたり病気にかかったりすることをいいます。作業中や通勤中に負った外傷だけでなく、職場で受けたセクハラ・パワハラなどに起因する精神障がいが労災とみなされるケースもあります。

労災には2つの類型があり、業務に起因する死傷病を「業務災害」、通勤に起因する死傷病を「通勤災害」といいます。

派遣社員に労災が起きたら?派遣先企業の対応について解説

業務災害

業務災害とは、労働者が業務を原因として被ったケガや病気、障がい、死亡のことです。たとえば工場での作業中に機械に指を挟まれてケガをした場合など、業務と傷病との間に一定の因果関係がある場合に「業務災害」とみなされます。事業主の管理下にあり、かつ災害の発生が業務に起因することが条件となります。

通勤災害

通勤災害とは、労働者が通勤を原因として被ったケガや病気、障がい、死亡のことです。たとえば職場から自転車で帰宅する際に転んでケガをした場合など、通勤途中に発生した傷病が「通勤災害」とみなされます。ここでいう「通勤」は労働者が一般的に用いる合理的な経路のことで、通勤のために通常利用する経路であれば、それが複数あってもすべて合理的な経路と判断されます。

2. 労災保険制度

労災保険制度(正式名称:労働者災害補償保険制度)とは、労働災害に対する保険給付と被災労働者の社会復帰を促進する制度です。業種や規模を問わず、一人でも労働者を雇っている企業に適用されます。労災が発生した際、この制度に加入している場合には労災保険から必要な給付がおこなわれ、企業は労働基準法に基づく補償責任を免除されることになります。労災保険制度(正式名称:労働者災害補償保険制度)とは、労働災害に対する保険給付と被災労働者の社会復帰を促進する制度です。業種や規模を問わず、一人でも労働者を雇っている企業に適用されます。労災が発生した際、この制度に加入している場合には労災保険から必要な給付がおこなわれ、企業は労働基準法に基づく補償責任を免除されることになります。

労災保険は業務や通勤に起因するケガや病気が対象となりますが、業務外のケガや病気で働けなくなった場合には傷病手当金を受け取れる可能性があります。派遣社員の受給条件や申請手続きについて以下の記事で詳しく解説していますので、本記事とあわせて参考にしてください。

関連記事:もしものときの傷病手当金!派遣社員の受給条件や契約終了後の適用は?

労災保険の適用者

労災保険が適用される労働者は「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」です。労働者であれば雇用形態は関係なく、正社員はもちろん派遣社員や契約社員、アルバイト、パートなどにも適用されます。

健康保険との違い

労災保険は業務や通勤を原因として発生した死傷病に対する保険給付です。労災ではないケガや病気、つまり業務や通勤に起因しない災害については健康保険で対応する必要があります。なお、労災保険は費用負担がありませんが、健康保険は一部自己負担となります。

注意点として、労災による傷病に健康保険を使うと、治療費全額を一時的に自己負担しなければなりません。この場合の必要な手続きについては下記の資料をご確認ください。

参考資料:お仕事でのケガ等には、労災保険!|厚生労働省

3. 労災保険給付の種類

労災保険から支払われる保険給付には以下の8種類があります。

療養(補償)等給付

業務または通勤に起因する傷病により療養するときに受けられる給付です。労災病院や労災保険指定医療機関以外で治療を受けた場合は労働者がいったん治療費を負担しますが、請求手続きをおこなえば負担した費用の全額が支給されます。治療費に加えて、一定の要件を満たす場合には通院に要した費用の支給も受けられます。

休業(補償)等給付

業務または通勤に起因する傷病による療養で仕事を休んだために、賃金が支払われない場合に受けられる給付です。労災保険による給付は休業4日目からで、保険給付と特別支給金をあわせ、1日につき給付基礎日額の80%が支給されます。なお、業務災害における休業1~3日目の休業補償は事業主が支払う必要があります(1日につき平均賃金の60%)。

障がい(補償)等給付

業務または通勤に起因する傷病の症状固定後に後遺障がいが残ったときに受けられる給付です。これ以上治療を続けても症状の改善が期待できないと判断された場合、法令で定められた障がい等級に応じて年金または一時金が支払われます。

遺族(補償)等給付

業務または通勤に起因する傷病で死亡したときに受けられる給付です。被災労働者が亡くなったとき、その収入で生計を立てていた配偶者や子、父母などに支給される「遺族(補償)等年金」と、遺族(補償)等年金を受け取る遺族がいない場合に支給される「遺族(補償)等一時金」があります。

葬祭料等(葬祭給付)

業務または通勤に起因する傷病で死亡した人の葬祭をおこなうときに受けられる給付です。被災労働者の遺族など「葬祭をおこなうにふさわしい人」が支給対象となりますが、葬祭をおこなう遺族がおらず、労働者が勤めていた会社が社葬をおこなう場合には会社に対して支給されます。

傷病(補償)等年金

業務または通勤に起因する傷病の療養開始後、1年6か月を経過しても治癒しないときに受けられる給付です。法令で定められた傷病等級(程度に応じて第1級〜第3級)に該当する障害の程度であることが支給要件となり、労働基準監督署長の決定に基づいて支給されます。

介護(補償)等給付

障がい(補償)等年金または傷病(補償)等年金の第1級または第2級で高次脳機能障がい、身体性機能障がいなどの障がいがあり、常時介護あるいは随時介護を受けているときに受けられる給付です。介護費用として支出した額が支給されますが、常時介護の上限は177,950円、随時介護の上限は88,980円となります。

二次健康診断等給付

企業による直近の定期健康診断において、脳・心臓疾患に関連する一定の項目で異常があったときに受けられる給付です。該当する場合には自己負担なしで二次健康診断と特定保健指導を受けることができます。

関連記事:特殊健康診断とは?派遣先企業が負担すべき理由

4. 派遣社員に労災が起きた場合

労災保険を定めている労働者災害補償保険法は「労働者を使用する事業」を適用事業としています(第3条1項)。派遣社員の場合は直接の雇用関係にある派遣元企業に労災保険の加入義務が生じるため、労災が発生したときは派遣元企業の労災保険が適用されます。派遣社員は派遣元企業・派遣先企業の両方に労災の報告をおこない、雇用主である派遣元企業に労災保険給付を請求することになります。

派遣社員がおこなう労災手続きの流れについては以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:派遣社員のケガや病気に対応!労災手続きの流れについても解説

5. 労災の発生に伴う派遣先企業の対応

前述のとおり派遣社員の労災には派遣元の労災保険が適用されますが、派遣社員が実際に就業しているのは派遣先の企業です。派遣社員に労災が起きた場合、派遣先企業としても以下のような対応が必要となります。

派遣元企業への連絡

派遣社員の労災を確認した場合、いつ、どこで、何をしているとき、どのような災害が起きたのか、派遣元企業の担当者に報告する必要があります。保険給付を受けるには請求書の提出が求められるため、派遣元企業はこの報告を受けて労災保険の給付請求書を作成することになります。

労災保険の様式第5号の記入

労災保険の様式第5号とは「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書」を指します。派遣社員の労災であれば雇用主である派遣元企業が作成しますが、様式の裏面には「派遣先事業主証明欄」があり、派遣元が記載した事項が事実であることを証明する必要があります。

参考ページ:主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省

労働者死傷病報告の作成・提出

派遣社員が休業する場合は労働者死傷病報告を提出します。これは派遣元・派遣先の両方が提出する書類であり、派遣元企業であれば派遣元の所轄労働基準監督署、派遣先企業であれば派遣先の所轄労働基準監督署にそれぞれ提出する必要があります。派遣先企業が作成・提出後にその写しを派遣元企業に送付し、それを参考に派遣元も作成・提出する流れが一般的です。

安全に働ける職場環境の構築

労災の原因によっては、派遣先企業の安全配慮義務違反が問われる可能性もあります。派遣社員と派遣先企業との間に雇用関係はないものの、派遣社員が実際に働くのは派遣先企業であり、派遣先としても派遣社員が安全に働ける職場環境の整備に努めなければなりません。また、実際に労災が起きた場合には原因を調査し、再発防止対策を策定・実施する必要があります。

6.労災発生における派遣先企業の注意点

派遣社員が労災にあった際に、派遣先企業として適切な対応が求められます。以下の注意点を留意して、派遣元企業と協力して迅速に対応していくことが重要です。

労災申請が可能な期限

労災申請の時効期間は、労災保険給付の種類によって2年または5年です。起算日もそれぞれの労災保険給付によって異なります。派遣先企業はそれぞれの労災保険給付の申請期限を適切に把握し、派遣元企業と連携しながら、申請手続きに迅速に対応していくことが重要です。

労災が起きた日の医療費用

労災が発生した当日の医療費用は労災保険で補償されます。ただし、労災保険指定の医療機関以外で受診した場合、派遣社員が費用を一時的に立て替える必要があります。派遣先企業は派遣社員が速やかに適切な治療を受けられるようにサポートし、その後の労災申請がスムーズに行われるように対応していきます。

労災ハラスメントに注意

労働基準法では、労災が原因で休業中の社員に対する解雇は原則と禁止されています。また、労災保険の申請を理由に派遣社員に対して、不当な扱いをすることは「労災ハラスメント」となります。派遣先企業は労災申請後、社員に対する公平な待遇を保ち、ハラスメントが発生しないように注意しなければなりません。

関連記事:中小企業を含むすべての企業に施行されるパワハラ防止法~人事担当者が 備えるべき対応策とは

7.まとめ

労災とは業務や通勤に起因する死傷病のことで、労災保険給付の対象となります。派遣社員に労災が起きた場合は派遣元企業の労災保険が適用され、派遣社員は雇用主である派遣元企業に労災保険給付を請求する必要があります。

直接雇用関係にはないものの、派遣先企業にもさまざまな対応が求められます。本記事を参考に、派遣社員の労災に対して派遣先企業がとるべき対応を理解し、不測の事態に備えておきましょう。

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