特殊健康診断とは?派遣先企業が負担すべき理由

人材派遣の基礎知識
特殊健康診断とは?派遣先企業が負担すべき理由特殊健康診断とは?派遣先企業が負担すべき理由

派遣社員が受診できる健康診断の一つに「特殊健康診断」があります。

健康診断にはいくつかの種類がありますが、

・費用負担はどうすればいいのだろう
・診断実施は義務付けられているのだろうか

と迷うこともあります。

特殊健康診断は、派遣社員の職種や業務内容に関係なく派遣元が行う「一般健康診断」とは別に、法定の有害業務に従事している労働者に対して派遣先企業が行うことが原則ですが、その理由について、健康診断を手配する上で理解しておきたいという人事担当者も多いようです。

結論から言いますと、実際の就業に伴う健康管理は派遣先が行わなければならないことが法律によって定められています。

この記事では、有害な作業環境で働く人の健康づくりを支援する特殊健康診断とは何か、その概要や派遣先企業に特殊健康診断の費用負担や実施の義務が発生する具体的な理由まで、詳しく解説します。

関連記事:派遣社員のケガや病気に対応!労災手続きの流れについても解説

目次

  1. 派遣社員の健康診断とは? 「一般健康診断」と「特殊健康診断」
  2. 一般健康診断とは?
  3. 特殊健康診断とは?
  4. 派遣先企業が特殊健康診断を実施し、費用を負担すべき理由
  5. まとめ

1.派遣社員の健康診断とは? 「一般健康診断」と「特殊健康診断」

健康診断は、労働者が自身の身体について現在の状態を詳細に確認することで、思わぬ病気を発見できたり体調を管理したりできる、重要な機会です。

派遣社員の健康診断は「労働安全衛生法 第66条」により定められており、一定の条件に該当していれば、実施の義務が発生します。

また、派遣社員を雇う企業側だけでなく、雇われる側の派遣社員にも「健康診断を受診する義務」が発生することがポイントです。

派遣社員の健康診断とは? 「一般健康診断」と「特殊健康診断」

基本的には派遣社員側に「健康診断の受診を拒否する権利」はありませんが、受診したくないという派遣社員がいる場合は、理由をヒアリングしたり日程を変更したりするなどのアプローチを行う必要があります。

派遣社員に実施する健康診断には、大きく分けて「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2種類があります。以下、2つの概要を詳しく説明しましょう。

2.一般健康診断とは?

一般健康診断とは、一般的な健康管理を目的に、派遣元が労働安全衛生法に基づいて行う健康診断です。

下表で示す5種類(雇い入れ時の健康診断・定期健康診断・特定業務従事者の健康診断・海外派遣労働者の健康診断・給食従業員の検便)が、一般健康診断に分類されます。

雇い入れ時の健康診断 常時使用する労働者(1年以上使用する予定で、1週間の労働時間が同種の業務に従事する労働者の4分の3以上である者)に雇い入れ時実施
定期健康診断 特定業務従事者を除く、常時使用する労働者に1年以内ごとに1回実施
特定業務従事者の健康診断 深夜業など特定の業務(労働安全衛生規則第13条第1項第2号)に従事する労働者に対し、配置転換時および6カ月以内ごとに1回実施 ※特殊健康診断と混同しやすいため注意が必要
海外派遣労働者の健康診断 海外に6カ月以上派遣する際と帰国後、国内業務となる際に実施
給食従業員の検便 事業に関連する食堂や炊事場で給食業務に従事する労働者の雇い入れ時と配置転換時に実施

3.特殊健康診断とは?

特殊健康診断とは一般健康診断とは別に、健康に影響を及ぼすおそれがある「特定の業務に従事する労働者」に対して、職業病や労働災害を事前に防止するために実施する健康診断のことを指します。

特殊健康診断の対象となる、特定の業務に従事する労働者は以下の通りです。

高気圧業務 高圧室内業務、または潜水業務に常時従事する労働者
放射線業務 放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入る者
除染等業務に常時従事する除染等業務従事者
特定化学物質業務 特定化学物質を製造し、または取り扱う業務に常時従事する労働者および過去に従事した在籍労働者(一部の物質に係る業務に限る)
石綿業務 石綿等の取り扱い等に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者および過去に従事したことのある在籍労働者
鉛業務 鉛業務に常時従事する労働者
四アルキル鉛業務 四アルキル鉛等業務に常時従事する労働者
有機溶剤業務 屋内作業場等における有機溶剤業務に常時従事する労働者

法定の有害業務に従事する労働者が受ける特殊健康診断は、派遣先企業に実施責任・費用負担の義務があります。派遣先は6カ月以内(※1)ごとの定期、およびその業務に配置換えした際に、定められた項目内容について実施する必要があります。

※1:放射線業務における一部の検査項目と、四アルキル鉛等業務の健康診断は3カ月以内。

4.派遣先企業が特殊健康診断を実施し、費用を負担すべき理由

派遣社員が受診できる2種類の健康診断のうち、一般健康診断については派遣元が行い、特殊健康診断は派遣先が責任を負って実施することが原則となっています。 では、一般健康診断と特殊健康診断に関して、実施する企業先が異なるのはなぜなのでしょうか。

理由は、法律により定められているためです。厚生労働省によって特殊健康診断は「派遣先の義務」として行わなければならない決まりとなっています。

「労働安全衛生法第66条第2項・第3項、安衛令第22条」に基づき、一般的な健康管理については派遣元、実際の就業に伴う健康管理は派遣先が行わなければならないことが「健康診断の責任区分」として明示されています。

特殊健康診断で検査すべき項目は極めて複雑で、企業は派遣社員が従事している業務が「特殊健康診断の対象となるのか」「担っている業務範囲が含まれているのか」などを、産業医などに随時確認・相談しながら進めていく必要があります。

つまり、特殊健康診断は「個人の健康診断」というよりも、働く先の「作業環境・職場の診断」という要素が強いからです。

派遣先は、特殊健康診断を自社において実施し、結果を「診断結果報告書」として遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ提出しなければなりません。

ただし、派遣社員が派遣先で有害業務に従事した後、派遣期間満了で業務から離れ、有害ではない別の派遣先で業務に就いている際には注意が必要です。この状態となった際には、特殊健康診断の実施は派遣元が行わなければなりません。また、この場合の費用に関しては派遣元が請け負って支払います。

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5.まとめ

特殊健康診断とは、健康に影響を及ぼすおそれがある「特定の業務に従事する労働者」に対して、職業病や労働災害、健康障害を未然に防ぐために実施する健康診断です。

派遣元が行う一般健康診断とは異なり、派遣先の企業が特殊健康診断を実施しなければならない理由は、厚生労働省によって派遣先が責任を負い、費用を負担して実施するよう定められているからです。

なぜなら、検査項目が複雑で「個人の健康診断」というよりも、派遣先企業の「作業環境・職場診断」となっていることも、大きな要素といえるでしょう。

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