休業手当の計算方法とは?「平均賃金の6割」が想定の半分以下になる理由

人材派遣の基礎知識
休業手当の計算方法とは?「平均賃金の6割」が想定の半分以下になる理由休業手当の計算方法とは?「平均賃金の6割」が想定の半分以下になる理由

休業手当は会社都合による休業の際に支給され、労働者を保護するための制度です。支給額は平均賃金の6割とすることが法律で定められており、単純に給与の60%が支給されると思っている人も多いでしょう。たとえば派遣社員の日給が1万円の場合、その6割に当たる6,000円が1日分の休業手当として支払われるという認識です。

ところが、実際に休業手当を受け取ると想定の半分以下しか支給されておらず、その少なさに戸惑う人も少なくありません。このような誤解は休業手当の計算方法に対する理解不足からくるものであり、どのように算出されているのか正しく理解しておくことが大切です。

この記事では、具体的な算出例を用いて休業手当の計算方法をわかりやすく解説します。

参照: もしものときの傷病手当金!派遣社員の受給条件や契約終了後の適用は?

目次

  1. 休業手当とは?
  2. 休業手当の計算方法
    • ステップ①:平均賃金の算出
    • ステップ②:1日当たりの休業手当の算出
    • ステップ③:休業手当の総額の算出
  3. 休業手当の算出例
    • 事例①:月給制の場合
    • 事例②:日給制の場合
  4. なぜ、休業手当の支給総額は想定の半分以下になるのか?
    • 誤解①:平均賃金を算出する際に、休日を含んだ3か月間の総日数で割ること
    • 誤解②:平均賃金の60%に「休業日数」を掛けること
  5. まとめ

1.休業手当とは?

休業手当とは、会社都合による休業があった場合に労働者に支給される手当のことです。経営不振や操業停止など会社側の事情で事業主が労働者を休ませた場合、その間の生活保障のため、休業日数に応じた休業手当の給付が義務付けられています。これを怠った場合は労働基準法違反となり、会社に対して30万円以下の罰金が科せられます。 なお、休業手当はあくまでも会社都合による休業が対象であり、育児や介護のために休む場合は対象外です。

休業手当とは?

休業手当の支給対象となるのは、使用者と雇用契約を結んでいる労働者です。雇用形態に関わらず支払われるものであり、派遣社員であれば雇用契約を結ぶ派遣元企業(派遣会社)から支給されます。また、給与計算の基本原則である「ノーワーク・ノーペイの原則」は、休業手当と有給休暇には当てはまりません。ノーワーク(仕事をしていない状態)であっても、この2つについては手当を支払う必要があります。

休業手当について、法律上は労働基準法第26条で次のように規定されています。

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

出典:厚生労働省『e-GOV『労働基準法』』

上記の条文によると、たしかに平均賃金の「6割以上」の支払いが規定されています。このため、給与の60%は最低限支払われると認識する人が多いこともうなずけます。では、なぜ冒頭で紹介したような誤解が起こるのかというと、それは「休業手当の計算方法」に理由があります。

参照: 派遣社員の有給休暇はいつから?付与日数や取得条件を解説

2.休業手当の計算方法

休業手当は「平均賃金の6割」が支払われるもので、手当の総額を算出するには3つのステップがあります。
休業手当は休業1日につき平均賃金の6割以上を支払うことが原則です。支給対象も幅広く、正社員はもちろん契約社員や派遣社員、アルバイト、パートも該当します。
実際の算出に際しては複雑な計算過程を要します。具体的には「休業手当の総額」を求めるために「1日当たりの休業手当」を計算し、そして「1日当たりの休業手当」を求めるために「平均賃金」を計算する必要があります。
以下では①「平均賃金」、②「1日当たりの休業手当」、③「休業手当の総額」の順で休業手当の計算方法を解説します。

ステップ①:平均賃金の算出

平均賃金の算出には下記の計算式①または②を用います

  • 計算式①
    「平均賃金」=「休業開始日の直前3か月の賃金総額」÷「直前3か月の総日数」
    ※「総日数」=「暦の日数」
  • 計算式②
    「平均賃金」=「休業開始日の直前3か月の賃金総額」÷「直前3か月の労働日数」×「0.6」

休業手当の原則として用いられるのが①の計算式です。ここでいう「総日数」とは暦の日数を指しており、所定労働日数ではないことに注意が必要です。

①と②の区別について、賃金が月給制である場合は①の計算式を用いて算出します。一方、賃金が日給制や時給制、出来高払い制などで労働日数が少ない場合は「最低保障」が適用され、②の計算式で算出した平均賃金を適用することがあります。月給制以外で働く労働者の労働日数は総日数(=暦の日数)よりも少ないケースが多く、原則の計算式(①)で算出した平均賃金では不利益が生じてしまう可能性があるからです。つまり、①よりも②で算出した金額のほうが高い場合は、最低保障額として②の金額を適用します。

計算式にある「休業開始日の直前3か月」とは、休業する前の月の賃金締め切り日から遡った3か月間を指します。ただし、以下の期間が「休業開始日の直前3か月」に含まれる場合、その日数分は除外する必要があります。

  • 業務上のケガ、または病気による療養のために休業した期間
  • 産前産後の休業期間
  • 育児・介護休業期間
  • 試用期間

また、計算式の「賃金総額」とは基本給だけでなく、通勤手当や残業手当、住宅手当、皆勤手当といった諸手当も合計した金額です。賞与や退職金、結婚手当、加療見舞金等、3か月以上の期間もしくは臨時で支払われるものは「賃金総額」から除外されます。

ステップ②:1日当たりの休業手当の算出

1日当たりの休業手当は、ステップ①で算出した「平均賃金」に休業手当支払率を掛けて算出します。休業手当支払率は「平均賃金の60%以上」となっており、60~100%の範囲で休業手当が算出されます。
1日当たりの休業手当を求めるための計算式は以下のとおりです。

  • 「1日当たりの休業手当」=「平均賃金」×「休業手当支払率(60%以上)」

ステップ③:休業手当の総額の算出

休業手当の総額は、ステップ②で算出した「1日当たりの休業手当」に休業日数を掛けて算出します。注意点として、ここでいう「休業日数」とは平均賃金の計算式①にある「総日数(暦の日数)」ではなく、労働が予定されている「所定労働日数」となります。休業手当が発生するのは会社の所定労働日のみです。

休業手当の総額を求めるための計算式は以下のとおりです。

  • 「休業手当の支給総額」=「1日当たりの休業手当」×「休業日数」

なお、ここでは「休業日数」としていますが、たとえば半日で早退させるケースなど1日の一部について休業とした場合も、その日の賃金が休業手当の金額(平均賃金の60%)を下回るのであれば差額を支払う必要があります。

3.休業手当の算出例

休業手当の計算方法をもとに、実際の数字を当てはめた算出例をご紹介します。

事例①:月給制の場合

まずは月給制で働く会社員の休業手当を計算してみましょう。

期間 総日数 基本給 通勤手当 残業手当
1月1日~31日 31日 25万円 1万円 4万円
2月1日~28日 28日 25万円 1万円 4万円
3月1日~31日 31日 25万円 1万円 4万円
合計 90日 75万円 3万円 12万円

上表の事例において、1か月の勤務日数が20日、月初から1か月間(勤務予定は20日間)休業した場合の休業手当を算出します。

ステップ①:平均賃金の算出

基本給に諸手当を含めた「直前3か月の賃金の合計」は90万円(30万円×3か月)です。
「直前3か月の総日数」を90日とすると、平均賃金は下記の計算によって1万円となります。

  • (900,000円)÷(90日)=(10,000円)

ステップ②:1日当たりの休業手当の算出

次に下記の計算により「1日当たりの休業手当」を求めます。
ここでは休業手当支払率を60%とし、上記で算出した平均賃金1万円の60%を計算します。

  • (10,000円)×(60%)=(6,000円)

ステップ③:休業手当の総額の算出

最後に下記の計算により「休業手当の支給総額」を求めます。

  • (6,000円)×(20日)=(120,000円)

ここで問題となるのが「休業日数」で、所定労働日でありながら会社都合により勤務できなかった日数のみカウントします。この事例における「休業日数」とは、1か月間のうち実際に勤務できなかった「20日間」となり、休日は「休業日数」から除いて計算する必要があります。

ここまでの計算により、今回の事例における休業手当の支給総額は12万円と算出できました。給与の支給総額は30万円であるものの、実際に支給される休業手当は4割程度にとどまることがわかります。

事例②:日給制の場合

次に、日給1万円で働く派遣社員の休業手当を計算してみます。

期間 総日数 労働日数 基本給 通勤手当
1月1日~31日 31日 5日 5万円 2千円
2月1日~28日 28日 10日 10万円 4千円
3月1日~31日 31日 15万円 15万円 6千円
合計 90日 30日 30万円 1.2万円

上表の事例において、4月10日から30日まで14日間(実際の勤務予定日数)休業した場合の休業手当を算出します。

ステップ①:平均賃金の算出

この事例では平均賃金の計算式である①と②の両方で計算し、両者を比較して高いほうを平均賃金とします。

基本給に諸手当も含めた「直前3か月の賃金の合計」は31.2万円です。
「直前3か月の総日数」を90日とすると、平均賃金は計算式①を用いて次のように計算できます。

  • ①原則の計算式
    (312,000円)÷(90日)=(3,466.66円)
    ※小数点第二位未満を切り捨て

続いて「直前3か月の労働日数」を30日とし、計算式②を用いて最低保障額を計算します。

  • ②最低保障の計算式
    (312,000円)÷(30日)×(60%)=(6,240円)

ステップ②:1日当たりの休業手当の算出

次に下記の計算により「1日当たりの休業手当」を求めます。 ここでは休業手当支払率を60%とし、上記で算出した平均賃金6,240円の60%を計算します。

  • ②最低保障の計算式
    (6,240円)×(60%)=(3,744円)

ステップ③:休業手当の総額の算出

最後に下記の計算により「休業手当の支給総額」を求めます。

(3,744円)×(14日)=(52,416円)

この事例では14日間の休業手当として52,416円が支払われることになります。

4.なぜ、休業手当の支給総額は想定の半分以下になるのか?

1か月間の休業において、たとえば月の収入が30万円の場合、請求すればその6割に当たる18万円が休業手当として支給されるのではないかとも考えられますが、上記の事例①のように実際の支給額は12万円です。これは休業手当の計算方法によるものであり、誤解を招きやすいポイントとして以下の2点が挙げられます。

誤解①:平均賃金を算出する際に、休日を含んだ3か月間の総日数で割ること

一般的に休業手当は"給与の6割"が支給されると思われることも多いですが、実際には「平均賃金」の6割が支給総額のベースとなります。
そして、平均賃金は休業日の直近3か月間の給与総額を「休日を含む直近3か月間の総日数(=暦の日数)」で割って算出します。これは「直近3か月間の勤務日数」で割る場合と比べて、実際には働いていない休日が含まれる分、計算される金額は低くなってしまいます。

誤解②:平均賃金の60%に「休業日数」を掛けること

休業手当の支給総額の算出に際しては、平均賃金の60%に「休業日数」を掛けます。つまり、会社都合により休業した日数のみが休業手当の支給対象となります。実際に会社が休みになった日数だけがカウントされるのです。
平均賃金の算出とは違い、ここでは休日を除外して計算することがポイントです。たとえば1か月間(=30日間)休業したとしても、その間の勤務予定日が20日であれば、20日間を平均賃金の60%に掛けます。暦の日数ではなく、休日を含まない休業日数で計算するために、支給総額が想定よりも低くなってしまうのです。

5.まとめ

休業手当とは、会社側の事情による休業の際に労働者を保護する制度です。セーフティネットとしての役割が期待されますが、支給金額の算出はやや複雑な計算を要します。このため、受け取れると見込んでいた金額に齟齬が生じるケースも少なくありません。

労働基準法の条文にあるように、休業手当の計算では「平均賃金」の6割がベースとなります。そして、平均賃金は過去3か月間の総日数から算出されます。ここでは休日が含まれる分、平均賃金の金額も低くなります。一方で、支給総額を算出する際は休日を除いた勤務日数をベースとするため、結果的に休業手当の総額も低くなってしまうのです。

休業手当の支給は雇用形態にかかわらず、派遣会社と雇用契約を結ぶ派遣社員も対象となります。派遣先企業が休業した場合も、原則として派遣社員に対する休業手当は派遣元企業が支払いますが、企業間の契約によっては派遣代金の返還が必要となる場合があります。派遣先企業としても、派遣社員の休業手当について正しく理解しておくことが大切です。このページで紹介した内容が休業手当算出の基本となります。具体的な事例をもとに計算方法を把握してください。

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