

業務中の事故が原因で派遣社員がケガや病気をしてしまった場合、企業の担当者はどのような対応をとるべきなのでしょうか。派遣社員は派遣元企業と雇用契約を結んでいるものの、実際の業務は派遣先企業で遂行するため、誰が手続きをおこなうのかわかりづらい側面があります。特に派遣先企業の担当者は、実際の対応で戸惑う場面もあるでしょう。
この記事では派遣社員に適用される労災補償について取り上げ、制度の概要や手続きの流れ、業務中・通勤中のケガや病気において派遣先企業の担当者がとるべき対応をわかりやすく解説します。
目次
- 労災補償制度とは?
- 労災の定義
- 労災保険の加入義務
- 労災補償の責任主体
- 労災の類型
- 業務災害
- 通勤災害
- 派遣社員がケガを負った場合に派遣先企業がとるべき対応
- ①派遣元企業への報告
- ②様式第5号への必要事項の記載
- ③労働者死傷病報告の作成と提出
- 派遣社員が行う労災手続きの流れ
- ①派遣元企業と派遣先企業への事実報告
- ②医療機関の受診と医療費の給付
- ③労災給付の申請
- 労災に該当する場合の保険給付の内容
- まとめ
1.労災補償制度とは?
労災補償制度とは、労働者が業務または通勤の際にケガや病気をした場合に、必要な保険給付をおこなう制度です。
労災補償制度の基本として以下の事項があります。

労災の定義
労災とは「労働災害」の略称であり、業務中や通勤中の事情に起因してケガをしたり病気になったりすること、場合によっては死亡してしまうことを指します。外傷だけでなく、うつ病などの精神疾患や長時間労働による脳や心臓の疾患も対象となります。
労災が発生した際に補償をおこなうのが「労働者災害補償保険」であり、一般に「労災保険」と呼ばれます。労災保険は、労働者のケガや病気、または死亡に対して、労働者本人やその遺族に必要な保険給付をおこなうとともに、その後の社会復帰を後押しする役割を果たしています。
なお、労災補償の対象となる疾病の範囲については、厚生労働省が「職業病リスト」として公開しています。同リストは定期的に見直し・改正がおこなわれているため、厚生労働省のホームページから最新の情報を確認する必要があります。
労災保険の加入義務
労災保険の適用対象は「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」とされています。つまり、雇用形態にかかわらずすべての労働者に適用されるもので、正社員はもちろん、派遣社員やパート、アルバイトなども対象となります。
事業主には労災保険への加入義務があり、業種の規模にかかわらず、労働者を一人でも採用した場合は必ず加入しなければなりません。労災保険の場合、その保険料は事業主が全額を負担しており、労働者は入社の日から労災保険に加入していることになります。
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労災補償の責任主体
労災補償の責任主体は、労働者を雇用する事業主です。労働者派遣事業の場合、派遣社員は派遣先企業の事業場で就労するものの、雇用契約は派遣元企業との間で締結しています。このため、派遣元企業が雇用主としての責任を負うことになります。