派遣社員の雇用保険を解説!加入条件や失業手当についても紹介

人材派遣の基礎知識
派遣社員の雇用保険を解説!加入条件や失業手当についても紹介派遣社員の雇用保険を解説!加入条件や失業手当についても紹介

失業してしまった場合に頼りになるのが「雇用保険」の存在です。離職者は雇用保険を通じて失業手当を受給したり、求職活動の支援を受けたりと、再就職に向けたさまざまなサポートを享受できます。

フルタイムで働く労働者は雇用保険に加入する義務があります。ところが、時短勤務で働く派遣社員や契約社員、アルバイト、パート社員は雇用保険への加入義務がないケースがあり、企業としてはこれらの労働者の加入条件についてしっかりと理解しておかなければなりません。特に派遣社員の場合は雇用主が派遣会社となるため、自社が雇用する労働者とは取り扱いが異なります。派遣会社と連携し、派遣先企業としての義務を果たす必要があります。

この記事では派遣社員の雇用保険を取り上げ、加入するための条件や失業手当の受給手続きについてわかりやすく解説します。

関連記事:派遣社員がすぐに辞める理由は?定着率向上のために派遣先企業がすべき5つのこと

目次

  1. 派遣社員が雇用保険に加入するための条件
    • 雇用保険の概要
    • 雇用保険への加入条件
    • 派遣先企業と派遣元企業の義務
  2. 失業保険とは?
  3. 失業手当を受給するための条件
  4. 派遣社員が失業手当を受給するための手続き
    • ステップ①: 離職票の交付
    • ステップ②: 受給資格の決定
    • ステップ③: 雇用保険受給者説明会への出席
    • ステップ④: 失業認定を受ける
    • ステップ⑤: 失業手当の受給開始
  5. 待機期間と給付制限期間とは?
    • 待機期間
    • 給付制限期間
  6. 派遣社員の自己都合退職と会社都合退職の区別
    • 自己都合退職
    • 会社都合退職
  7. まとめ

1.派遣社員が雇用保険に加入するための条件

雇用保険はすべての労働者が加入できるものではなく、加入するには一定の条件を満たす必要があります。ここでは雇用保険の概要をはじめ、派遣社員における雇用保険の加入条件のまとめ、派遣先企業・派遣元企業の双方に生じる義務について解説します。

派遣社員が雇用保険に加入するための条件

雇用保険の概要

雇用保険とは、失業手当の交付や再就職の支援など、労働者が働き続けるための総合的な支援を提供する保険制度です。失業手当は労働者が失業した場合に生活資金として給付されるもので、万一のときのセーフティネットとしての役割を果たしています。失業した労働者の生活を守り、再就職を促進するための制度といえます。

同じく労働者の生活の保障を目的とした制度に「傷病手当金」もあります。これは業務外の病気やけがの療養によって仕事に就けないときに受け取れる手当金で、健康保険から支給されます。以下の記事で詳しく解説していますので、本記事とあわせて参考になさってください。

関連記事:もしものときの傷病手当金!派遣社員の受給条件や契約終了後の適用は?

雇用保険への加入条件

雇用形態にかかわらず、次の条件を満たす労働者は雇用保険に加入できます。

  • 条件①:31日以上の雇用継続見込みがあること
  • 条件②:1週間の所定労働時間が20時間以上であること

上記の条件に該当していれば、派遣社員や契約社員、アルバイト、パートなども雇用保険に加入することが可能です。一部の事業を除き、条件に該当する労働者を一人でも雇っているなら、その事業主は労働保険(雇用保険・労災保険)の加入手続きをおこなう義務があります。

条件①:31日以上の雇用継続見込み

派遣社員の場合、雇用主である派遣元企業の雇用保険に加入します。実際の就労場所である派遣先企業が変更しても、同一の派遣元企業から31日以上雇用が継続される見込みがあれば条件を充足します。

条件②:1週間の所定労働時間が20時間以上

所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書に記載される従業員の労働時間(始業時刻から終業時刻までの時間から休憩を差し引いた時間)のことです。具体的には、1日4時間かつ週5日の勤務であれば条件を充足します。

なお、雇用保険料は2022年に段階的に引き上げられており、今後も動向を注視する必要があります。法改正における雇用保険料の引き上げについては以下の記事をご参照ください。

関連記事:雇用保険料率の引き上げ!2022年法改正における変更点を解説

派遣先企業と派遣元企業の義務

派遣元企業は、社会保険の資格取得に関する事実を、派遣先企業に通知しなければなりません。そして、派遣先企業は派遣元企業から通知を受けたとき、対象者の保険加入を証明する書類を確認するとともに、万一未加入であった場合には派遣元企業に加入を求める義務があります。

社会保険は現在、適用範囲が拡大されています。雇用保険以外でも労働者の加入義務について、法改正に則って判断しなければなりません。以下の記事では派遣社員をはじめとした非正規社員における社会保険の適用拡大を取り上げ、企業と個人の双方にどのような影響が及ぶのか詳しく解説しています。

関連記事:社会保険の適用拡大で変わること。非正規社員はどうなる【2022年10月改正】

2.失業保険とは?

失業保険とは雇用保険制度の一環であり、雇用保険の保険料で運営されています。雇用保険に加入する労働者が離職し、かつ再就職の意思を持って求職活動をおこなう場合に、一定額の手当を給付する制度です。

失業保険による給付は、基本手当や就業促進手当、教育訓練給付、育児休業給付、介護休業給付などがあります。いわゆる「失業手当」とは基本手当のことで、会社の倒産や契約期間満了、定年などにより離職した雇用保険の被保険者を対象に、失業している間も金銭的な不安なく、1日でも早い再就職を目指すために支給されるものです。

3.失業手当を受給するための条件

雇用保険の被保険者であっても、離職次第すぐに失業手当が給付されるわけではありません。雇用保険の加入者であることを前提として、失業手当を受給するためには次の条件を満たす必要があります。

  • 条件①:現在、失業状態にあること
  • 条件②:ハローワークを通じて求職活動を行っていること
  • 条件③:退職日以前の2年間で累計12か月以上の雇用保険加入期間があること
    特定受給資格者と特定理由離職者は、退職日以前の1年間で累計6か月以上の雇用保険加入期間があること

特定受給資格者とは会社の倒産や解雇によって離職を余儀なくされた方、特定理由離職者とは期間の定めのある労働契約が更新されなかったために(または、その他のやむを得ない理由で)離職に至った方をそれぞれ指します。失業手当を受ける場合、原則として雇用保険の被保険者期間は退職日以前の2年間で通算12か月間以上あることが条件となりますが、特定受給資格者または特定理由離職者に該当するケースにおいては、退職日以前の1年間で通算6か月以上の被保険者期間があれば失業手当給付の対象となります。

なお、失業保険の申請期限は退職の翌日から1年間と決められています。また、病気やけが、出産などのためにすぐに就業することが難しい場合は、受給期間延長申請をおこなうことで、最長で3年間受給期間を延長できます。

4.派遣社員が失業手当を受給するための手続き

派遣社員が失業手当を受給するためには、以下の5つのステップに沿って手続きをおこなう必要があります。

ステップ①: 離職票の交付

まずは派遣元企業から離職票の交付を受けます。

雇用契約期間が満了するまでに次の派遣先が指示されない場合、契約期間満了時に被保険者資格が喪失します。以前は契約終了後に1か月程度経過するまでは被保険者資格を喪失しない取り扱いでしたが、2009年の法改正によって派遣社員が同一の派遣元企業で就業を希望する場合を除き、契約期間が終わると同時に被保険者資格も喪失することになっています。

退職する社員から離職票が必要である旨を聞いていた場合、会社は退職日の翌々日から10日以内に離職証明書をハローワークに提出しなければなりません。離職票はこの離職証明書の提出をもって発行されるものであり、退職後2週間程度で離職票を受け取ることができます。

ステップ②: 受給資格の決定

派遣元企業から離職票を受け取ったら、現住所を管轄するハローワークまたは地方運輸局にて求職の申し込みをします。離職票はその際に提出するもので、受給手続きをおこなう本人がハローワークまで持参する必要があります。

その後、担当者によって受給資格の確認がおこなわれます。事業主が記載した「離職理由」に意義がなければ、公共職業安定所長または地方運輸局長が「離職理由」を判断し、受給資格が決定します。

ステップ③: 雇用保険受給者説明会への出席

受給資格が決定すると「雇用保険受給者初回説明会」の日程が通知されます。この説明会では雇用保険の手続きや就職活動について説明を受けます。その後「雇用保険受給資格者証」「失業認定申告書」が交付され、1回目の失業認定日が指定されます。

ステップ④: 失業認定を受ける

指定された1回目の失業認定日にハローワークへ出向き、面談を実施して受給資格を満たすことの認定を受けます。その際には「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」を提出し、求職活動の進捗を報告します。その後、継続して4週間に1回の頻度で就労の有無や求職活動実績の確認をおこない、失業状態であることの認定(失業認定)を受けます。

ステップ⑤: 失業手当の受給開始

失業認定を受けると、認定日から5営業日までを目安に失業手当が入金されます。ただし、自己都合による退職の場合は給付制限が発生し、2~3か月経過後の入金となります。

5.待機期間と給付制限期間とは?

待機期間と給付制限期間は失業手当が支給されないという点で共通します。それぞれの概要や相違点を以下にまとめました。

待機期間

待機期間とは、受給資格決定日(離職票の提出と求職の申し込みをおこなった日)以降の7日間を指します。会社都合・自己都合など離職理由にかかわらず、すべてのケースに適用されるもので、この期間中は失業手当が支給されません。会社の倒産や解雇による離職であっても、待機期間が満了するまでは失業手当を受け取れない点に注意が必要です。

給付制限期間

給付制限期間とは、待機期間と同様に、失業手当が支給されない期間のことです。待機期間との相違点は、給付制限期間が自己都合退職や懲戒免職のケースに限定して適用される点にあります。これらのケースに該当する離職者においては、待機期間満了後さらに一定期間が経過しなければ失業手当を受け取ることはできません。

給付制限期間はかつて一律に3か月とされていましたが、2020年10月1日以降に退職した場合、5年間に2回までは給付制限期間が2か月となります。つまり、正当な理由のない自己都合退職においては、失業手当の給付まで待機期間の7日間に加え、給付制限期間の2か月を要します。

さらに、5年間で3回目の自己都合退職となった場合、給付制限期間が3か月となる点にも注意が必要です。

6.派遣社員の自己都合退職と会社都合退職の区別

失業手当には給付制限期間が存在するため、派遣社員の退職理由が自己都合と会社都合のどちらであるかが重要となります。前述のとおり、正当な理由のない自己都合による退職では給付制限期間が発生し、失業手当の給付までに多くの時間を要することになるからです。
以下では両者の違いについて、解説します。

自己都合退職

自己都合退職とは、派遣社員本人の意思による退職を指します。具体的には、結婚や妊娠・出産、引越しなどの理由で、業務継続が困難になったことによる退職は自己都合となります。その他にも、自分自身の病気やけが、両親の介護による退職も自己都合とみなします。

ただし、自己都合退職のなかでも、正当な理由のある場合は「特定理由離職者」に該当します。その場合は「特定理由離職者」として給付制限期間が免除されます。

なお、特定理由離職者に該当するかどうかは、受給資格に係る離職理由により、管轄のハローワークまたは地方運輸局が判断します。

会社都合退職

会社都合退職とは、派遣元企業の都合による退職を指します。具体的には、派遣会社の倒産や整理解雇、ハラスメントを受けたことによる退職が会社都合となります。

また、契約終了後1か月を経過しても次の派遣先の紹介がないことによる退職も会社都合と判断されます。一方で、契約終了後1か月以内にオファーされた派遣先の紹介を断った場合は自己都合とみなされます。

7.まとめ

派遣社員は派遣先企業で就業するものの、雇用契約は派遣元企業と締結しています。労働者派遣の仕組みについては以下の記事をご参照ください。

関連記事:労働者派遣の仕組み・請負との違い

派遣社員は社会保険の加入について正社員と異なる取り扱いがあります。これは雇用保険に関しても同様で、雇用保険は失業状態となってしまったときのセーフティネットとして機能するだけに、派遣元企業としても十分な理解が必要となります。万一、受給条件を誤解していると、受給できるはずの失業手当を受け取れないリスクもあります。

この分野は法改正による変更も度々おこなわれていますが、日頃から制度への理解を深めておけば、いざというときに慌てずに対処できるはずです。本記事で取り上げた内容を参考に、派遣社員の雇用保険や失業手当について正しく理解しておきましょう。

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