最低賃金引き上げとは?企業にもたらされるメリット・デメリットを解説

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最低賃金は毎年見直しがおこなわれていますが、近年は物価上昇という背景があり、最低賃金も大きく引き上げられています。最低賃金引き上げは労働者にとってうれしいニュースであるものの、企業に対してはメリットをもたらすと同時にデメリットも生じさせています。

この記事では最低賃金引き上げの概要とともに、企業にとってのメリット・デメリットや引き上げに際してとるべき対応をわかりやすく解説します。

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目次

  1. 最低賃金とは?
  2. 最低賃金の種類
    • 地域別最低賃金
    • 特定最低賃金
  3. 最低賃金に違反した場合のペナルティ
    • 最低賃金法や労働基準法による処罰
    • 未払い賃金の支払い
  4. 2023年の最低賃金引き上げの状況
  5. 最低賃金引き上げの目的
  6. 最低賃金引き上げのメリット
    • 経済全体の活性化
    • 経費見直しの契機
  7. 最低賃金引き上げのデメリット
    • 人件費の増大
    • 正社員のモチベーション低下のおそれ
  8. 最低賃金引き上げに企業がすべき対策
    • 対策①:設備投資の抑制
    • 対策②:労働時間の管理徹底
    • 対策③:労働時間の短縮
    • 対策④:人員の適正化
    • 対策⑤:退職一時金の年金化
  9. まとめ

1.最低賃金とは?

最低賃金とは、使用者が労働者に支払う賃金の最低額のことです。最低賃金法に基づいて国が定めるもので、使用者はその最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければなりません。正社員はもちろん、派遣社員やパート、アルバイトなど、雇用形態にかかわらずすべての労働者に適用される制度です。

最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。前者は都道府県ごとに最低賃金額を設定するもので、後者は特定地域内の特定産業における最低賃金額を設定するものです。企業はこの金額を下回る賃金額を設定することはできません。

また、派遣社員の場合は立場上の特殊性があり「雇用主となる企業(=派遣元企業)」と「就業先となる企業(=派遣先企業)」が異なります。最低賃金の適用に関しては、派遣元企業の所在地にかかわらず、実際に就業する派遣先企業の所在地に対応します。このため、派遣社員本人と派遣元企業は、就業先である派遣先企業の最低賃金額を把握しておく必要があります。

都道府県別の最低賃金額と発効年月日については、厚生労働省のホームページにて毎年公開されています。2023年度の全国加重平均額は1,004円であり、前年度の961円から43円引き上げられました。自分の賃金が最低賃金を上回っているかどうかは、賃金額を時給換算し最低賃金と比較することで確認できます。

参考:厚生労働省「令和5年度地域別最低賃金改定状況」

最低賃金とは?

2.最低賃金の種類

最低賃金の種類として「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」があります。

地域別最低賃金

地域別最低賃金とは、業種にかかわらず、都道府県ごとに設定されている最低賃金額のことです。正社員はもちろん、派遣社員やパート、アルバイトなど雇用形態に関係なく、また国籍や年齢、性別にかかわりなく、当該都道府県内で働くすべての労働者が対象となります。

地域別最低賃金はすべての都道府県で1つずつ設定されるもので、原則として毎年改定がおこなわれています。具体的には、各都道府県の地方最低賃金審議会における議論を経て、都道府県労働局長が決定します。このとき、中央最低賃金審議会(目安に関する小委員会)から提示される引き上げ額の目安を参考にしています。

なお派遣社員の場合、派遣元企業の所在する都道府県と、派遣先企業の所在する都道府県が異なることがあります。このときは派遣元企業ではなく、派遣先企業の所在する都道府県の最低賃金が適用されることになります。

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特定最低賃金

特定最低賃金とは、鉄鋼業や出版業、電気機械器具製造業など、特定の産業に限定して適用される最低賃金のことです。関係労使が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金が必要だと認める産業について設定されるもので、特定最低賃金は地域別最低賃金よりもやや割高となります。適用される産業は都道府県によって異なり、たとえば北海道では乳製品製造業、愛知県では自動車小売業が対象となっています。

地域別最低賃金と特定最低賃金が同時に適用される場合、企業は高いほうの賃金額に合わせなければなりません。派遣社員においても、派遣先企業の業種が特定最低賃金にあてはまるのであれば、その最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります。

なお、特定最低賃金の認定件数や改定状況については厚生労働省のホームページから確認できます。

参考:厚生労働省「特定最低賃金について」「特定最低賃金の全国一覧」

3.最低賃金に違反した場合のペナルティ

最低賃金に違反した場合、使用者は以下のペナルティを受けることになります。

最低賃金法や労働基準法による処罰

所定の最低賃金を支払わなかった場合、使用者は法律による処罰を受けます。

  • 地域別最低賃金
    地域別最低賃金が適用される労働者に対し、その金額以上の賃金を支払わなかった使用者には、最低賃金法によって50万円以下の罰金が科されることがあります。
  • 特定最低賃金
    特定最低賃金が適用される労働者に対し、その金額以上の賃金を支払わなかった使用者には、労働基準法によって30万円以下の罰金が科されることがあります。さらに、地域別最低金額以上の賃金を支払わなかった場合には、最低賃金法により50万以下の罰金が定められています。

未払い賃金の支払い

企業は最低賃金法によって所定額以上の賃金を支払う義務を負います。仮に、労働者との契約で最低賃金を下回る賃金額を定めており、双方の合意があったとしても、法律上無効となります。この場合は最低賃金額と同水準の定めをしたものとみなされ、企業は最低賃金との差額を支払わなければなりません。

4.2023年の最低賃金引き上げの状況

最低賃金は毎年引き上げられています。2017年3月に公表された「働き方改革実行計画」によると「年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていく」とされています。

実際、地域別最低賃金の引き上げ額を見ると、2022年には31円、2023年には43円の引き上げがおこなわれています(厚生労働省「平成14年度から令和5年度までの地域別最低賃金改定状況」より)。この結果、2023年度における地域別の最低賃金額は全国平均で1,004円となりました。全国平均が1,000円を超えたのは史上初であり「働き方改革実行計画」にも記載のあった「全国加重平均が1000円になることを目指す」という目標を初めて達成したことになります。なお、最低賃金額が最も高かったのは東京都の1,113円であり、最も低かったのは岩手県の893円でした。

ただし、最低賃金引き上げは必ずしもすべての労働者にメリットがあるとは限りません。実際には扶養の範囲に注意しながら働いているケースも多く、場合によっては最低賃金引き上げが手取り収入の減少につながることもあるからです。労働者にとって歓迎すべき事項のように思えますが、実際にメリットを享受できるかどうかは労働者の働き方次第といえます。

関連記事:扶養範囲で働くとは?年収別の壁や社会保険の条件を解説

参考資料:働き方改革実行計画

5. 最低賃金引き上げの目的

最低賃金引き上げの主な目的は、賃金上昇によって消費を活性化させることにあります。現状に合わせた最低賃金を毎年設定することで、労働者の生活の安定を図るとともに、消費を促す効果が期待できます。つまり、最低賃金引き上げは有力な景気刺激策ともいえるでしょう。

また、現状として最低賃金に近い金額で給与設定をおこなっている場合、最低賃金引き上げにより人件費の増大が想定されます。これに伴い、業務の効率化や労働時間の短縮を企業に促していくという目的もあります。

6.最低賃金引き上げのメリット

最低賃金引き上げは企業に以下のようなメリットをもたらします。

経済全体の活性化

最低賃金引き上げによって賃金が底上げされると、これまでよりも積極的な消費行動を見込むことができます。特に、非正規労働者は賃金が低位となりがちであり、消費に対して消極的な傾向がありました。最低賃金引き上げはこのような状況を改善し、消費の拡大をもたらすことが期待されています。また、経済が活性化して景気回復すれば、企業の業績向上にもつながっていくでしょう。

経費見直しの契機

最低賃金額に近い金額で給与を設定している場合、引き上げをおこなうと人件費が増大します。このとき、企業としては会社全体の経費の見直しが必須となるでしょう。これは一見デメリットのように思えますが、通常時であれば見過ごしてしまうような経費の無駄を見つける契機となります。あらためて自社の経費を見直してみると、これまでコストをかけすぎていた部分に気づくことができたり、経費削減に向けて業務効率を上げる仕組みを考えたりすることができます。

7.最低賃金引き上げのデメリット

最低賃金引き上げは企業に以下のようなデメリットをもたらします。

人件費の増大

最低賃金引き上げによって人件費の増大が想定され、企業によっては従業員数や勤務時間の調整が必要となります。特に影響を受けるのが、アルバイトやパートを最低賃金やそれに近い賃金で雇用している企業です。具体的には飲食店やスーパー、コンビニなどが挙げられます。これらの業種では、最低賃金引き上げに伴い人件費が大幅に増えることで、経営が圧迫される危険性があります。

正社員のモチベーション低下のおそれ

正社員の場合、給与を時給換算したときに最低賃金を下回っていれば、賃金引き上げの対象となります。しかし、場合によっては、最低賃金引き上げに伴いアルバイトやパートの給与が上昇する反面、同じ会社に勤めている正社員の給与は変わらないというケースがあります。この結果、アルバイト・パートと正社員との給与差が小さくなると、正社員のモチベーション低下につながるおそれがあります。

関連記事:派遣労働者の「同一労働同一賃金」について

8.最低賃金引き上げに企業がすべき対策

最低賃金引き上げに際して、企業が講じるべき対策には以下が挙げられます。

対策①:設備投資の抑制

賃金上昇により人件費が増大する場合、設備投資を抑制し、経費の節減をおこなう必要性が出てくるでしょう。設備投資の費用は特に大きな金額になりやすく、節減する優先順位も高いといえます。どうしても設備投資が必要な場合は、政府や自治体の助成金・補助金を利用する手段も考えられます。

対策②:労働時間の管理徹底

従業員が出社したあと、着替えや掃除など就業前の準備時間も労働時間に含まれ、企業は賃金の支払い義務を負います。給与計算を厳密におこなうためにも、労働時間の管理を徹底する必要性は高いでしょう。これまでアナログな方法で管理していた場合は、従業員一人ひとりの勤怠情報を正確かつ効率的に管理できる「勤怠管理システム」を導入するなど、労働時間の厳格な把握に努める必要があるでしょう。

対策③:労働時間の短縮

労働時間を短縮することで人件費を圧縮できます。特に企業が残業代を多く支払っている場合には効果的です。具体的には、従業員に向けて定時退社を促したり、定時になるとパソコンが自動シャットダウンする機能を設定したりすることが挙げられます。ただし、労働時間の短縮によって生産性が落ちてしまわないように、企業としてはDX(デジタルトランスフォーメーション)などを通じて業務効率化を図り、短い労働時間でも一定の成果を上げられる仕組みを模索するべきでしょう。

対策④:人員の適正化

人件費の底上げが難しい場合には従業員数を減らし、適正な水準を維持することも最低賃金引き上げに向けた対策の一つです。このとき整理の対象となるのは、最低賃金額に近い金額の給与を受け取っている非正規労働者であることが多いと考えられます。

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対策⑤:退職一時金の年金化

人件費の増大に伴い経費負担が重くなり、従業員に支給する退職一時金も企業にとって大きな負担となることが予想されます。今後バブル期に入社した従業員が定年退職を迎えると、さらに負担が増えてしまうでしょう。そこで、退職一時金を年金化して経費負担を軽減することは、最低賃金引き上げに向けた有効な対策となり得ます。年金が増額される効果もあり、退職後の生活がより豊かなものになるため、従業員にとっても歓迎すべき制度といえるでしょう。

9.まとめ

最低賃金はすべての労働者に適用される制度であり、使用者は最低賃金額以上の賃金を労働者に支給する義務があります。そして、毎年おこなわれる最低賃金引き上げは、企業に対して大きな影響をもたらすものです。各企業はメリットを享受しつつ、デメリットには十分な備えをしていかなければなりません。

本記事で取り上げたように、最低賃金引き上げに伴う経費負担軽減策には複数の選択肢があります。自社に最適な施策を検討し、最低賃金引き上げに備えましょう。

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