扶養範囲で働くとは?年収別の壁や社会保険の条件を解説

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扶養範囲で働くとは?年収別の壁や社会保険の条件を解説扶養範囲で働くとは?年収別の壁や社会保険の条件を解説

フルタイムではなくパートタイムで働く派遣社員のなかには、扶養の範囲内で働くことを希望する方も多くいらっしゃいます。しかし、扶養には「社会保険上の扶養」と「税制上の扶養」があり、年収の壁にも複数の段階が存在するため、一口に「扶養範囲内」と言っても派遣社員がどの範囲での就業を希望しているかは人によって異なります。

この記事では、派遣社員の労働管理をおこなううえで派遣先企業も理解しておくべき「扶養控除」「扶養内」についてわかりやすく解説します。

目次

  1. 扶養とは
    • 社会保険上の扶養
    • 税制上の扶養
  2. 扶養範囲内で働くための「年収の壁」
    • 103万円の壁:扶養者の配偶者控除と本人の税金控除を受けられる
    • 106万円の壁(毎月の給与が8.8万以上:8.8×12≒106万):社会保険加入義務が発生する恐れがない
    • 130万円の壁:社会保険の扶養対象となる
    • 150万円の壁:扶養者の配偶者特別控除が満額で受けられる
  3. 社会保険の扶養範囲内で働くための条件と注意すべきポイント
    • 派遣会社が社会保険の適用事業所であるか
    • 週の所定労働時間が20時間以上か
  4. まとめ

1.扶養とは

そもそも「扶養」とは、自身の収入だけでは生計を立てられない家族や親族を経済的に援助することを指し、援助する者を「扶養者」、援助を受ける者を「被扶養者」と呼びます。

扶養には「社会保険上の扶養」と「税制上の扶養」の2種類があります。短時間のパートタイムで働く派遣社員が「扶養範囲内で働きたい」と言った場合、どちらの扶養を意味するのかによって意識すべき年収の範囲が変わってきます。

扶養とは

社会保険上の扶養

社会保険上の扶養とは、同一世帯で主として生計を維持する者の扶養に入ることで、被扶養者が保険料を負担することなく国民年金と健康保険に加入することを指します。意識すべき年収の壁には「106万円の壁」と「130万円の壁」があり、年収の対象には交通費手当も含まれることに注意が必要です。

税制上の扶養

税制上の扶養とは、被扶養者が年間の収入を一定額以下に抑えることで、扶養者が配偶者控除・配偶者特別控除による税金の控除を受けることを指します。意識すべき年収の壁には「103万円の壁」と「150万円の壁」があり、交通費手当は原則として対象外となります。

2.扶養範囲内で働くための「年収の壁」

被扶養者である派遣社員は以下の「年収の壁」を超えないよう意識して働くことで、社会保険の扶養に入ったまま働けたり、扶養者が配偶者控除・配偶者特別控除を受けられたりするメリットを享受できます。

103万円の壁:扶養者の配偶者控除と本人の税金控除を受けられる

被扶養者の年収が103万円以下であることは、扶養者が「配偶者控除」を受けるための条件となります。扶養者の合計所得金額が900万円(給与収入のみなら1,120万円)以下の場合、配偶者控除の控除額は38万円です。しかし、所得が900万円を超えると控除額は少なくなり、1,000万円(給与収入のみなら1,220万円)を超えている場合は配偶者控除の対象外となります。

また、扶養者の所得が900万円以下であれば、被扶養者の年収が103万円を超えていても、150万円までは「配偶者特別控除」が満額適用されます。こちらでも配偶者控除と同額の38万円の控除が受けられるため、103万円の壁を越えることによる影響はありません。

○補足
扶養とは異なりますが、年収103万円以下の場合は派遣社員本人に所得税を支払う義務が発生しません。本人が税金控除を受けられるという点において、年収を103万円以下に抑えるメリットはあるといえます。

106万円の壁:社会保険加入義務が発生する恐れがない

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金が8.8万円(年収106万円)以上
  3. 雇用期間が2か月以上になる見込み
  4. 学生ではない
  5. 事業所の従業員数が101人以上(2024年10月以降は51人以上)

しかし、交通費手当を含んだ年収130万円までの被扶養者は、原則社会保険の扶養の対象となるものの、被扶養者自身が勤める会社によっては上記の5つの要件を満たすと社会保険加入の義務が発生し、被扶養者から外れなければなりません。

なお、従業員数の要件は派遣先企業ではなく、派遣社員の雇用主である派遣会社(派遣元事業主)が対象となります。

130万円の壁:社会保険の扶養対象となる

年収が130万円未満になるように働くことで、被扶養者として扶養者の社会保険に加入し、社会保険料の免除を受けることができます。しかし、「106万円の壁」と同様に年収の対象には交通費手当も含まれるため注意が必要です。

ただし、派遣会社の従業員数や労働時間・雇用期間で下記の条件を満たしたうえで、年収が106万円以上130万円未満であれば扶養から外れ社会保険に加入する必要はありません。

  • 派遣会社の従業員数が100人以下(2024年10月以降は50人以下)
  • 週の所定労働時間が20時間以上かつ雇用期間が2か月を超えない見込み

150万円の壁:扶養者の配偶者特別控除が満額で受けられる

年収150万円までは配偶者特別控除が満額適用となり、年収103万円以下における配偶者控除と同額の控除を受けることができます。しかし、150万円を超えると控除額は徐々に減っていき、201.6万円以上になると配偶者特別控除が受けられなくなります。

なお、控除額は扶養者の合計所得金額によって異なり、所得が1,000万円(給与収入のみなら1,220万円)を超える場合は対象外です。

3. 社会保険の扶養範囲内で働くための条件と注意すべきポイント

扶養範囲内で働きたい派遣社員の多くは、扶養者の社会保険の扶養に入ったまま働くことを意識しているでしょう。

社会保険上の扶養において、派遣社員が意識すべきは「106万円の壁」と「130万円の壁」です。年収130万円を超えると、社会保険料の負担により手取りが大きく減ってしまうことになります。

しかし、年収が130万円未満であっても、上述の条件にすべて当てはまる場合は社会保険の加入義務が発生します。これらの条件を踏まえたうえで、派遣社員が社会保険の扶養範囲内で働くことを希望した場合は、次の2点に注意する必要があります。

派遣会社が社会保険の適用事業所であるか

派遣社員の場合、事業所とは「派遣元の会社」を指します。

  • 派遣会社が適用事業所である場合

    派遣社員が社会保険の扶養に入ったまま働くためには、年収106万円未満となる労働時間に収める必要があります。

  • 派遣会社が適用事業所ではない場合

    派遣社員は年収130万円未満となるように収めることで、社会保険の扶養に入ったまま働くことができます。ただし、社会保険の適用要件は段階的に拡大しており、2024年10月以降は従業員数51人以上の事業所も対象となることに注意が必要です。

週の所定労働時間が20時間以上か

派遣会社が社会保険の適用事業所である場合でも、派遣社員の週の所定労働時間が20時間未満であれば、106万円の壁を気にせずに働くことができます。社会保険加入の義務は、上に挙げた5つの条件をすべて満たす場合において対象となるからです。

所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書に記載されている始業時間と終業時間の間から休憩時間を引いたものをいいます。たとえば派遣社員の雇用契約書において、始業時間が9時、終業時間が16時、休憩時間が60分、勤務日が3日とされている場合、1日の所定労働時間は6時間、週の所定労働時間は18時間です。この例では社会保険加入の条件である「週の所定労働時間が20時間以上」に達しないため、年収130万円以上にならない限りは扶養の対象となります。

4. まとめ

派遣社員が扶養範囲内で働くことを希望した場合は、具体的にどのような目的があるのか、どの範囲での就業を希望しているのか確認する必要があります。多くは社会保険の扶養に入り社会保険料の負担免除を受けることが目的と考えられるものの、派遣会社が社会保険の適用事業所であるか否かにより、意識すべき年収の壁が変わってくることに注意しなければなりません。

年収の壁がいくらになるのか、実際に働ける時間がどのくらいになるのかを計算するのは派遣社員や派遣会社ですが、派遣先企業も両者と綿密にコミュニケーションをとり、派遣社員の適切な労働管理をおこなうことが求められるでしょう。