労働者派遣契約とは?流れや注意点、関連する法律をわかりやすく解説

人材派遣の基礎知識
労働者派遣契約とは?流れや注意点、関連する法律をわかりやすく解説労働者派遣契約とは?流れや注意点、関連する法律をわかりやすく解説

派遣社員の受け入れを希望する企業は、派遣会社との間で労働者派遣契約を締結します。派遣社員ごとに作成する個別契約には労働者派遣法に規定された事項を定めなければならず、派遣先企業としても契約の内容や関連する法律への理解が必要となります。

この記事では「労働者派遣契約」を取り上げ、契約の流れや締結時の注意点、派遣社員の雇用に関する法律についてわかりやすく解説します。
関連記事:労働者派遣の仕組み・請負との違い

目次

  1. 労働者派遣契約とは
    • 基本契約
    • 個別契約
  2. 派遣契約と労働契約の違い
  3. 労働者派遣契約の流れ
    1. 1.基本契約を締結する
    2. 2.派遣会社へ事務所単位の抵触日を通知する
    3. 3.個別契約を締結する
    4. 4.派遣先管理台帳を作成する
  4. 労働者派遣契約を締結する際の注意点
    • 派遣先企業の都合による中途解除
    • 1年以内離職者の受け入れ禁止
    • 無許可事業主からの受け入れ禁止
    • 禁止業務への受け入れ禁止
    • 日雇派遣の受け入れ禁止
    • 期間制限を超えての受け入れ禁止
  5. 派遣社員の雇用に関わる法律
    • 労働契約法
    • 労働者派遣法
  6. まとめ

1.労働者派遣契約とは

労働者派遣契約とは、派遣労働者を雇用する派遣会社と、派遣労働者を受け入れる派遣先企業との間で締結する契約です。派遣社員は派遣会社と労働契約(雇用契約)を結んでおり、派遣先企業との間に雇用関係はありません。派遣先企業の指揮命令下で就業させるためには、派遣会社との労働者派遣契約の締結が必要となります。

労働者派遣契約とは?流れや注意点、関連する法律をわかりやすく解説

労働者派遣契約とは

出典:派遣で働くときに特に知っておきたいこと|厚生労働省

派遣契約では「基本契約」と「個別契約」の2種類の契約を交わすのが一般的です。労働者派遣法で規定されている労働者派遣契約は「個別契約」を指し、その契約内容は法律に則って定める必要があります(派遣法第26条)。

基本契約

派遣契約における基本契約とは、労働者派遣全般に関する基本的な取り決めをまとめたものです。労働者派遣法では基本契約に定める内容について規定されていないものの、基本契約には労働者派遣において共通する普遍的な事項を記載し、派遣社員や就業先によって内容が異なる事項は個別契約に記載するのが一般的です。

基本契約に定める事項の一例を以下にまとめました。

  • 待遇決定方式
  • 損害賠償
  • 機密保持
  • 安全衛生・教育訓練・福利厚生施設の利用
  • 契約解除
  • 禁止事項

など

個別契約

派遣契約における個別契約とは、派遣先企業での業務内容や派遣期間、責任の程度などの取り決めをまとめたものです。派遣社員ごとに結ぶ個別の契約で、労働者派遣法において契約の締結が義務付けられています。

労働者派遣契約(個別契約)に定める事項の一例を以下にまとめました。

  • 派遣料金(交通費・手当を含む)
  • 業務内容
  • 業務に伴う責任の程度
  • 派遣先事業所の名称、所在地、就業場所、組織
  • 指揮命令者に関する事項
  • 派遣期間
  • 始業時刻、終業時刻、休憩時間
  • 安全衛生に関する事項
  • 苦情処理に関する事項
  • 雇用の安定を図るための措置に関する事項

など

2. 派遣契約と労働契約の違い

派遣契約は派遣会社と派遣社員を受け入れる企業との間で締結する契約です。一方、派遣における労働契約とは派遣会社と派遣社員との間で締結する契約であり、期間の定めのある有期労働契約と期間の定めのない無期労働契約があります。派遣の場合、雇用主となる派遣会社が派遣社員と労働契約を結び、給与の支払いや社会保険の手続き、有給休暇の付与などをおこないます。

正社員や契約社員、アルバイトなどの直接雇用においては、就業先の企業と労働者との間で労働契約を結びますが、派遣の場合は派遣会社と派遣先企業との間で派遣契約、派遣会社と派遣社員との間で労働契約という2つの契約が結ばれることになります。

派遣契約と労働契約の違い

出典:労働者派遣を行う際のポイント|厚生労働省

3. 労働者派遣契約の流れ

企業が派遣社員の受け入れを希望する場合、派遣会社との間で労働者派遣契約を結ぶ必要があります。契約の具体的な流れは以下のとおりです。

1.基本契約を締結する

派遣契約においては「基本契約」と「個別契約」の2種類の契約を交わすケースが多く、すべての派遣契約に共通する事項をまとめた「基本契約」から締結します。契約内容に関して法律による規定がないため、派遣会社と派遣先企業との話し合いで基本契約に記載する事項を決められます。契約締結後のトラブルを防ぐためにも、互いに認識のすり合わせをおこなっておくことが大切です。

2.派遣会社へ事務所単位の抵触日を通知する

抵触日とは「派遣受入期間が満了した翌日」のことです。同じ事業所で派遣社員を受け入れられる期間は原則3年の制限があります。例えば、2024年4月1日にはじめて派遣社員を受け入れた場合、3年経過後の2027年4月1日が抵触日となります。派遣期間の上限を超えないよう、派遣先企業は派遣会社へ事業所単位の抵触日を通知する必要があり、この通知がなければ個別契約(労働者派遣契約)を結ぶことはできません。(派遣法第26条4項)

参考:派遣の3年ルールとは?派遣先企業が知っておきたい例外と対策

3.個別契約を締結する

個別契約(労働者派遣契約)は労働者派遣法によって締結が義務付けられており、基本契約とは別に作成する必要があります。派遣社員が従事する業務の内容や就業場所、派遣期間、業務指導を担う指揮命令者など、派遣法に規定されている事項を盛り込んだ契約書を作成します。保管義務について法律での定めはありませんが、下記4.の派遣先管理台帳と共に、派遣期間が終了してから3年間保管しておくのが望ましいでしょう。

4.派遣先管理台帳を作成する

派遣先管理台帳とは、派遣社員の就労実態を記載した書面です。具体的には、派遣社員の氏名や就業場所の所在地、従事した業務の内容、派遣就業した日、始業時刻・終業時刻などを記載します。労働者派遣法に定められている派遣先企業の義務であり、派遣社員ごとに作成する必要があります。また、派遣先管理台帳には保管義務があり、派遣期間が終了した日から3年間保管しなければなりません。

参考:派遣先管理台帳とは?今さら聞けない記載事項や保管・通知方法を解説

4. 労働者派遣契約を締結する際の注意点

労働者派遣契約を締結する際には以下の点に注意が必要です。

派遣先企業の都合による中途解除

原則として派遣契約が終了する前に契約を解除することはできません。しかし、やむを得ない事情で中途解除せざるを得ない状況になった場合、あらかじめ派遣先企業から派遣会社へ契約解除の旨を申し入れること、そのうえで派遣社員の新たな就業機会の確保(自社の関連会社を紹介するなど)に努める必要があります。

なお、労働者派遣契約にも「派遣社員の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項」についての記載が必要です。

1年以内離職者の受け入れ禁止

派遣先企業は、自社を離職して1年以内の者を派遣社員として受け入れることはできません。たとえばA社に正社員として勤務していた労働者が、A社を離職後に派遣会社B社と労働契約を結んだ場合、A社に派遣社員として就業できるのは離職から1年が経過した後となります。派遣社員を受け入れた後に離職後1年以内と判明した場合には、すみやかに派遣会社に通知する必要があります。

なお、元の就業先での雇用形態は正社員に限らず、契約社員やパート、アルバイトでも対象となります。ただし、60歳以上の定年退職者は除外されています。

無許可事業主からの受け入れ禁止

2015年の労働者派遣法の改正により、従来の「一般派遣」「特定派遣」は一本化され、「労働者派遣事業」として統一されました。届出制の特定派遣が廃止となったことで、現在はすべての労働者派遣事業が許可制となっており、派遣先企業は無許可派遣をおこなう事業主から派遣社員を受け入れることはできません。仮に無許可事業主から受け入れた場合は、派遣先企業がその派遣社員に対して労働契約の申込みをしたものとみなされます。これを「労働契約申込みみなし制度」といいます。

参考:労働契約申込みみなし制度について

禁止業務への受け入れ禁止

特定の業務への派遣は法律で禁止されています。派遣される業務の内容を正確に理解することが必要です。派遣法では下記の業務が禁止業務として定められています。

  • 港湾運送業務
  • 建設業務
  • 警備業務
  • 病院等における医療関連の業務
    (紹介予定派遣や産前産後休業の場合などは可能)

参考:派遣禁止業務について

日雇派遣の受け入れ禁止

30日以内の日雇いの派遣は、原則禁止されています。しかし、一部の業務あるいは条件では例外となります。短期間での派遣契約を取り交わす際には、特に注意が必要となります。下記に例外となる業務および条件をまとめました。

以下のいずれかに該当する業務

  • ソフトウェア開発
  • 機械設計
  • 事務用機器操作
  • 通訳、翻訳、速記
  • 秘書
  • ファイリング
  • 調査
  • 財務処理
  • 取引文書作成
  • デモンストレーション
  • 添乗
  • 受付・案内
  • 研究開発
  • 事業の実施体制の企画、立案
  • 書籍などの制作・編集
  • 広告デザイン
  • OAインストラクション
  • セールスエンジニアの営業
  • 金融商品の営業

日雇労働者が以下のいずれかに該当

  • 60歳以上の人
  • 雇用保険の適用を受けない学生
  • 副業として従事する人(生業収入が500万円以上の人に限る)
  • 主たる生計者以外の人(世帯収入が500万円以上の人に限る)

引用:労働者派遣を行う際の主なポイント

期間制限を超えての受け入れ禁止

派遣社員を同事業所の同部署に3年以上派遣することは原則として禁止されています。「派遣の3年ルール」とも呼ばれ、「事業所単位の期間制限」と「個人単位の期間制限」があるため、それぞれの期間制限に注意が必要です。

期間制限を超えて派遣社員を受け入れている場合、派遣法に抵触しペナルティの対象となり、違反の是正勧告に従わない際には企業名が公表されることがあります。

参考:派遣の3年ルールとは?派遣先企業が知っておきたい例外と対策

5. 派遣社員の雇用に関わる法律

派遣社員の雇用に関わる法律として「労働契約法」と「労働者派遣法」があります。これらは定期的に法改正がおこなわれているため、法律の概要とともに派遣に関わる改正点も押さえておくことが大切です。

労働契約法

労働契約法とは、労働契約の締結や労働条件の変更、労働契約の終了などについてのルールを定めた法律です。2012年の法改正では無期労働契約への転換ルールが設けられ、2013年4月より始まっています。これは同じ使用者との間で通算5年を超えて有期労働契約が更新された場合、派遣社員自身の申込みによって無期労働契約に転換できるというルールです。

労働者派遣法

労働者派遣法とは、派遣社員の保護と雇用の安定を図るために定められた法律です。2015年の法改正では派遣期間の制限ルールが設けられ「事業所単位の期間制限」「個人単位の期間制限」の2つが適用されています。

また、2020年の法改正では「同一労働同一賃金」を実現するために、派遣社員の賃金の決定において「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のどちらかを選択することが義務付けられました。派遣会社が「派遣先均等・均衡方式」を選んだ場合、派遣先企業は比較対象労働者の待遇に関する情報を提供する義務があります。

参考:【2024年最新版】労働者派遣法改正のポイントをわかりやすく紹介

6.まとめ

企業が人材派遣を利用する場合、派遣会社との間で労働者派遣契約の締結が必要となります。一般的に「基本契約」と「個別契約」の2つの契約を交わしますが、労働者派遣法に定められている労働者派遣契約は「個別契約」を指し、契約書の記載内容も派遣法で規定されています。派遣契約を結ぶ際には派遣先企業としても注意すべき事項が多く、労働契約法や労働者派遣法など派遣社員の雇用に関連する規定についても理解を深めておく必要があるでしょう。

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