派遣切りとは?意味や違法性、企業の対処法を解説

人材派遣の基礎知識
派遣切りとは?意味や違法性、企業の対処法を解説派遣切りとは?意味や違法性、企業の対処法を解説

ネガティブなイメージが強い「派遣切り」。2008年のリーマンショックをきっかけに使われるようになった言葉で、契約の打ち切りや雇い止め、解雇によって派遣社員が働けなくなることを意味します。

派遣切りがおこなわれる要因にはさまざまな事情が考えられますが、派遣社員本人の問題だけでなく、企業側の都合で中途解除や解雇に踏み切ることもあります。派遣先企業の事情で契約を解除せざるを得ない状況になった場合、派遣社員や派遣元企業に対してどのような対応が必要になるのでしょうか。

この記事では「派遣切り」を取り上げ、言葉の意味や違法性、やむを得ず契約解除となる場合に企業がとるべき対応を詳しく解説します。

目次

  1. 派遣切りとは
  2. 派遣切りが注目された背景
    • リーマンショック
    • 同一労働同一賃金
    • コロナ禍の不況
  3. 派遣切りに違法性はあるのか?
    • 派遣先企業からの契約解除
    • 派遣元企業からの契約解除
    • 自主退職を促す場合
  4. 派遣切りの理由
    • 派遣社員に原因
    • 派遣先企業の経営悪化
    • 3年ルールの回避
  5. 派遣切りにおける企業の対処法
    • 派遣元企業への申し入れ
    • 新たな就業機会の確保
    • 就業先の確保が難しい場合の措置
  6. まとめ

1.派遣切りとは

派遣切りとは、派遣期間の途中で契約を解除されたり、契約の更新を拒否されたりして、派遣社員が派遣先企業で就業できなくなる状態をいいます。

派遣の仕組みとして、派遣先企業と派遣元企業が結ぶ企業間の契約(労働者派遣契約)と、派遣社員と派遣元企業が結ぶ労働契約があります。厚生労働省の資料によると、いわゆる「派遣切り」に該当するのは企業間で締結している派遣契約を途中で打ち切ることであり、派遣社員と派遣元企業との間で締結している労働契約の解除は「解雇」にあたるとされています。

参考:いわゆる「派遣切り」と「解雇」との関係|厚生労働省

この記事では「派遣切り」を取り上げ、言葉の意味や違法性、やむを得ず契約解除となる場合に企業がとるべき対応を詳しく解説します。

派遣切りとは?意味や違法性、企業の対処法を解説

2.派遣切りが注目された背景

派遣社員の意思とは関係なくおこなわれる「派遣切り」。派遣切りという言葉が使われるようになったきっかけや、この言葉が世間から注目を集めた背景として以下が挙げられます。

リーマンショック

2008年にアメリカの投資銀行大手リーマンブラザーズが破綻し、世界的な金融危機が発生しました。いわゆる「リーマンショック」と呼ばれる事象です。日本でも製造業を中心に派遣社員や契約社員といった非正規社員の雇用を打ち切る動きが相次ぎ、「派遣切り」という言葉が使われるきっかけとなりました。また、職を失った人たちのために開設された宿泊所「年越し派遣村」の報道などもあり、社会的にも「派遣切り」という言葉が広く認知されるようになりました。

同一労働同一賃金

2008年のリーマンショックを機に使われるようになった「派遣切り」という言葉は、その後の「同一労働同一賃金」の開始によって再び注目を集めることになります。派遣社員の同一労働同一賃金は、2020年4月施行の改正労働者派遣法に規定されており、派遣先の社員と派遣社員との不合理な待遇差を解消するための制度です。簡単にいうと「同じ仕事をしていれば雇用形態にかかわらず同じ賃金を支払うべき」というものですが、派遣社員に対しても自社の社員と同様の待遇をおこなうことが、かえって派遣切りを引き起こす要因になるとの見方もあります。

関連記事:派遣労働者の「同一労働同一賃金」について

コロナ禍の不況

コロナ禍における不況も派遣切りの問題を引き起こしています。2020年に流行した新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、不況のあおりを受けた多くの派遣社員が派遣切りに遭いました。リーマンショックの時期と同様に、景気悪化に陥った際にはまず派遣社員や契約社員、パート、アルバイトなどの非正規労働者に影響が及びやすく、契約が更新されずに雇い止めや解雇となってしまう現状があります。加えて、コロナ禍では製造業以外でも需要が急減し、さまざまな業界・業種に影響が生じました。

3. 派遣切りに違法性はあるのか?

広義には派遣先企業からの契約解除も派遣元企業からの契約解除も「派遣切り」に該当します。派遣先企業または派遣元企業が契約期間満了前に契約を打ち切った場合、その行為は違法となるのでしょうか。

派遣先企業からの契約解除

派遣先企業が、派遣元企業との間で結んでいる労働者派遣契約を中途解除する場合、それが直ちに違法になることはありません。厚生労働省が提示している「派遣先が講ずべき措置に関する指針」には、派遣契約を中途解除する場合の就業機会の確保について定められています。社会通念上、契約期間満了までは契約を継続するのが望ましく、安易な中途解除は避けるように求められていますが、派遣先企業の事情によってやむを得ず契約解除をおこなう場合は、派遣社員の雇用を守るために必要な措置を講じる必要があります。

なお、派遣先企業側の事情ではなく、派遣社員自身に契約解除に相当する理由がある場合には上記の措置は適用されません。

参考:派遣先が講ずべき措置に関する指針|厚生労働省

派遣元企業からの契約解除

派遣元企業が、派遣社員との間で結んでいる労働契約を中途解除する場合、その行為が違法となるケースもあります。派遣先企業と結ぶ労働者派遣契約が解除されたとしても、直ちに派遣社員を解雇できるわけではありません。企業が一方的に契約を終了する「解雇」をおこなうには、社会通念上相当であると認められるような合理的理由が必要となり、企業が望むときにいつでもおこなえるものではないのです。

また、期間を定めて働く派遣社員の場合、やむを得ない事由がない限り解雇することはできないとされています。事前に派遣社員と派遣元企業との間で契約期間の取り決めをおこない、双方の同意のもとで就業しているため、契約期間満了前の解雇については期間の定めのない契約よりも厳しくなります。

参考:労働契約の終了に関するルール|厚生労働省

派遣元企業から契約解除の申し出をする際には、以下の点に留意する必要があります。

30日前の解雇通知

企業は労働者を解雇するとき、少なくとも30日前に解雇予告をしなければなりません。仮に30日前までに解雇予告ができない場合には、解雇までの日数に応じて解雇予告手当を支給する必要があります。たとえば解雇の20日前に予告したときは10日分の手当、10日前に予告したときは20日分の手当、解雇日までに予告をしないときは30日分の手当を支払うことになります。このため、派遣元企業が事前に契約解除を通知せず、必要な手当も支給しない場合、派遣元企業側の違法性が高くなると考えられます。

解雇にあたる合理的な理由

期間の定めの有無にかかわらず、労働者の解雇にあたっては「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。たとえば正当な理由のない無断欠勤を何度も繰り返している場合、会社から指導を受けた後も頻繁に繰り返すのであれば合理的な解雇理由になるといえます。反対に「客観的に合理的な理由」「社会通念上の相当性」の2点が認められない場合には違法性が高くなります。特に有期労働契約における解雇は厳しく、やむを得ない事由がなければ契約期間の途中で打ち切ることはできません。

有期労働契約の雇い止め

有期労働契約において、3回以上契約を更新している、または1年を超えて継続勤務している派遣社員の契約を更新しない場合には、少なくとも契約期間満了日の30日前までにその旨を予告する必要があります。

自主退職を促す場合

派遣契約や労働契約の中途解除にあたっては企業側の違法となるリスクを伴うため、派遣社員に対して自主退職を促すケースもみられます。自社のリスクを避けるために契約解除の申し入れをおこなわず、派遣社員自身に退職の判断をしてもらおうとする行為です。しかし、労働者の退職を促すような言動は違法となるおそれがあり、実際に過去の裁判で長時間・多数回にわたる退職勧奨行為が違法と判断されたケースもあります。

4. 派遣切りの理由

派遣切りはどのようなときに実行されるのでしょうか。ここでは、派遣先企業や派遣元企業が派遣切りをおこなう理由をご紹介します。

派遣社員に原因

派遣切りがおこなわれる理由としては、企業側の事情だけでなく、派遣社員本人に原因があるケースもあります。たとえば、正当な理由のない遅刻や欠勤を頻繁に繰り返す、上司の業務指示をまったく聞かない、業務を遂行するうえで著しくスキルが不足しているなど、派遣社員の勤務態度や能力に問題がある場合です。これらに該当する場合は契約解除の理由としても合理的と判断されやすく、派遣切りの対象となる可能性があります。

派遣先企業の経営悪化

派遣先企業の経営悪化を理由に派遣切りがおこなわれることもあります。人件費の削減においては正社員よりも先に、非正規労働者である派遣社員や契約社員、パート、アルバイトなどから契約を打ち切るケースが多いからです。派遣社員の就業機会の確保など必要な措置を講じる必要はあるものの、派遣先企業が派遣切りをしても直ちに違法とはならないため、自社の経営状況を理由に人員整理をおこないやすいといえます。

3年ルールの回避

同じ事業所で3年を超えて働くことができない、いわゆる「3年ルール」を回避する目的で派遣切りがおこなわれることもあります。派遣の3年ルールは2015年の労働者派遣法改正で新設されたもので、派遣社員の雇用の安定とキャリアアップを図ることが目的です。

3年ルール適用後の対応としては、該当する派遣社員を別の部署に異動させる、直接雇用に切り替える、無期雇用契約を締結するといった複数の選択肢が考えられます。しかし、いずれにしても企業にとっては多かれ少なかれリスクやコストを伴う選択となるため、3年が経過するタイミングで派遣切りをおこない、3年ルールから逃れようとするケースが見受けられます。

関連記事:派遣の3年ルールとは?派遣先企業が知っておきたい例外と対策

5. 派遣切りにおける企業の対処法

上述のように、派遣社員の仕事ぶりに問題がなかったとしても、企業側の事情で派遣切りをせざるを得ない状況になることも考えられます。このときに適正な対応をとらなければ、大きなトラブルに発展する可能性もあります。やむを得ない事情で契約解除をすることになった場合、派遣先企業としてどのような対応をとるべきなのでしょうか。

派遣元企業への申し入れ

派遣先企業が労働者派遣契約の中途解除を要望する場合、あらかじめ派遣元企業に解除の申し入れをおこなう必要があります。具体的な日数は規定されていないものの「相当の猶予期間」をもって通知し、派遣元企業からの同意を得なければなりません。

新たな就業機会の確保

派遣先企業は契約の中途解除に伴い、派遣社員の新たな就業機会の確保を図る必要があります。具体的には、自社のグループ会社で就業先を探して紹介するなど、中途解除となった派遣社員が次の職場にスムーズに移行できるような働きかけが求められます。就業機会の確保は派遣元企業にも求められる事項であり、派遣切りをおこなう際には派遣元企業と派遣先企業が連携して対応にあたることになります。

就業先の確保が難しい場合の措置

派遣社員の就業先を確保できないときは、中途解除をおこなう日の少なくとも30日前までに派遣元企業に予告する必要があります。仮に予告をしない場合や、予告をした日から中途解除日までの期間が30日に満たない場合には、派遣社員の賃金相当分を損害賠償として支払わなければなりません。

また、派遣先企業は派遣切りをおこなった理由を派遣元企業から求められることも考えられます。この場合は派遣元企業からの要望に応じ、中途解除の理由を明らかにする必要があります。

6.まとめ

派遣切りとは、契約期間が終わる前に契約を打ち切ったり、更新拒否や解雇をおこなったりして、派遣社員が職を失うことを指します。派遣先企業が派遣契約の中途解除を申し出る場合、それが即座に違法になることはありませんが、派遣社員の雇用の安定を図るための措置が必要となります。

安易な中途解除は避けるべきですが、派遣先企業の経営悪化による人員整理など、やむを得ない事情で派遣切りをおこなうことも考えられます。この場合には派遣元企業への申し入れとともに、派遣社員が新たな就業機会をスムーズに確保できるよう、派遣元と連携しながら対応していく必要があります。派遣先が講ずべき措置に関する指針を参考に正しい知識を理解し、派遣切りによるトラブルを事前に予防することが大切です。