派遣社員がパワハラを受けた場合の派遣先企業の対応について解説

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派遣社員がパワハラを受けた場合の派遣先企業の対応について解説派遣社員がパワハラを受けた場合の派遣先企業の対応について解説

新聞やニュースなどで度々報じられるパワハラ問題。自社で受け入れている派遣社員がパワハラの被害者となった場合、派遣先企業としてはどのような対応をとる必要があるのでしょうか。この記事では「パワハラ問題」を取り上げ、派遣社員が受けやすいパワハラ行為の具体例や派遣先企業がとるべき対応について詳しく解説します。

目次

  1. パワハラ(パワーハラスメント)の定義
    • 優越的な関係を利用している
    • 業務上必要かつ相当な範囲を超えている
    • 労働者の就業環境を害している
  2. 派遣先で受けるパワハラ行為の具体例
    • 正社員による差別的な言動
    • 飲み会への参加強要
    • 契約打ち切りをにおわす行為
  3. 派遣社員へのパワハラに対して派遣先企業がとるべき対応
    • 事実関係の確認
    • 被害者に対する適正な配慮
    • 行為者に対する処分の検討
    • 再発防止策の検討・実施
  4. すべての労働者に適用されるパワハラ防止法
    • 派遣元・派遣先の双方を「事業主」とみなす
    • 事業主・労働者に対する責務規定
    • 事業主に義務付けられる措置
  5. ハラスメントと派遣先の措置義務
    • セクハラ防止措置
    • 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止措置
    • 相談に応じ対応するために必要な体制の整備
  6. まとめ

1.パワハラ(パワーハラスメント)の定義

パワハラ(パワーハラスメント)とは、優位な立場を利用して他者に苦痛を与える行為のことです。厚生労働省は職場におけるパワハラを以下のように定義しています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であって、
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

上記3点をすべて満たすものがパワハラ行為とみなされます。

パワハラ(パワーハラスメント)の定義

参考:職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!|厚生労働省

①優越的な関係を利用している

職場のパワハラ行為には、行為者に対して抵抗・拒絶ができない優越的な関係が背景にあるとされています。職務上の地位の高さや個人が有する専門知識、豊富な実務経験などの優位性を利用しておこなわれるもので、上司・先輩による言動だけでなく、同僚や部下・後輩による言動も含まれます。

②業務上必要かつ相当な範囲を超えている

職場のパワハラ行為に該当するのは、業務上の必要性が認められず、業務の目的を明らかに逸脱している言動です。仮に労働者側(行為を受ける側)に問題があった場合も「業務上必要かつ相当な範囲」を超える言動はパワハラとみなされます。

ただし、業務指導を受けた労働者がその言動や方法に不満を感じたとしても、客観的にみて「業務上必要かつ相当な範囲」の指導であればパワハラ行為に該当しません。

③労働者の就業環境を害している

暴力による傷害や執拗な叱責・暴言、人格を否定する言動など、身体的もしくは精神的な苦痛を与える行為により、労働者の就業に支障が生じている状態を指します。パワハラに該当するかどうかは「平均的な労働者の感じ方」を基準とし、社会一般の労働者が同じ行為を受けた場合にどう感じるかという視点から判断します。

2.派遣先で受けるパワハラ行為の具体例

派遣社員は派遣会社と雇用契約を結びますが、実際に就労するのは紹介を受けた派遣先の企業です。派遣先の社員と一緒に働くなかで、派遣社員が受けるパワハラ行為にはどのようなものが考えられるのでしょうか。

【1】正社員による差別的な言動

派遣社員が受けるパワハラ行為の一例として、職場内の優位性を利用した差別的な言動が挙げられます。一般的に正社員のほうが責任の重い仕事を担うケースが多いため、派遣社員よりも優位な立場にいると認識している人は少なくないでしょう。こうした職務上の地位を利用し、正社員と派遣社員との間に明確な差をつけ、派遣社員を見下すような言動をとることがあります。

また、派遣社員は派遣先の企業で業務にあたりますが、派遣社員と派遣先との間に雇用関係はありません。自社の社員ではないからといって「派遣さんだから」「外部の人だから」と社内の集団から仲間外れにする行為もパワハラにあたる可能性があります。

関連記事:派遣社員の働く意欲を高める社内コミュニケーションの方法とは

【2】飲み会への参加強要

派遣先で開かれる飲み会において、優位な立場を利用し派遣社員に無理やり参加させるような行為もパワハラに該当する可能性が高いでしょう。社員と親睦を深める目的があったとしても、飲み会への参加が「業務上必要」とまではいえない可能性があります。これは派遣社員に限ったことではなく、自社の社員であっても業務に関係のない社内行事・イベントへの参加を強制することはできません。

【3】契約打ち切りをにおわす行為

派遣社員は正社員よりも契約の打ち切りに遭いやすい立場にあります。こうした劣位性を利用し、派遣社員にとって不利な処分をにおわせながら自身の要求を通そうとする言動はパワハラとみなされる可能性が高いでしょう。

なお、派遣先にとってやむを得ない事情がない限り、派遣契約を中途解約することはできません。仮に解約せざるを得ない状況になった場合には、派遣社員の新たな就業機会の確保を図るなど、派遣先として講ずべき措置をとる必要があります。

関連記事:労働者派遣契約とは?流れや注意点、関連する法律をわかりやすく解説

3.派遣社員へのパワハラに対して派遣先企業がとるべき対応

派遣社員に対するパワハラが発覚した場合、派遣先企業としてどのような対処が必要となるのでしょうか。ここでは派遣先がとるべき対応をご紹介します。

●事実関係の確認

派遣社員からパワハラの相談を受けたら、まずは相談者と行為者の双方から事実関係を確認します。被害の継続・拡大を防ぐために、パワハラ事案に対して誰がどのように対応するかあらかじめ決めておき、相談があればすぐに調査を開始することが大切です。

双方の主張が異なる場合は第三者からの聴取もおこない、事実関係を正確に把握する必要があります。聞き取りの結果、パワハラに該当しないと判断した場合も、誤解を招くような言動に対しては行為者への注意・指導をおこないます。

●被害者に対する適正な配慮

事実関係を確認し、職場におけるパワハラ行為が把握できた場合には、速やかに被害者に対する適正な配慮をおこないます。行為者からの謝罪を促す、双方の関係改善に向けてサポートする、双方を引き離すために部署異動を提案するなど、パワハラの内容や状況、被害者の心情に寄り添った個別の対応が求められます。

パワハラ行為の内容によっては、事実確認の完了に時間がかかることもあります。すべての確認を終える前であっても、必要に応じて上記の配慮をおこない、被害の拡大を防ぐことが大切です。

●行為者に対する処分の検討

パワハラの事実が確認できたら、行為者に対する処分を検討します。パワハラ行為の内容や回数、経緯などを考慮したうえで、自社の就業規則に基づく適正な措置を講じる必要があります。あわせて、当該行為がパワハラに該当する理由や、それによって引き起こされる問題を行為者に理解させることが重要です。

パワハラ問題の解決は当事者にゆだねるのではなく、派遣先・派遣元の双方が事業主としての責任を負い、真摯に取り組まなければなりません。また、行為者に対しては同様の問題を繰り返させないよう、継続的なフォローが必要です。

●再発防止策の検討・実施

パワハラ行為を当事者だけの問題で終わらせず、会社全体の問題として再発防止に努める必要があります。パワハラの事実が確認できなかった場合も、現行のパワハラ防止策を再点検し、必要に応じて見直しをおこないます。

具体的には、パワハラの発生原因に応じた防止策を検討する、ハラスメントに関する事業主の方針を全従業員に再確認させる、ハラスメントへの理解を深めるための研修を導入するなど、自社に必要な再発防止策を検討・実施します。

4.すべての労働者に適用されるパワハラ防止法

大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から施行されているパワハラ防止法。事業主に対しパワハラ防止措置を義務付ける法律であり、正社員に限らず派遣社員や契約社員、パート、アルバイトなどすべての労働者が対象となります。

派遣元・派遣先の双方を「事業主」とみなす

派遣社員と派遣先との間に雇用関係はありませんが、パワハラ防止法では派遣元・派遣先の双方を「事業主」とみなします。派遣先としても派遣社員へのパワハラを防ぐとともに、被害が発覚した場合には適切な対応をとらなければなりません。

パワハラに限らず、セクハラやマタハラなど他のハラスメントに関しても、派遣元と派遣先が同時に「事業主」とみなされる点に注意が必要です。

事業主・労働者に対する責務規定

パワハラ防止法では事業主・労働者の双方に以下の責務を課しています。

さらに国の責務として、ハラスメントに関する関心と理解を深めるための啓発に努めることを規定しています。

事業主に義務付けられる措置

職場のパワハラ防止に際し、厚生労働省は以下の4点を事業主が講ずべき措置として義務付けています。

  1. 事業主の方針の明確化と周知・啓発
  2. 相談に応じ適切に対応するための体制整備
  3. ハラスメントへの事後の対応
  4. プライバシー保護、不利益な取り扱いの禁止

派遣元と同様に「事業主」である派遣先も、これらの措置を必ず実施しなければなりません。加えて、適正な業務体制の整備やコミュニケーションの活性化など、パワハラの原因を解消するための取り組みも積極的に実施していくことが求められています。

5.ハラスメントと派遣先の措置義務

派遣先企業はハラスメント防止のために、適切な措置を講じる法的義務を負っています。これには、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産、育児休業に関するハラスメント防止、また相談体制の整備が含まれます。以下に、それぞれの措置について詳しく解説します。

セクハラ防止措置

派遣先企業は、セクシュアルハラスメント防止のため、具体的な方針を策定し、全従業員に徹底的に周知する義務があります。セクハラ行為を許さない方針を明確にし、行為者に対しては厳正な処分を行うことを就業規則などに規定します。また、相談窓口の設置や迅速な対応体制を整備し、被害者のプライバシー保護や不利益な取扱いの防止が求められます。

妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止措置

妊娠や出産、育児休業に関するハラスメントを防止する措置も法的義務として明記されています。他のハラスメント防止措置に加え、妊娠や出産、育児休業に関する否定的な言動がハラスメントの原因になる可能性があること、そして、制度利用が可能であることを周知・啓発する必要があります。さらに、派遣先企業は労働者に対して、適切な業務体制を整え、必要に応じた配慮を行うことも求められます。

関連記事:派遣社員は産休を取得可能?条件や契約、方法について解説

相談に応じ対応するために必要な体制の整備

派遣先企業は、ハラスメントに関する相談に適切に対応するための体制を整備することが義務付けられています。相談窓口を設置し、その存在を従業員に周知することが必要です。さらに、相談担当者が適切に対応できるよう研修を行い、ハラスメントの発生が疑われる場合やそのリスクがある場合にも迅速に対応する体制を整えることが求められます。

6.まとめ

派遣社員からパワハラの相談があった場合、派遣先企業としては「①事実関係の確認」「②被害者に対する適正な配慮」「③行為者に対する処分の検討」「④再発防止策の実施」の4点に取り組む必要があります。派遣社員との間に雇用関係はなくても、パワハラ防止法においては派遣元・派遣先の双方が「事業主」としての対応をとらなければなりません。

パワハラは従業員の活力を奪い、個人の尊厳を傷つける許されない行為です。会社全体の問題として全従業員を対象に防止策を実施し、パワハラが起こらない・起こさせない職場をつくることが大切です。

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