派遣社員の交通費はどうする?取り扱いの注意点を詳しく解説

人材派遣の基礎知識
派遣社員の交通費はどうする?取り扱いの注意点を詳しく解説派遣社員の交通費はどうする?取り扱いの注意点を詳しく解説

派遣労働者の同一労働同一賃金の実現に向けた改正労働者派遣法が2020年に施行されたことにより、派遣社員の交通費は、正社員と比較した際に生じる不合理な待遇差の解消が必要となりました。交通費は給与の手取り総額に関わるため、細かな金額のミスが思わぬトラブルに発展しかねません。担当者としては派遣社員の交通費とはどのようなものか基本を理解したうえで、その取り扱いに十分に注意する必要があります。

この記事では、派遣社員の交通費の取り扱いについて、担当者が押さえておくべき知識をわかりやすく解説します。
関連記事:派遣社員にボーナスは出る?賞与の決め方をわかりやすく解説

目次

  1. 派遣社員の交通費とは?基本を確認
    • 「労働者派遣法」の改正
    • 賃金の決定方法
    • 派遣元企業に提供する待遇情報
  2. 派遣社員の交通費の決定方法
    • 類型①:実費支給のケース
    • 類型②:定額支給のケース
    • 補足:局長通達以外の統計データを使用する場合
  3. 派遣社員の交通費を決定する際の注意点
    • 注意点①:社会保険料が変動する可能性
    • 注意点②:納税額が変動する可能性
    • 注意点③:派遣社員に対する説明義務
  4. まとめ

1.派遣社員の交通費とは?基本を確認

2020年の法改正を機に、派遣社員にも交通費が支払われるようになりました。これまで派遣社員の交通費は給与(時給)に含むものとして取り扱われてきましたが、派遣先企業の社員に対して交通費が支払われている場合、派遣社員に対しても給与とは別の手当として支給されることになります。

まずは派遣社員の待遇について、以下の基本事項を押さえておきましょう。

派遣社員の交通費とは?基本を確認

「労働者派遣法」の改正

労働者派遣法とは、派遣社員の権利を守ることを目的とする法律です。派遣社員の待遇改善を目指して改正が繰り返されており、交通費の取り扱いに関しては2020年4月施行の改正労働者派遣法に規定されています。

2020年4月の法改正では、派遣社員と正社員との間の不合理な待遇格差を許容しないことが明確に定められました。たとえば正社員に交通費が支給される職場において、派遣社員に交通費が支給されないという取り扱いは違法となります。これは有期派遣・無期派遣ともに対象に含まれます。

この改正の結果、基本給や賞与、退職金についても派遣社員と正社員との格差をなくさなければなりません。加えて、食堂や更衣室といった社内施設の利用や業務遂行に必要な教育訓練の実施など、福利厚生の面でも待遇格差を設けないことが定められています。

関連記事:【2024年最新版】労働者派遣法改正のポイントをわかりやすく紹介

賃金の決定方法

派遣社員の賃金の決定方法として以下の2つの方式が規定されています。どちらの方式を採用するかは、派遣社員の雇用主である派遣元企業(派遣会社)が決定します。

  • 方式①「派遣先均等・均衡方式」

    派遣先均等・均衡方式とは、派遣社員の待遇を派遣先企業の社員と同等にする方式です。この方式を採用する場合、雇用関係にある派遣元企業ではなく、実際に就業する派遣先企業の水準に合わせなければなりません。このため、派遣先企業が変わるごとに、派遣社員の待遇も変わる点に注意が必要です。
    また、派遣先企業は派遣元企業に対して、比較対象社員の賃金など待遇面の情報提供をおこなう義務があります。派遣契約の途中で該当社員の待遇に変更があった場合も、速やかに派遣元企業に情報を伝えなければなりません。

    【派遣先企業の義務】

    • 比較対象となる社員の待遇情報を派遣元企業に提供する

    【派遣元企業の義務】

    • 提供された情報をもとに派遣社員の待遇を検討・決定する
    • 待遇情報や就業条件について派遣社員に説明する
  • 方式②「労使協定方式」

    労使協定方式とは、同地域で働く同職種の労働者の平均賃金と比べたときに、賃金水準が同等かそれ以上となるように設定する方式です。派遣社員を含む過半数労働組合(これがない場合は過半数労働者)と派遣元企業が労使協定を書面で締結し、派遣社員の待遇を決定します。この方式では職種が変わらない限り、同一の待遇が継続されます。
    派遣社員の待遇を決定する際は、賃金構造基本統計調査や職業安定業務統計などのデータを参照する必要があります。これらのデータは毎年更新されるため、自社の賃金水準も毎年修正しなければなりません。

    【派遣先企業の義務】

    • 比較対象となる社員の待遇情報を派遣元企業に提供する

    【派遣元企業の義務】

    • 最新の統計データを確認し、労使協定を締結する
    • 労働者と行政に対し労使協定を周知する
    • 待遇情報や就業条件について派遣社員に説明する

参考資料:
令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省

参考資料:
職業安定業務統計|厚生労働省

関連記事:派遣労働者の「同一労働同一賃金」について

派遣元企業に提供する待遇情報

派遣先企業は派遣元企業に対し、以下の情報を提供する必要があります。

派遣先均等・均衡方式の場合

  • 比較対象社員の選定理由
  • 比較対象社員の職務に関する情報(職務内容や配置変更の範囲、雇用形態など)
  • 比較対象社員の待遇に関する情報(待遇内容や性質、目的など)

労使協定方式の場合

  • 派遣社員と同種の業務に従事する社員に対しておこなう教育訓練に関する情報
  • 食堂や休憩室、更衣室など自社の福利厚生施設に関する情報

情報提供の方法としては、書面の交付やファクシミリ、電子メールなどがあります。派遣先企業は提供した書面などの写しを保存しなければならず、その期間は派遣が終了した日から3年間とされています。

参考資料:平成30年労働者派遣法改正の概要|厚生労働省

2.派遣社員の交通費の決定方法

派遣社員の交通費の金額はどのように定めるべきなのでしょうか。労使協定方式においては、労使の話し合いによって「実費支給」と「定額支給」のどちらかを選択します。ここでは2つの類型別に、交通費の計算方法をご紹介します。
なお、派遣先均等・均衡方式の場合、計算方法は派遣先企業の規定によるものとなります。統一的な計算方法は存在しないため、ここでは割愛します。

類型①:実費支給のケース

交通費を実費支給する場合、自宅から就業先(=派遣先企業)までの通勤距離や通勤手段に応じて金銭を支払う形になります。このとき、支給額の上限の有無によって、派遣社員に支払われる交通費も変動します。

  • <支給額に上限がない場合>

    上限金額が設けられていなければ、自宅から就業先へ行くまでに実際にかかった費用を、勤務日数に応じて実費で支払われることになります。

  • <支給額に上限がある場合>

    上限金額が設けられている場合、以下の計算式を用いて算出します。

【計算式】
72円 × 1日の所定労働時間 × 1週間あたりの所定労働日数 × 52週 ÷ 12か月

計算式中の「72円」は2024年度からの一般通勤手当です。実費支給する際には一般通勤手当(72円)と同等以上を確保しなければなりません。この金額は年度ごとの改定となるため、毎年度確認する必要があります。

参考資料:職 発 0 8 2 9 第 1 号 令和5年8月 29日 各都道府県労働局長 殿 厚生労働省職業安定局長

上記の計算式を用いて、フルタイムで働く派遣社員に対する交通費の支給ラインを算出します。

【算出例:週5日・1日8時間勤務するケース】
 72円 × 8時間 × 週5日 × 52週 ÷ 12か月 = 1万2,480円

このケースでは「1万2,480円」を最低ラインとし、実際にかかった交通費が支給されることになります。各月の上限額が1万2,480円未満の場合には、協定対象となる派遣社員に支給する交通費を「1万2,480円と同等以上」にしなければなりません。

類型②:定額支給のケース

実際にかかった交通費を実費で支払う実費支給に対し、決まった金額を一律で支給するのが定額支給です。実費支給と同様に、定額支給の最低ラインも一般通勤手当を基準に算出した金額であり、以下の計算式を用いて算出します。

【計算式】
72円 × 1日の所定労働時間 × 1週間あたりの所定労働日数 × 52週 ÷ 12か月

つまり、フルタイムで働く派遣社員(週5日・1日8時間勤務)のケースで考えると、上記の計算式によって「1万2,480円」を最低ラインとし、各月に1万2,480円以上を定額支給する必要があります。

補足:局長通達以外の統計データを使用する場合

上記は局長通達の統計データを使用する場合の方法であり、必ずしもこの統計を使わなければならないということではありません。厚生労働省の資料によると、以下のいずれかの条件を満たすものは局長通達統計に代えて使用できるとしています。

  • 国または地方公共団体が作成した公的統計を用いる場合
  • 集計項目ごとに実標本数を一定数以上確保するよう標本設計し、無作為抽出で調査を実施する場合

参考資料:改正労働者派遣法の概要について|厚生労働省

3. 派遣社員の交通費を決定する際の注意点

派遣社員に交通費を支給する際は、以下の点に注意する必要があります。

注意点①:社会保険料が変動する可能性

社会保険料の計算では、労働者に支給される報酬から「標準報酬月額」を設定し、それをもとに保険料の金額を算出します。標準報酬の対象は基本給と各種手当であり、そのなかに交通費も含まれています。

【標準報酬の対象】

  • 基本給
  • 交通費
  • 役付手当
  • 勤務地手当
  • 家族手当
  • 住宅手当
  • 残業手当
  • 年4回以上の賞与
など

社会保険料を算出する際、交通費も標準報酬として合算されます。これは交通費が実費支給であっても、給与に含まれる場合であっても同様の取り扱いとなります。社会保険料の金額は収入額によって決まるため、交通費を支給することで場合によっては社会保険料がアップしてしまう可能性があります。

参考資料:標準報酬月額・標準賞与額とは?|全国健康保険協会

注意点②:納税額が変動する可能性

交通費の支給によって納税額が変動する可能性もあります。交通費が時給に含まれている場合、交通費も「給与所得」として扱われ、支給総額が課税対象となります。給与の支給総額が多くなれば、課税対象となる金額が増えることになるため、所得税や住民税の金額に影響が及ぶと考えられます。場合によっては、配偶者控除や扶養などの非課税対象者から外れてしまうことがあるため、細かな金額の変化にも注意しなければなりません。

一方、交通費が時給に含まれておらず実費で支給される場合、1カ月当たり15万円までは非課税となります。これは「交通機関または有料道路を利用している人に支給する通勤手当」の最高限度額であり、自動車や自転車を使って通勤する場合には就業先までの通勤距離に応じて非課税限度額が決められています。交通費がこれらの限度額を超える場合には、超えた部分のみが課税対象となります。

なお、不自然に遠回りをするような通勤経路や通勤方法は対象外となることに注意が必要です。行きと帰りで通勤経路や方法が異なっていても、それが「合理的」と判断されており、雇用主から交通費が支給される場合には問題ありません。

参考資料:通勤手当の非課税限度額の引上げについて|国税庁

参考資料:No.1191 配偶者控除|国税庁

注意点③:派遣社員に対する説明義務

2020年の法改正により、派遣社員の待遇に関する説明義務が強化されました。派遣先均等・均衡方式と労使協定方式のどちらを採用する場合も、待遇や就業条件について派遣社員に説明する義務があります。これは派遣元企業に求められる義務であるものの、自社の待遇情報を提供する派遣先企業としても理解しておくべき事項です。

  • 雇入れ時・派遣時

    派遣社員を雇い入れるとき、就業先が決まったときに、派遣元企業は交通費の取り扱いを含めた待遇について説明する義務があります。派遣社員が理解しやすいように参考資料を用いつつ、直接口頭で伝えるのが望ましいでしょう。ただし、わかりやすい資料がある場合には、資料の提供のみでもよいとされています。また、派遣時には待遇情報に加え、賃金や休暇など就業条件についても説明する必要があります。

    なお、派遣先均等・均衡方式において比較対象社員の待遇に変更がある場合、派遣先企業は派遣元企業に対して変更部分の情報を提供しなければなりません。

  • 派遣社員からの求めがあった場合

    派遣社員から求めがあった場合、派遣元企業は交通費の取り扱いを含めた待遇に関して説明しなければなりません。説明を求めたことを理由として派遣社員を不利益に取り扱うことは禁止されています。また、労使協定方式を採用している場合は、交通費の決定方法について説明することが義務となります。

参考資料:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル|厚生労働省

4. まとめ

2020年4月に施行された改正労働者派遣法(いわゆる同一労働同一賃金)は、派遣社員に対する不合理な待遇差の解消を目指すものです。これにより、派遣社員にも通勤手当として交通費が支給されるようになります。

交通費は金額としては小さいものの、積み重なると大きな金額になります。交通費が実費で支給されれば手取りが増加することになり、法改正の趣旨である「派遣社員の地位向上」を促す効果があります。

もっとも、交通費の支給に伴い社会保険料や納税額が増える可能性があるなど、注意すべき点も存在します。派遣社員は、雇用関係にある派遣元企業や指揮命令を受ける派遣先企業の両方と関わりを持つため、交通費を含めた待遇の決定に関しても関係者間で認識の共有を徹底することが重要です。そのうえで各担当者には、ルールを遵守し適切に処理することが求められます。

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