派遣社員は休職できる?手続きや補償制度をわかりやすく解説

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派遣社員は休職できる?手続きや補償制度をわかりやすく解説派遣社員は休職できる?手続きや補償制度をわかりやすく解説

派遣社員が体調を崩したり、家庭の事情などで働けなくなった場合、「休職の手続きは誰が行うのか?」と疑問に思う派遣先企業の担当者も多いのではないでしょうか。

派遣社員は、雇用契約を結ぶ「派遣元(派遣会社)」と、実際に勤務する「派遣先企業」の双方が関わるため、対応の線引きが曖昧になりやすいのが実情です。

また、企業側の都合で一時的に業務を止める「休業」とは異なり、派遣社員自身の事情による「休職」は、制度の有無や適用範囲、復職の可否など、派遣元の就業規則によって対応が異なります。

この記事では、派遣社員が休職する際の基本的な手続きの流れや利用できる補償制度、派遣先企業として知っておきたいポイントについて、分かりやすく解説します。

目次

  1. 派遣社員でも休職できる?
    • 派遣会社と派遣先企業の両者の確認が必要
  2. 派遣社員が休職する際の手続き
    • 医師の診断書を取得する
    • 派遣会社に相談する
    • 所定の手続きを行う
    • 派遣先企業への連絡・調整
  3. 派遣社員が休職中に利用できる補償制度
    • 休業補償(労災保険による)
    • 傷病手当金
  4. 派遣先企業として注意すべきポイント
    • 休業補償・傷病手当金に関する支払い
    • 労災発生時に派遣先企業がとるべき対応
    • 安全配慮義務の観点
  5. まとめ

1.派遣社員でも休職できる?

派遣社員でも、状況によっては休職が可能です。ただし、派遣社員は「派遣元(派遣会社)」と雇用契約を結んでいるため、休職制度の有無や利用条件は派遣元の就業規則に従うことになります。派遣先企業の制度ではなく、派遣元が定める制度が適用される点に注意が必要です。

また、派遣社員は「人員の一時的な補充」を目的として契約されるケースが多いため、たとえ制度があっても長期休職の取得は難しい場合があります。たとえば、病気やケガで長期間働けなくなった場合、休職ではなく「契約満了・更新なし」となり、退職扱いになることも少なくありません。

自社で働く派遣社員が休職を検討する場合は、まず派遣元(派遣会社)の就業規則に休職に関する規定があるかを確認し、派遣元に相談することが重要です。また、有給休暇の活用も選択肢となります。

派遣社員でも休職できる?

派遣会社と派遣先企業の両者の確認が必要

派遣社員が休職を希望する場合、まずは派遣元(派遣会社)に申し出て、必要な手続きを進めます。派遣元が休職を認めた場合でも、実際の業務を行う派遣先企業には休職の旨を連絡し、今後の対応を協議する必要があります。

派遣先企業は、業務上の人員確保が必要なため、休職期間中は代替要員の派遣を求めることが一般的です。場合によっては、派遣先企業が新たな人材の派遣を希望し、元の契約が終了となるケースもあります。その場合、派遣社員は復職できず、退職扱いとなることもあります。

2.派遣社員が休職する際の手続き

派遣社員の場合、手続きの窓口は「派遣会社」となり、対応の仕方や必要な書類も異なります。ここでは、派遣社員が休職する際の基本的な手続きの流れやポイントについて解説します。

医師の診断書を取得する

病気やケガが原因で休職を希望する場合、まず医師の診察を受け、休養が必要である旨が記載された診断書を取得します。診断書には病名や休養の必要性、具体的な休養期間などが記載されている必要があります。

派遣会社に相談する

診断書を取得したら、派遣元(派遣会社)に休職の相談・申請を行います。派遣社員の雇用主は派遣会社であり、派遣先企業ではないため、手続きや対応は派遣会社とのやり取りになります。休職の理由や診断書の内容を伝え、休職制度の有無や手続きの流れ、傷病手当金など利用できる補償制度についても確認します。

所定の手続きを行う

休職が認められた場合は、派遣会社の指示に従い申請書の提出など必要な手続きを進めます。申請様式や提出方法は派遣会社ごとに異なるため、事前に確認します。また、休業手当や傷病手当金など利用できる補償制度がある場合は、あわせて申請の準備を進めます。

派遣先企業への連絡・調整

派遣元(派遣会社)が休職を認めた場合でも、派遣先企業には業務調整のため連絡が必要です。休職期間中は派遣先企業との契約が終了となる場合や、復職後に同じ派遣先で働けない場合もあります。

3. 派遣社員が休職中に利用できる補償制度

派遣社員は休職中、給与が支払われないことが多いですが、一定の条件を満たせば公的な補償制度を利用して収入を補うことができます。ここでは、派遣社員が休職中に活用できる主な補償制度とその利用条件について解説します。

休業補償(労災保険による)

休業補償とは、仕事中または通勤中のケガや病気(いわゆる労働災害・通勤災害)が原因で働けなくなり、賃金が支払われない場合に、労働者に支給される補償です。労働者災害補償保険法(労災保険)に基づき、労災と認定された場合に給付されます。

支給額は、休業前3か月間に支払われた賃金の総額をその期間の暦日数で割った「給付基礎日額」の60%が「休業補償給付」として支給されます。さらに、同じ給付基礎日額の20%が「休業特別支給金」として上乗せされ、合計で給付基礎日額の80%が補償されます。

ただし、休業開始から最初の3日間は「待機期間」とされ、この期間は補償が支給されません。4日目以降から支給が開始されます。

労災保険は雇用形態に関係なく、労働者として働くすべての人が対象です。派遣社員も派遣元(派遣会社)との雇用契約に基づいて働いているため、労災保険の対象となります。休業補償を受けるには、医師の診断書など所定の手続きが必要です。

関連記事:派遣社員に労災が起きたら?派遣先企業の対応について解説

傷病手当金

傷病手当金は、健康保険に加入している被保険者が、業務外の病気やケガの療養のために働けなくなった場合、生活を支えるために支給される制度です。健康保険に加入している派遣社員が、以下の条件をすべて満たす場合、傷病手当金を受給できる可能性があります。

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のために休業していること
  • そのために仕事に就くことができないこと
  • 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと(待機期間3日間の後、4日目から支給対象)
  • 休業した期間について給与の支払いがないこと

支給額は、標準報酬日額の3分の2相当額で、支給期間は支給開始日から最長1年6か月です。申請には、医師と事業主の証明が必要な「健康保険傷病手当金支給申請書」を提出する必要があります。

関連記事:もしものときの傷病手当金!派遣社員の受給条件や契約終了後の適用は?

4. 派遣先企業として注意すべきポイント

派遣社員が休職を希望する際、手続きや対応は基本的に派遣元(派遣会社)が担いますが、派遣先企業も無関係ではありません。派遣先の配慮や対応を誤ると、職場環境の悪化や契約トラブルにつながる恐れがあります。

ここでは、派遣先企業が休職対応の際に押さえておくべきポイントを整理して解説します。

休業補償・傷病手当金に関する支払い

休業補償(労災保険給付)や傷病手当金(健康保険給付)の支払い手続きは、原則として派遣元が対応します。たとえば、派遣社員が業務中にケガをして休業した場合は、派遣元が加入する労災保険から休業補償給付が支給されます。業務外の病気やケガで休業する場合も、派遣社員が加入する健康保険から傷病手当金が支給されます。これらの金銭的な負担は、原則として派遣先企業にはありません。

ただし、派遣契約の内容や派遣先企業の故意・過失による労災発生の場合、派遣元から補償の一部負担を求められるケースもあり得るため、契約内容の確認が重要です。

労災発生時に派遣先企業がとるべき対応

派遣社員に業務災害や通勤災害が発生した場合、派遣先企業にも以下の対応が求められます。

  • 派遣元企業への速やかな報告
  • 労災申請書への事実確認や必要事項の記載協力
  • 労働者死傷病報告の労働基準監督署への提出(派遣先・派遣元双方で提出義務あり)

労災発生時には、災害の発生日時・場所・状況・ケガの状態などを正確に派遣元へ伝える必要があります。労働者死傷病報告を提出しない、虚偽記載をするなどの「労災隠し」は罰則の対象となります。

参考:派遣社員に労災が起きたら?派遣先企業の対応について解説

安全配慮義務の観点

派遣社員が実際に業務を行うのは派遣先企業であるため、派遣先には派遣社員が安全に働けるよう職場環境を整備する「安全配慮義務」が課されています。派遣先は、派遣社員を含めた全従業員が安全に働ける環境を整え、労災発生時には迅速な対応と再発防止策を講じる必要があります。

もし職場環境の不備など派遣先の過失で労災が発生した場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われることがあります。

5. まとめ

派遣社員が休職を希望する場合、対応や手続きは基本的に派遣元企業が担いますが、実際に業務を行うのは派遣先企業であるため、受け入れ側としても慎重な対応と十分な連携が求められます。

休職や補償制度の利用については、派遣元企業の判断・手続きが中心となりますが、派遣先企業も職場環境の整備や勤怠管理、安全配慮義務の履行、災害や労災発生時の初動対応・報告協力など、重要な役割を担っています。

とくに、労災発生時には速やかな報告や必要書類への記載協力が求められます。休業補償や傷病手当金の支給自体は派遣元の管轄ですが、派遣社員が安全に働ける環境づくりと災害時の初動対応は、派遣先企業にとっても重要な責務です。

派遣社員の休職や災害時対応を適切に行うことは、企業の信頼性やコンプライアンスの維持にもつながります。派遣元企業と密に連携し、制度理解と実務対応の両面で備えましょう。

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