計画年休とは?制度の概要と派遣先企業がとるべき対応を解説

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計画年休とは?制度の概要と派遣先企業がとるべき対応を解説計画年休とは?制度の概要と派遣先企業がとるべき対応を解説

近年、働き方改革の推進など就労のあり方に関する議論が活発におこなわれています。2019年4月からは年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、年5日の年休を取得させることが使用者の義務となりました。

しかし、日本における有給休暇の取得率は世界的に見ても低水準です。オンライン旅行サイトを運営するエクスペディアが2022年に実施した調査によると、日本で働く人の有給休暇の取得率は60%であり、他国と比較して世界ワースト2位という結果になりました(「エクスペディア 世界16地域 有給休暇・国際比較調査 2022」より)。企業にとって有給休暇の取得率向上が喫緊の課題となるなか、計画的に休暇取得日を割り振る「計画年休」に注目が集まっています。

この記事では「計画年休」を取り上げ、制度の概要や目的、企業と労働者それぞれの立場から見たメリット・デメリットをご紹介します。また、派遣社員に対しては自社の従業員と異なる対応が必要となるため、派遣先企業がとるべき対応についても詳しく解説します。

目次

  1. 計画年休とは?
  2. 計画年休の目的
  3. 計画年休と有給休暇の違い
  4. 有給休暇の付与日数が足りなかった場合の罰則
  5. 計画年休に関して派遣先企業がとるべき対応
    • 計画年休を全社一斉休業とする場合
    • 計画年休を全社一斉休業としない場合
  6. 企業にとっての計画年休のメリット・デメリット
    • メリット
    • デメリット
  7. 労働者にとっての計画年休のメリット・デメリット
    • メリット
    • デメリット
  8. 計画年休の設定方法
  9. まとめ

1.計画年休とは?

計画年休(年次有給休暇の計画的付与制度)とは、労使協定の締結を通じて、年次有給休暇の取得日を企業側が事前に指定できる制度です。

計画年休を設定できるのは、有給休暇の付与日数から5日間を差し引いた日数の範囲内とされています。これは、自身の病気などの個人的事由によって、労働者自ら休暇を取得できる日数を残しておく必要があるからです。

たとえば、有給休暇が20日間付与されている労働者に対しては、そこから5日間を差し引いた15日間の範囲内で、企業側が指定した日数分だけ有給休暇を付与することになります。このケースにおいては有給休暇の付与日数20日間のうち、15日間は企業側が計画的に付与する休暇、5日間は従業員が自由に取得する休暇というように設定できます。

計画年休の付与方法もさまざまで、全従業員に対して同一の日に付与する「一斉付与方式」、グループごとに交替で付与する「交替制付与方式」、従業員個人ごとに付与する「個人別付与方式」などがあります。これらの方法のなかから、職場の実態に合わせて適したものを選択することになります。

計画年休とは?

2.計画年休の目的

計画年休の目的は、労働者の有給休暇取得を促進することにあります。事前に取得日を定めて有給休暇を付与することで、労働者は休暇を取得しやすくなり、結果として有給休暇の取得率・消化率の向上につながります。

この点について、計画年休を導入している企業は、導入していない企業と比べて年休取得率が8.6%高いという調査結果があります(厚生労働省「年次有給休暇の計画的付与制度」より)。これは計画年休の実効性を証明する数値といえるでしょう。

前述のとおり、世界的に見ても日本の有給休暇取得率は低く、その背景には休暇の取得にためらいを感じてしまう労働者の心情があります。これを解消するには休みを取りやすい環境づくりが不可欠であり、企業側が休暇を割り振る計画年休を導入することは、有給休暇の取得促進に大きな効果をもたらすと考えられます。

3.計画年休と有給休暇の違い

計画年休は企業側が取得時期を決定するのに対し、有給休暇は労働者が自主的に取得時期を決定します。ただし有給休暇の場合、労働者がプライベートの予定に合わせて自由に休みを設定できる反面、個々の自主性に委ねるために取得率が伸び悩む傾向にあります。この点、計画年休は労働者が有給休暇を取得しやすくするために設けられており、この制度を活用することで有給休暇の取得促進につながります。

なお、有給休暇は正社員に限らず、派遣社員や契約社員、アルバイトなどにも認められている制度です。派遣社員における有給休暇の取得条件や発生するタイミングについては以下の記事で詳しく解説していますので、本記事とあわせて参考にしてください。

関連記事:派遣社員の有給休暇はいつから?付与日数や取得条件を解説

4.有給休暇の付与日数が足りなかった場合の罰則

2019年4月から年間最低5日間の有給休暇取得が義務化されました。労働基準法により、有給休暇は「①雇入れの日から6か月継続して雇われていること」「②全労働日の8割以上を出勤していること」の2点を満たしているすべての労働者が取得できます。しかし、年5日の年休取得義務化が適用されるのは、有給休暇の付与日数が10日以上の労働者に限ります。これは正社員だけでなく、派遣社員やパート、アルバイトなども対象です。

この義務を履行できなかった企業には、労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、企業が計画年休をおこなう場合には、対象となる労働者の範囲や時季指定の方法について就業規則へ記載しなければなりません。これを怠った企業に対しても、30万円以下の罰金が科されることがあります。

5. 計画年休に関して派遣先企業がとるべき対応

派遣社員には立場上の特殊性があり、計画年休の実施に際して派遣先企業は以下の点に注意する必要があります。

計画年休を全社一斉休業とする場合

計画年休実施に際して「全社一斉休業」の形式をとる場合は、労働者派遣契約の締結において、計画年休に該当する日を勤務日から除外するべきです。

そもそも派遣社員の特殊性として、指揮命令関係にある企業と雇用関係にある企業が異なることが挙げられます。派遣社員が実際に就業するのは派遣先企業ですが、派遣社員の雇用主となるのは派遣元企業です。この結果、派遣社員の労務管理は、雇用関係にある派遣元企業がおこなわなければなりません。加えて、派遣先企業が計画年休を実施したとしても、派遣社員は対象外となります。

本来であれば、派遣先企業の計画年休の決定に関して、派遣社員は無関係な立場にあるといえます。上述のとおり、派遣先企業と派遣社員との間に雇用関係はないからです。ところが、計画年休期間の取り扱いに関する事項を労働者派遣契約に明記せずに派遣社員を受け入れると、計画年休を実施する際にトラブルになるおそれがあります。計画年休日に従業員が一斉休業となるのに対し、計画年休の対象外である派遣社員は勤務日となってしまうことが起こり得るからです。

派遣社員が勤務すれば当然賃金が発生します。最悪の場合、計画年休の期間は大半の従業員が休業し、業務をおこなうのは事実上不可能であるにもかかわらず、勤務日となっている派遣社員の派遣料金を請求される可能性があります。

このようなトラブルを避けるために、派遣先企業としては派遣元企業と事前に打ち合わせをおこない、労働者派遣契約を結ぶ段階で計画年休日について勤務日から除外してもらうのが無難です。こうすれば、派遣先企業が計画年休を実施してもその日は派遣就労しない日となるため、派遣料金を支払う必要はありません。あらかじめ労働者派遣契約書に明示しておくことで、計画年休の実施に関連するトラブルの発生を未然に防げるでしょう。

関連記事:労働者派遣契約とは?流れや注意点、関連する法律をわかりやすく解説

計画年休を全社一斉休業としない場合

計画年休の期間中は事業所全体が休業するケースが多いものの、一部の従業員は業務をおこない、全面的な休業とならないケースもあります。このとき、派遣先企業と雇用関係にない派遣社員は、派遣先企業が実施する計画年休の対象外となっています。また、派遣先企業が雇用する従業員であっても、付与された有給休暇が所定の日数に満たない場合は計画年休の対象外となることがあります。

つまり、派遣先企業が全社一斉休業をしない場合には、計画年休の実施期間中、計画年休の対象外のスタッフが業務を支えることになります。派遣先企業としては、派遣社員など一部のスタッフに業務負担が偏らないように配慮する必要があるでしょう。

6.企業にとっての計画年休のメリット・デメリット

計画年休の導入により、企業には以下のようなメリット・デメリットが生じます。

メリット

計画年休を取り入れることで、導入前よりも有給休暇の取得率が向上し、労働法上の義務の履行漏れがなくなります。この点、有給休暇の取得を従業員の任意に委ねていると、休暇を取ることで「他のスタッフに迷惑をかけたくない」「自分が後で多忙になる」との思いから、実際の取得が進捗しないリスクがあります。計画年休により、企業側が有給休暇の取得状況を管理しやすくなることも大きなメリットといえるでしょう。

また、企業が率先して休暇を取りやすい環境をつくり、従業員のワークライフバランスを確保できれば、従業員エンゲージメントの向上につながります。他にも計画年休を閑散期に設定することで、効率的な人員配置を実現できるというメリットもあります。

デメリット

計画年休を導入するためには「労使協定の締結」が必須となります。労使協定とは、労働者と雇用主との間で取り交わす書面による協定のことです。労使協定を結ぶためには労働者側との協議が求められ、手続きが煩雑となります。また、計画年休の日程を一度決めてしまうと、会社都合では原則として変更することができません。どうしても変更が必要な場合は、あらためて労使協定を締結する必要があります。

さらに企業としては、計画年休の対象外となる従業員への配慮も欠かせません。有給休暇の付与日数が10日を下回る場合は対象とならず、新入社員や中途入社して間もない社員が該当する場合があります。計画年休の導入により、一部の従業員だけに負担がのしかかることのないよう留意しなければなりません。

7.労働者にとっての計画年休のメリット・デメリット

計画年休は労働者にもメリット・デメリットをもたらします。企業としては特に労働者側のデメリットを把握し、計画年休導入の可否や対象とする日数についてよく検討する必要があるでしょう。

メリット

有給休暇を取得しにくい雰囲気のある会社も現実には少なくありません。この点、計画年休が導入されれば従業員は自動的に有給休暇を取得できるため、周りに気兼ねなく休みを取れるのは労働者にとって大きなメリットとなるでしょう。

また、事前に有給休暇のスケジュールがわかっていることで、プライベートの予定を組みやすくなるメリットもあります。ワークライフバランスが整い、心身ともにリフレッシュできれば、業務への意欲も向上するでしょう。

デメリット

計画年休によって休みが強制され、有給休暇の日程を自ら決められないのは、労働者にとってデメリットとなり得ます。計画年休を導入したとしても、労働者に付与される有給休暇すべての日数について認められるわけではありません。しかし、自分の都合で自由に休みを取れる日数が年間で5日だけになるケースもあるため、人によっては不足していると感じることもあるでしょう。

8.計画年休の設定方法には次の3種類があります。

計画年休の設定方法には次の3種類があります。

  • ① 事業所全体での一斉付与方式
     事業所単位で計画年休を付与する方式です。
     生産ラインを一斉に止めて、すべての従業員を休ませられる製造業に適しています。
  • ② 班やグループごとの交替制付与方式
     事業所全体での一斉付与が難しい場合に適している方式です。
     小売業や運輸業など、定休日を増やすことが難しい業種での活用に向いています。
  • ③ 個人別付与方式
     個人単位で計画年休を付与する方式です。
     夏季や年末年始のほか、本人の誕生日や結婚記念日などに付与します。

計画年休を導入する際には、これらのなかから自社の現状に即した最適な方法を選ぶことが求められます。

9.まとめ

近年は過重労働を見直そうという議論が活発化しているものの、現実には日本の有給休暇の取得率は低水準にとどまっているという実態があります。このような状況のなかで、各企業も有給休暇の取得率向上に向けた取り組みを始めており、計画年休の導入は有力な施策の一つとなります。

しかし、計画年休を導入するには労使協定の締結が必須であり、煩雑な手続きを伴います。コンプライアンスの観点からも、制度についての十分な理解が欠かせません。また、派遣社員の場合は「雇用主となる企業」と「就業先となる企業」が異なるという特殊性を持ちます。派遣社員は派遣先企業が実施する計画年休の対象にならないため、全社一斉休業を選択する場合には労働者派遣契約を結ぶ段階で計画年休日を勤務日から除外しておくのが望ましいでしょう。

計画年休の運用に際して、派遣社員の処遇には十分に配慮しなければなりません。本記事で指摘した点に留意しつつ、適正な制度運用をおこないましょう。

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