エビングハウスの忘却曲線とは?復習の最適な時期とビジネスでの活用法を紹介

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時間経過で記憶が減少するメカニズムをあらわした「エビングハウスの忘却曲線」。人の記憶力には限界があり、一度記憶した内容も時間が経つと忘れてしまいます。エビングハウスの忘却曲線は「忘れやすさ」に着目しつつ、このメカニズムを理解し適切なタイミングで復習すれば効率よく学習できることも示しています。

この記事では「エビングハウスの忘却曲線」を取り上げ、復習の最適な時期や忘却を防ぐテクニックとビジネスでの活用方法についてわかりやすく解説します。

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目次

  1. エビングハウスの忘却曲線とは
  2. エビングハウスの忘却曲線の「節約率」
  3. 復習の最適な時期
  4. 忘却を防ぐための復習テクニック
    • すぐに復習する
    • アウトプットを繰り返す
    • 興味・関心を持つ
    • 苦手な分野から優先的に復習する
    • ストーリー化する
  5. エビングハウスの忘却曲線をビジネスで活用する方法
    • 「忘れる」ことを前提に研修プログラムを設計する
    • 忘却曲線を活用する範囲を見極める
  6. 派遣社員の教育・研修時に意識すべきポイント
    • 事前アンケートを実施する
    • インタラクティブな講義形式を取り入れる
    • アウトプットの機会を設ける
    • 日報を書いて毎日の業務を振り返る
    • フォローアップ研修の実施
  7. まとめ

1.エビングハウスの忘却曲線とは

エビングハウスの忘却曲線とは、学習後の時間経過に伴う記憶の変化を表した曲線をいいます。人間が「忘れる」ことに着目したメカニズムで、ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスが1885年に提唱しました。この忘却曲線は、記憶の保持と減衰のプロセスを科学的に示した画期的な研究成果です。

エビングハウスの忘却曲線によると、人は一度学習した内容を完全に覚えておくことができず、時間の経過とともに記憶が薄れていきます。特に学習直後から24時間以内に急激な忘却が起こり、その後はゆるやかに減少していくことが明らかになっています。

一方で、エビングハウスの忘却曲線は、時間経過によって忘れてしまっても、適切なタイミングで復習を繰り返すことで効率的に記憶を定着させられることも示しています。これは、繰り返し復習するほど、再度覚えなおす際に必要となる時間(再学習にかかる時間)が少なくなり、効率よく記憶を保持できること、すなわち記憶の「節約」が起こることを意味しています。

エビングハウスの忘却曲線とは?復習の最適な時期とビジネスでの活用法を紹介

2.エビングハウスの忘却曲線の「節約率」

エビングハウスの忘却曲線が示す「節約率」は、一度学習した知識を復習して覚えなおす際に、どのくらいの時間を節約できるかをあらわしています。エビングハウスの忘却曲線によると、一度学習して覚えた内容であれば、次に覚えるときは最初よりも時間を短縮(=節約)して記憶できるということです。

エビングハウスの実験によって示された学習後の時間と節約率の関係を下表にまとめました。この表は、エビングハウスの忘却曲線の核心を示すものです。

学習後の時間 節約率
20分 58%
60分 44%
90分 35%
1日 34%
6日 25%
31日 21%

この実験結果から、エビングハウスの忘却曲線が示す重要な点は、人は学習して覚えた内容を時間の経過とともに忘れていきますが、次に覚えなおすときは最初にかかった時間よりも短い時間で記憶できるということです。例えば最初の記憶に100秒かかった場合、20分後に覚えなおすと42秒(節約率58%)、1時間後に覚えなおすと56秒(節約率44%)で記憶できることになります。

エビングハウスの忘却曲線の「節約率」から学べる重要な点は、時間が経つにつれて、再度の記憶に時間がかかることです。つまり、エビングハウスの忘却曲線は、効果的な学習のために早期の復習が重要であることを示唆しています。この知見は、ビジネスや教育の場面でも活用できる、エビングハウスの忘却曲線の実践的な側面といえるでしょう。

3. 復習の最適な時期

カナダのウォータールー大学では、1時間の講義で取り入れた情報をどれだけ記憶できているか確認する実験をおこないました。この実験は、エビングハウスの忘却曲線の理論を実践的に検証したものといえます。講義開始時の何も知らない状態を0%、講義終了時の情報を取り入れた状態を100%とします。

Curve of Forgetting

出典:Curve of Forgetting

この実験でわかったことは次のとおりです。

  • 講義内容を復習しない場合、1か月後にはほとんど忘れてしまう
  • 講義から24時間以内に復習した場合、10分の復習で記憶が100%に戻る
  • 講義から1週間後に2回目の復習をした場合、5分の復習で記憶を取り戻せる
  • 講義から1か月後に3回目の復習をした場合、2~4分の復習で記憶を取り戻せる

この結果をもとに復習の最適な時期を考えると、学習を終えてから24時間以内に1回目の復習、1週間後に2回目の復習、1か月後に3回目の復習をおこなうのがベストといえます。復習にかかる時間も1回目は10分、2回目は5分、3回目は2~4分と、復習を重ねるごとに「節約」できていることがわかります。

4. 忘却を防ぐための復習テクニック

エビングハウスの忘却曲線では、人間の「忘れやすさ」に焦点を当てつつ、復習によって再び記憶が定着することも示しています。忘却を防ぎ、効率的に学習を進めるためには、適切な復習テクニックを活用することが重要です。ここでは、忘却を防いで効率よく復習するためのテクニックをご紹介します。

すぐに復習する

人は記憶した内容を長期間保持することが困難です。エビングハウスの忘却曲線が示すように、時間の経過とともに記憶は急速に薄れていきます。そのため、忘却を防ぐ最も効果的な方法は、学習直後にすぐに復習することです。この即時復習により、記憶の定着率を大幅に向上させることができます。

エビングハウスの研究によると、早期の復習ほど再度の記憶にかかる時間が「節約」され、より短時間で効率的に記憶を定着させることが可能になります。例えば、学習から24時間以内に復習すると、記憶の保持率が著しく向上します。

アウトプットを繰り返す

知識や情報を取り込むことをインプット、取り込んだ知識や情報を活用することをアウトプットといいます。テキストの文章を目で追うだけでなく、覚えた内容を口に出して誰かに説明してみるなど、アウトプットを繰り返すことで記憶が定着しやすくなります。これは、エビングハウスの忘却曲線が示す「節約率」の考え方とも一致します。

まずはインプットで自分のなかに知識を取り込み、しっかり覚えられているか、理解できているかを確認するための手段としてアウトプットしていくとよいでしょう。例えば、エビングハウスの忘却曲線に関する学習内容を、同僚や上司に説明してみることで、自身の理解度を確認し、記憶の定着を促進することができます。このように、エビングハウスの忘却曲線を意識しながらアウトプットを繰り返すことで、効果的な学習サイクルを構築できます。

興味・関心を持つ

エビングハウスの忘却曲線は、意味を持たない単語の記憶に対する実験結果を示したものです。つまり、自分にとってまったく関心のない分野においては忘却曲線のような記憶の低下をたどりますが、自分が興味を持てる分野であれば異なる結果になると推測できます。学習する分野に興味・関心を持つことで、記憶の定着率や節約率が上がり、効率よく取り組むことができるようになるでしょう。

例えば、業務に関連する専門知識を学ぶ場合、その知識がどのように実務に活かせるかを具体的にイメージすることで、学習意欲が高まります。また、エビングハウスの忘却曲線に基づいた復習計画を立てる際も、興味・関心を持続させることが大切です。学んだ内容を実際の仕事に応用してみたり、同僚と議論したりすることで、知識の定着と活用が促進されます。

さらに、エビングハウスの忘却曲線を意識しつつ、学習内容を自分の興味・関心と結びつけることで、長期的な記憶の保持が可能になります。例えば、新しい業務スキルを学ぶ際に、そのスキルが自己成長やキャリアアップにどのように貢献するかを考えることで、学習モチベーションが向上し、忘却を防ぐことができます。

苦手な分野から優先的に復習する

復習をするときは苦手な分野から優先的に手を付けるのが効果的です。エビングハウスの忘却曲線が示すように、自分にとって覚えにくいものや苦手意識のあるものは、後に回せば回すほど習得に時間がかかってしまいます。これは、苦手分野ほど忘却のスピードが速いためです。

反対に、覚えやすい得意分野は後に回しても問題ありません。得意分野は忘却曲線の傾きが緩やかで、記憶の定着率も高いからです。このように優先順位を付けることで、限られた時間のなかで学習に取り組む社会人も、効率よく勉強を進めることができます。

特に、エビングハウスの忘却曲線を意識して、苦手分野の復習間隔を短くすることで、記憶の定着を促進できます。さらに、苦手分野を克服することで自信がつき、学習全体のモチベーション向上にもつながります。

ストーリー化する

記憶する内容をストーリーとしてまとめると、エビングハウスの忘却曲線に示される記憶の低下を抑え、記憶の定着が促進されます。例えば、歴史の出来事を単なる年号として覚えるのではなく、その背景や人々の感情を交えた物語として学ぶことで、より長期的に記憶に残りやすくなります。

これにより、単純な暗記ではなく、深く理解することが可能です。記憶した内容を具体的なイメージとして捉えられるため、後で思い出すことも容易になります。ストーリー化は、エビングハウスの忘却曲線が示す記憶の減衰を緩和し、学習効果を高める有効な方法です。

また、ストーリー化によって興味・関心が高まれば、忘却のスピードも遅くなる可能性があります。ビジネスシーンでも、複雑な情報や手順をストーリー化して伝えることで、より効果的な知識の共有や記憶の定着が期待できます。

5. エビングハウスの忘却曲線をビジネスで活用する方法

忘却曲線をビジネスで活用するには以下の方法があります。

「忘れる」ことを前提に研修プログラムを設計する

エビングハウスの忘却曲線が示すように、一度記憶した内容も時間が経てば忘れていきます。暗記が得意な人もいれば苦手な人もいますが、忘れるスピードに個人差はほとんどありません。

このメカニズムをビジネスで活用するには「忘れる」ことを前提に研修プログラムを設計する必要があります。例えば一度の研修で記憶を定着させることは難しいため、なるべく早めに次回の研修日程を組む、一定期間後にフォローアップ研修を実施するなど、定期的に復習の機会を設けることが大切です。

特に、新しい知識やスキルを習得する際には、忘却曲線を考慮した効果的な学習計画が重要です。研修内容を短期記憶から長期記憶に移行させるために、反復学習や定期的な復習を取り入れることが効果的です。また、研修後に実践的な課題を与えることで、学んだ内容を実際の業務に適用する機会を提供し、記憶の定着を促進することができます。

忘却曲線を活用する範囲を見極める

エビングハウスの忘却曲線は、専門性の高い内容や興味を持ちにくい内容、覚えるのが難しい内容に対して活用するのが効果的です。この実験で検証しているのは「意味を持たない単語の記憶」であるため、なるべくそれに近い内容(文字の羅列や専門用語など)を学習するときに取り入れるとよいでしょう。

社員の興味や関心が高い分野も含め、すべての分野で活用するとかえって学習効率が悪くなるおそれがあります。どの分野で忘却曲線を取り入れるか、その範囲を見極めることが大切です。適切な活用範囲を設定することで、エビングハウスの忘却曲線の効果を最大限に引き出し、効率的な学習と記憶の定着を実現できます。

6. 派遣社員の教育・研修時に意識すべきポイント

忘却のメカニズムは派遣社員の教育指導においても活用できます。エビングハウスの忘却曲線を念頭に置き、効果的な学習と記憶の定着を促進するための方法を考えることが重要です。派遣先企業の担当者が教育・研修時に意識すべきポイントを以下にまとめました。

事前アンケートを実施する

派遣社員が効果的な研修を受けるためには、事前アンケートが有用です。研修内容を個々の派遣社員のニーズに合わせてカスタマイズすることが重要です。アンケートを通じて、派遣社員の現在のスキルや知識、研修に対する期待や不安を把握できます。

これにより、研修内容を各個人のニーズに合わせて最適化することができます。例えば、基礎知識が不足している派遣社員には基礎的な内容を、経験豊富な派遣社員には応用的な内容を提供することが可能です。

インタラクティブな講義形式を取り入れる

インタラクティブとは「双方向」「対話式」などを意味する言葉で、講義や研修においては「指導を受ける側も参加する形式」を指します。講師が話すだけの一方通行の講義形式では記憶に残りづらいため、指導を受ける派遣社員も積極的に参加できるような双方向の講義形式を取り入れるとよいでしょう。

例えば、グループディスカッションやロールプレイング、Q&Aセッションなどを取り入れることで、派遣社員の主体的な学習を促進できます。また、オンライン研修においても、チャット機能や投票機能を活用して参加者の意見を募ることで、双方向のコミュニケーションを実現できます。

アウトプットの機会を設ける

派遣社員が学んだ内容をしっかりと定着させるためには、実際に使ってみることが重要です。エビングハウスの忘却曲線が示すように、学習後の早い段階でアウトプットすることで、記憶の定着率を高めることができます。

例えば、研修で学んだスキルを実務で活用することで、理解が深まり、記憶に残りやすくなります。また、同僚とのディスカッションやプレゼンテーションなど、他人に伝える機会を持つことで、自分の理解を確認し、知識をさらに強化できますさらに、定期的にアウトプットの機会を設けることで、忘却を防ぎ、長期的な記憶の定着を促進することができます。

日報を書いて毎日の業務を振り返る

仕事を効率よく覚えるためには、エビングハウスの忘却曲線を意識し、その日の業務や課題を振り返る時間を設けるのがおすすめです。一度覚えた内容を定着させるにはなるべく早く復習する必要があります。

毎日の業務の終わりに日報を書く習慣をつけると、その日のうちに一日の仕事を振り返って内省でき、次の日からの業務もスムーズに進めることができます。具体的には、日報に以下の項目を含めることで、より効果的な振り返りが可能になります。

  1. 当日の業務内容: 実施したタスクや作業を簡潔にまとめる
  2. 学んだこと: 新しく習得した知識やスキルを記録する
  3. 課題や改善点: 直面した困難や、より効率的に行える可能性のある作業を特定する
  4. 明日の目標: 翌日の業務計画を立てる

このように日報を活用することで、エビングハウスの忘却曲線が示す記憶の低下を防ぎ、学習効果を高めることができます。また、定期的に過去の日報を見返すことで、長期的な成長や課題の傾向を把握することも可能になります。

フォローアップ研修の実施

エビングハウスの忘却曲線が示すように、人の記憶は時間の経過で薄れていくため、学んだ内容を定着させるためにはフォローアップの機会を設ける必要があります。一度の研修で終わるのではなく、後日フォローアップ研修を実施し、再度の復習によって記憶を定着させることが大切です。適切な頻度で課題の確認と共有をおこない、派遣社員の不安や悩み、疑問点を解消できれば、仕事に対するモチベーションの向上にもつながっていきます。

フォローアップ研修では、エビングハウスの忘却曲線を意識した計画を立てることが効果的です。例えば、初回の研修から1週間後に1回目のフォローアップ、1ヶ月後に2回目のフォローアップを実施するなど、忘却曲線に基づいたスケジューリングを行うことで、効率的な学習を促進できます。

また、各フォローアップ研修では、前回の内容を復習するだけでなく、実務での適用事例を共有したり、新たな課題に取り組んだりすることで、学習内容の理解をさらに深めることができます。

7.まとめ

エビングハウスの忘却曲線は、人間の記憶メカニズムを理解し、効果的な学習や研修プログラムを設計する上で重要な概念です。この曲線が示すように、一度学んだ内容も時間とともに忘却されていきますが、適切なタイミングでの復習により、効率的に記憶を定着させることができます。

ビジネスシーンでは、この忘却曲線の原理を活用し、社員教育や派遣社員の研修に取り入れることで、学習効果を最大化できます。例えば、研修後24時間以内に1回目の復習、1週間後に2回目の復習、1か月後に3回目の復習を行うことで、記憶の定着率を高めることができます。

また、アウトプットを繰り返す、興味・関心を持つ、ストーリー化するなどの復習テクニックを併用することで、さらに効果的な学習が可能になります。特に派遣社員の教育では、インタラクティブな講義形式やフォローアップ研修の実施など、忘却曲線を考慮したアプローチが重要です。

エビングハウスの忘却曲線を理解し、適切に活用することで、ビジネスにおける人材育成や知識管理の効率を大幅に向上させることができます。この原理を意識しながら、継続的な学習と復習の機会を設けることが、個人と組織の成長につながる鍵となるでしょう。

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