派遣から直接雇用へ切り替え!企業のメリットや求められる義務を解説

人材派遣の基礎知識
派遣から直接雇用へ切り替え!企業のメリットや求められる義務を解説派遣から直接雇用へ切り替え!企業のメリットや求められる義務を解説

現在は働き方が多様化しており、個人の事情に合わせてさまざまな雇用形態で働くことができます。しかし、派遣社員においては「担当業務の幅を広げたい」「より安定して働きたい」などの理由により、直接雇用への切り替えを希望するケースも少なくありません。

派遣から直接雇用に切り替えることは企業にとってメリットがある反面、法律上の義務も担うことになります。このため、実際に適用する場合は法律に則り、慎重に検討・対応する必要があります。

この記事では、派遣から直接雇用への切り替えについて、企業側のメリットや求められる義務をわかりやすく解説します。

目次

  1. 派遣社員と直接雇用、各々の特徴とは?
    • 派遣社員の特徴
    • 直接雇用の特徴
  2. 企業が派遣社員から直接雇用に切り替えるメリット
    • メリット①:採用コストの抑制
    • メリット②:スキル向上に伴う対応業務の拡大
    • メリット③:3年以上の長期的な勤務が可能
  3. 企業が派遣社員から直接雇用に切り替えるデメリット
    • デメリット①:労務管理コストの増大
    • デメリット②:働き方の柔軟性の消失
  4. 派遣社員の直接雇用に関連する企業の義務
    • 雇入れ努力義務
    • 募集情報の提供義務
    • 雇用安定措置
  5. 派遣社員を直接雇用する場合の手数料について
  6. 派遣社員を直接雇用した場合に活用できる助成金
  7. まとめ

1.派遣社員と直接雇用、各々の特徴とは?

派遣社員と直接雇用にはそれぞれ以下のような特徴があります。

派遣社員と直接雇用、各々の特徴とは?

派遣社員の特徴

派遣とは、派遣元企業から派遣先企業に派遣されて働く就労形態のことです。派遣社員と雇用契約を結ぶのは派遣元企業であり、派遣社員に対する給与支給や福利厚生の用意などは派遣元企業がおこないます。

派遣は以下の3つの類型に分類されます。

  • 一般派遣

    一般派遣とは、仕事を求める人が人材派遣会社に登録し、希望条件に合った派遣先企業の紹介を受けて就業する働き方です。実際の就業場所となる派遣先企業が決まった後に、人材派遣会社と雇用契約を締結し、契約期間中は派遣先企業で働きます。登録型派遣ともいわれ、登録している人材派遣会社が雇用主となります。

  • 紹介予定派遣

    紹介予定派遣とは、一定期間(最大6か月)派遣社員として就労した後、派遣先企業の直接雇用に切り替えることを前提とした働き方です。ただし、紹介予定派遣として派遣されたとしても、必ずしも派遣先企業と雇用契約を結べるとは限りません。派遣期間が終了した後の直接雇用への切り替えは、派遣社員と派遣先企業それぞれの合意のもとで決定されるからです。双方の合意があって派遣先企業の直接雇用となる場合、雇用契約は派遣先企業と締結することになります。

  • 常用型派遣

    常用型派遣(無期雇用派遣)とは、人材派遣会社と派遣社員が常時雇用契約を結び、派遣会社の社員として派遣先企業に就業する働き方です。派遣されている期間のみ人材派遣会社から給与の支払いを受ける一般派遣に対し、常用型派遣は派遣されていない期間中も給与が発生します。つまり、派遣先Aの派遣期間が終了し、次の派遣先Bが見つかるまでに働いていない期間ができたとしても、常用型派遣であればその期間中も派遣会社から給与が支払われることになります。給与面で安定した雇用形態といえるでしょう。

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直接雇用の特徴

派遣元企業と雇用契約を結ぶ派遣に対し、就労先の企業と雇用契約を結ぶのが直接雇用です。就労先の企業が雇用主となり、従業員の給与や福利厚生を負担します。直接雇用の契約類型として、正社員や契約社員、アルバイト、パートなどがあります。

派遣社員には同じ事業所・同じ部署で就業できる期間を最大3年とする、いわゆる「3年ルール」があります。これにより、派遣社員と派遣先企業の双方が3年を超える長期契約を希望するケースにおいて、派遣社員の就業形態を派遣から直接雇用へ切り替えることができます。この場合、派遣先企業の直接雇用となるため、雇用主も派遣元企業から派遣先企業へ変わることになります。

関連記事:派遣の3年ルールとは?派遣先企業が知っておきたい例外と対策

2.企業が派遣社員から直接雇用に切り替えるメリット

派遣社員を直接雇用に切り替えることにより、受け入れ先である派遣先企業は以下のようなメリットを享受できます。

メリット①:採用コストの抑制

企業が人材を雇用する場合、採用に関わるさまざまな業務が発生します。求人活動や採用試験、面接の準備など、新たな人材を採用する際の費用・時間のコストは企業にとって大きな負担となります。この点、派遣社員としてすでに就労実績のある人材であれば、企業側も個人の性格や資質を把握できているため、採用・育成に伴う費用や手間を省くことができます。

関連記事:派遣活用でコストを抑えられるの!? 正社員採用とのコストを徹底比較!!

メリット②:スキル向上に伴う対応業務の拡大

原則として、派遣社員には契約外の業務を依頼できません。派遣社員が従事する業務は労働者派遣契約に記載しなければならず、契約に記載されていない業務について指揮命令することは禁止されているからです。この点、高度なスキルや豊富な経験を有する派遣社員に幅広い業務を任せたい場合は、派遣から直接雇用への切り替えが必要となります。これにより対応可能な業務が拡大し、貴重な人材を有効活用することができます。

派遣社員としても直接雇用に切り替わることで業務の幅が広がり、自身のスキルや経験を十分に活かせるようになります。より責任のある仕事を任せることで、社員のモチベーションアップにもつなげることができます。

メリット③:3年以上の長期的な勤務が可能

派遣社員の場合、同一の派遣先企業の同一の部署で働けるのは3年までとされています。一部例外はあるものの、原則として同じ派遣社員を3年を超えて受け入れることはできません。この点、派遣社員の雇用形態を直接雇用に切り替える場合、期間の定めのない雇用契約を締結することも可能となります。就業経験のある人材を長期的に雇用できるため、業務に精通した人材を確保したい場合に有効です。

なお、派遣先企業内で担当する部署を異動した場合、この3年ルールはリセットされます。

3. 企業が派遣社員から直接雇用に切り替えるデメリット

派遣社員から直接雇用への切り替えにはさまざまなメリットがある一方、派遣先企業にとってデメリットとなり得る要素もあります。以下では直接雇用に切り替えるデメリットについて解説します。

デメリット①:労務管理コストの増大

派遣社員の場合、労務管理はすべて雇用主である派遣元企業が負担します。しかし、派遣先企業の直接雇用となれば、税金や社会保険料の手続きは自社で負担しなければならず、その分の労務管理コストが増えるデメリットが生じます。また、通常業務の勤怠管理や人事データの管理なども自社でおこなう必要があるため、人事担当者の負担が増えることも予想されます。

デメリット②:働き方の柔軟性の消失

柔軟な働き方ができることを派遣社員のメリットと考える人も一定数存在します。直接雇用になったことで働き方の柔軟性がなくなり、悩みを抱えて疲弊してしまう社員も少なくありません。派遣から直接雇用への切り替えは派遣社員自身の同意も必要となりますが、企業としても事前に希望条件を十分に確認しておかなければ、社員のやりがいやモチベーションの低下を引き起こすおそれがあります。

4. 派遣社員の直接雇用に関連する企業の義務

派遣先企業が派遣社員の契約を直接雇用に切り替える場合、労働者派遣法によって以下の義務が規定されています。直接雇用への切り替えを検討している企業担当者は、これらのルールを十分に理解しておく必要があります。

雇入れ努力義務

所定の要件に該当する派遣社員を受け入れている場合、派遣先企業にはその労働者を直接雇用するよう努力することが義務づけられています(派遣法第40条の4)。ここでいう「所定の要件」とは以下の3点です。

  • 要件①
    派遣先企業内の同一部署で、同じ業務に1年以上従事していること
  • 要件②
    派遣社員としての契約期間が満了した後、同一の業務に従事する目的で労働者を雇用する予定があること
  • 要件③
    派遣社員本人が契約の継続を希望しており、派遣元企業を介して直接雇用の依頼があること

派遣社員の雇用契約が終わる際に、上記の要件をすべて満たす場合において、派遣先企業は該当の派遣社員を直接雇用に切り替えるよう努めなければなりません。

なお、上記の対象となるのは有期雇用の派遣社員のみです。派遣社員であっても、人材派遣会社が期間の定めなく雇い入れる無期雇用であれば、雇入れ努力義務の対象外となります。このとき、派遣社員の契約形態が無期雇用か否かについては、派遣元企業が派遣先企業に通知する義務があります。

募集情報の提供義務

派遣先企業は、派遣先企業の同一事業所内で1年以上雇用した派遣社員に対して、正社員の募集情報を提供することが義務づけられています(派遣法第40条の5第1項)。派遣社員を正社員に登用して雇用の安定化を図ることを目的としており、有期雇用・無期雇用のどちらも対象となります。なお、同一の事業所内での1年以上の継続勤務が条件となるため、事業所内での部署変更があったとしても、この募集情報の提供義務は発生します。

正社員を募集する情報の周知方法としては、書面やメール、口頭による告知などがあります。このとき、派遣元企業を介さずに情報提供した場合には、その旨を派遣元企業にも伝えることが望ましいとされています。

なお、ここで派遣社員に提供する情報は「正社員の募集情報」ですが、新卒を対象とした募集など派遣社員に応募資格がない求人情報を提供する必要はありません。

雇用安定措置

雇用安定措置は派遣元企業に課される義務であり、派遣社員の雇用の安定化を図るための措置といえます。同一の派遣先企業で3年間勤務する見込みの派遣社員に対し、派遣元企業は以下のいずれかの措置をとる必要があります(派遣法第30条)。

  1. 派遣先企業に対する直接雇用の依頼
  2. 新たな派遣先企業の紹介
    (合理的なものに限る/同一派遣元での無期雇用派遣への移行を含む)
  3. 派遣元企業での(派遣労働者以外としての)無期雇用契約の申し込み
  4. 雇用の安定を図るための措置(有給の教育訓練、紹介予定派遣など)

なお、派遣就業見込みが1年以上3年未満の場合は努力義務となります。派遣社員の雇用安定措置については以下の記事で詳しく解説していますので、本記事とあわせて参考にしてください。

関連記事:有期雇用派遣労働者の雇用安定措置について|旭化成アミダス株式会社

5. 派遣社員を直接雇用する場合の手数料について

派遣先企業が派遣社員を直接雇用する場合、派遣先は事前に派遣元に雇用意思を示すことが必要であり、職業紹介を経由して派遣元に当該職業紹介に係る手数料を支払うことが一般的です。紹介手数料の額については派遣元と協議して決定することが多いようです。

出典:派遣先が講ずべき措置に関する指針

6.派遣社員を直接雇用した場合に活用できる助成金

派遣社員を直接雇用した場合、厚生労働省の「キャリアアップ助成金正社員化コース」を活用できます。これは非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換、または直接雇用した事業主に対する助成であり、派遣社員を正社員として雇用した場合も対象となります。

企業に支払われる助成額は、企業規模が大企業か中小企業か、有期雇用労働者と無期雇用労働者のどちらを直接雇用したかによって変わってきます。令和5年度の1人あたりの支給額は以下のとおりです。

【支給額】

  有期雇用労働者 無期雇用労働者
中小企業 57万円 28万5,000円
大企業 42万7,500円 21万3,750円

※1年度1事業所あたりの支給申請上限人数20名

派遣社員を正社員として直接雇用した場合、有期雇用・無期雇用ともに1人あたり28.5万円が加算されます。

【派遣社員の場合(加算後の金額)】

  有期雇用労働者 無期雇用労働者
中小企業 85万5,000円 57万円
大企業 71万2,500円 49万8,750円

参考資料:
キャリアアップ助成金のご案内(令和5年度版)|厚生労働省

関連記事:
キャリアアップ助成金正社員化コースとは?適用条件や変更点を解説|旭化成アミダス株式会社

7. まとめ

派遣社員を直接雇用に切り替えるメリットとして、採用コストの抑制や対応業務の拡大、長期的な人材確保が挙げられます。直接雇用すると雇用主が派遣元企業から派遣先企業に変わり、雇用期間の定めなく業務に精通した人材を継続して雇うことができます。非正規雇用労働者の正社員化を実施した企業に対する助成金など、直接雇用への切り替えを後押しする制度が充実しているのもポイントです。

一方で、派遣から直接雇用に切り替えることにはデメリットや法律上の義務も伴います。本記事で取り上げた要点を踏まえたうえで、派遣元企業・派遣先企業・派遣社員の三者間で話し合い、誤解のないように進めることが重要です。

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