派遣社員の職場見学を実施する際の注意点~面接との違いや禁止事項、NGな質問とは?

人材派遣の実践
派遣社員の職場見学を実施する際の注意点~面接との違いや禁止事項、NGな質問とは?派遣社員の職場見学を実施する際の注意点~面接との違いや禁止事項、NGな質問とは?

派遣社員が派遣先で働く際、多くの企業では事前に職場見学を実施しています。「職場見学」以外にも「顔合わせ」や「面談」など呼び方は企業によってさまざまですが、事前に会って話すことで業務内容やスキルの確認を行い、ミスマッチを防ぐことが主な目的です。

このように職場見学には多くのメリットがありますが、実施する際には労働者派遣法の規定に注意しなければいけません。特に、禁止されている質問をしたり、面接であると誤解されるような発言をしたりしないように注意が必要です。

この記事では、派遣社員の職場見学について、派遣先企業の人事担当者がおさえておくべき事項を解説します。

目次

  1. 職場見学とは
  2. 職場見学を実施する目的
  3. 職場見学と面接・選考の違い
  4. 職場見学の進め方
    • 依頼する業務内容・その他業務に関連する項目の説明
  5. オフィス内の見学
    • 質疑応答
  6. 労働者派遣法が禁止する「特定行為」とは
    • 履歴書の提出要請
    • 面接の要請・実施
    • 筆記試験・適性検査の実施
    • 年齢・性別の限定
    • 派遣社員の指名
  7. 職場見学でNGな質問・発言とは
    • 個人情報に関する質問
    • 業務の遂行能力に関係ない質問
    • 決定権があると誤解される発言
  8. 職場見学を実施するときの注意点
  9. まとめ

1.職場見学とは

職場見学とは、派遣社員が実際に派遣先の企業を訪れて、業務内容や働く環境を事前に確認するための機会です。通常、職場見学は派遣会社の担当者が派遣社員に提案し、本人が希望すれば実施されます。

見学は一般的に、派遣会社の担当者が派遣社員に同行し、派遣先企業の担当者も交えて行われます。ただし、派遣社員の希望があれば、派遣会社の担当者が同行せずに、派遣先企業の担当者と派遣社員の2人だけで行うことも可能です。

なお、就業ポストが1人の場合、1回につき1人の派遣スタッフに限られています。そのため、1回につき複数人の訪問を受けることはできません。

派遣社員の職場見学を実施する際の注意点~面接との違いや禁止事項、NGな質問とは?

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2.職場見学を実施する目的

職場見学は、派遣社員が紹介された業務を引き受けるかどうかを判断するために行われます。派遣会社から事前に業務内容を聞いている場合でも、実際に企業を訪問することで、派遣社員はその職場で働く具体的なイメージを持つことができます。

一方で、派遣先企業にとっても、事前に派遣社員と直接会って話すことで、その人の人柄やスキルを確認できるというメリットがあります。勤務開始前に一度顔を合わせておくことで、初日からスムーズに仕事を進めやすくなります。

3.職場見学と面接・選考の違い

職場見学を通じて派遣社員と直接話すことができれば、派遣先企業にとっても、派遣社員の実際の印象を得られるため、有意義な時間となります。

ただし、職場見学はあくまで派遣社員が希望した場合に行われるものであり、派遣社員自身が業務を引き受けるかどうかを判断するためのものです。これは面接や選考とは異なり、企業側が採用候補者を評価する場ではありません。

そもそも、派遣先企業には派遣社員を評価したり、自社で働いてもらうかどうかを決定する権限はありません。実際に派遣社員を派遣するかどうかを決めるのは、派遣会社です。派遣会社は派遣社員との間に雇用関係があり、その判断に基づいて派遣を行います。

また、派遣先企業が特定の人を選んで自社に来てもらうことは、労働者派遣法によって禁止されています。この法律は、派遣先企業がどのような人に来てもらうかを特定する行為を制限しており、公正な雇用環境を維持するためのものです。

4.職場見学の進め方

職場見学は一般的に30分から1時間程度で実施されます。職場見学を実施する当日は以下のような流れで進めます。

  1. 依頼する業務内容・その他業務に関連する項目の説明
  2. オフィス内の見学
  3. 質疑応答

依頼する業務内容・その他業務に関連する項目の説明

挨拶や自己紹介を終えたら、派遣社員に依頼する予定の業務内容やその他業務に関連する事項を派遣先企業の担当者が説明します。

業務内容、必要となるスキル、業務の流れ、残業の有無や発生頻度など、業務に関連する事項を説明することが一般的です。主な説明事項は以下のとおりです。

<派遣先企業の担当者が説明する事項>

  • 担当職務 (業務内容、プロジェクト内容・納期など)
  • 必要スキル (使用システム環境、求めるスキル、PCスキルなど)
  • 職場環境 (人数、男女比、年齢構成など)
  • 業務の流れ (1ヶ月、1日単位での流れなど)
  • 残業 (有無、発生時期、時間目安など)
  • その他 (就労期間見込み・不定期の休日など)

5.オフィス内の見学

派遣社員が働く予定のフロアを見学する際は、派遣先企業の担当者がフロアを案内し、事務所内の施設を紹介します。

職場見学中に、一緒に働く予定の社員を紹介する場合は、事前にその社員に派遣社員が訪問することを伝え、簡単な挨拶を予定していることを知らせておきましょう。職場見学の予定を社内で事前に共有しておくと、当日にスムーズな対応が可能になります。

また、会社のセキュリティ上、派遣社員や派遣会社の担当者が入室できないエリアがある場合は、職場見学前にその情報を派遣会社に伝えておくことが重要です。これにより、見学当日に予期せぬ問題を避けることができます。

質疑応答

質疑応答の時間では、派遣先企業と派遣社員が互いに業務に関する確認事項を質問し合います。

派遣スタッフから派遣先への質問

派遣スタッフは、自分の経験やスキルが業務内容に適しているかどうかを確認するため、具体的な業務内容について質問します。例えば、業務を一人で進めるのか、複数名で作業を行うのか、実際の業務の進め方や1日のスケジュールなどを尋ねることがあります。また、就業前に準備しておくべきことがあるかどうかも質問することが一般的です。

さらに、職場環境についても質問が行われます。例えば、食堂や休憩室、更衣室などの施設が利用できるかどうかや、勤務時の服装規定について確認するケースも多く見られます。

派遣先から派遣スタッフへの質問

派遣先企業の担当者は、派遣社員が依頼予定の業務を問題なく遂行できるかを確認するために、これまでの業務経験やスキル、保有資格などについて質問します。この際、業務に直接関係のない質問は避け、個人的な事項に関する質問や、面接と誤解されるような発言をしないよう注意が必要です。

6.労働者派遣法が禁止する「特定行為」とは

労働者派遣法では、特定行為に関して以下のように規定されています。

【労働者派遣法第26条6項】
労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。

このように、派遣先企業が派遣社員を特定することは禁止されています。もし派遣先企業が特定行為を行うと、行政指導の対象となる可能性があるため注意が必要です。具体的には、後述する事項を行うと特定行為に該当し、法違反となる可能性があります。

履歴書の提出要請

派遣社員に履歴書の提出を求めることは、面接や選考において特定行為に該当するため禁止されています。通常の従業員採用では、候補者から履歴書や職務経歴書を提出してもらいますが、派遣社員には同様の要求をしないよう注意が必要です。

たとえ提出を求める書類が「スキルシート」など履歴書以外の名称であっても、生年月日など業務に直接関係のない情報を求める場合は、法違反となる可能性が高まります。

ただし、派遣先企業が要求するのではなく、派遣社員が自分の判断で履歴書を送付することは認められています。

面接の要請・実施

面接は企業が自社で働く人を選ぶために行われるもので、特定行為に該当するため法律で禁止されています。派遣先企業は、派遣社員との面接を求めることはできません。ただし、派遣社員が自ら希望する場合には、職場見学や業務に関する打ち合わせを行うことが可能です。

法律上、認められているのは、派遣社員が職場環境を確認するための職場見学などに限られています。職場見学を実施する際には、知識や技能など業務に直接関係する質問に限定し、面接と誤解されないよう注意が必要です。

筆記試験・適性検査の実施

筆記試験や適性検査は、企業がその人に自社で働いてもらうかどうかを判断するための要素となり、特定行為に該当するため禁止されています。これらの試験は、働く人を選ぶ行為とみなされるため、実施すると法違反となる可能性が高いので注意が必要です。

たとえ筆記試験や適性検査で確認する内容が業務に関連していたとしても、それ自体が特定行為に該当します。したがって、依頼予定の業務を派遣社員が遂行できるか確認したい場合は、事前に派遣会社にその旨を伝えるか、職場見学時に派遣社員に質問するなどの方法で確認を行いましょう。

年齢・性別の限定

特定の年齢や性別に該当する派遣労働者のみを受け入れることはできません。年齢や性別を限定して派遣社員を選ぶ行為は、労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法に違反するため、違法です。

労働施策総合推進法では、年齢を理由とした差別が禁止されており、男女雇用機会均等法では、性別による差別が禁止されています。

派遣社員に働いてもらう際には、業務に必要なスキルを持っている人に限定することは認められますが、年齢や性別といった業務の遂行に関係のない条件で限定することはできません。派遣先企業は、業務に必要なスキルに基づいて派遣会社にリクエストを行うことができますが、年齢や性別を指定することは法律で禁じられています。

派遣社員の指名

特定の派遣社員を指名することはできません。優秀な派遣社員の評判を聞いて、その社員に自社で働いてもらいたいと考えることがあるかもしれませんが、どの派遣社員をどの企業に派遣するかを決めるのは派遣会社の役割です。

派遣先企業が派遣会社に対して特定の派遣社員を指名して依頼する行為は、法律で禁止されています。労働者派遣法では、派遣先企業が特定の労働者を選ぶことを目的とする行為を禁じており、これに違反すると行政指導の対象となる可能性があります。

7.職場見学でNGな質問・発言とは

職場見学中に、派遣先企業の担当者が面接と誤解されるような発言をすると、労働者派遣法に違反する可能性があります。職場見学を実施する際には、派遣先企業の担当者が「面接と誤解されるNGな質問や発言」を事前に確認しておくことが重要です。

以下に紹介する質問や発言は、職場見学当日に避けるべきです。また、派遣社員が自己紹介や会話の中で自ら「個人情報に関する事項」や「業務の遂行能力に関係ない事項」に触れた場合でも、その点について質問しないよう注意しましょう。

個人情報に関する質問

個人情報に関する質問はしてはいけません。たとえば以下のような質問が該当します。

  • 氏名や年齢
  • 居住地や出身地
  • 家族に関すること
  • 派遣会社での雇用形態

業務の遂行能力に関係ない質問

業務の遂行能力に関係ない質問はしてはいけません。たとえば以下のような質問が該当します。

  • 本人の健康状態
  • 結婚・出産・離婚に関すること
  • 宗教・信仰の有無
  • 学歴・職歴
  • 退職理由

決定権があると誤解される発言

以下の発言は、派遣先企業が派遣スタッフを特定するような発言や面接と誤解されるような発言でありNGです。

  • 「あなたに決めました」
  • 「他の候補者に会ってから検討します」

8.職場見学を実施するときの注意点

職場見学を行う際には、当日にNGな発言や質問をしないことに加え、事前の準備でも注意が必要です。

事前準備:

派遣社員からの質問に対応できるよう、職場環境や部署に関する情報を事前に確認しておきましょう。

質問内容の整理:

職場見学当日に派遣社員に質問する内容と、してはいけない内容を整理しておくことが重要です。

セキュリティ対応:

セキュリティ上、職場見学時に入れないエリアがある場合は、事前に派遣会社に伝えておき、当日の混乱を避けましょう。

また、部署内や事業所全体の年齢構成や男女比、他の派遣スタッフの就業状況、利用可能な福利厚生や研修などについても確認が必要です。これらは派遣社員から質問される可能性があり、事前に確認しておかないと回答が難しいことがあります。スムーズに回答できるよう、想定される質問事項をリストアップして確認しておきましょう。

さらに、当日に派遣社員に対してする質問を事前に書き出し、それ以外の質問をしないようにすれば、NGな質問や発言を避けられます。

最後に、職場見学当日の流れや案内するエリアを事前に確認し、セキュリティ上案内できない場所があれば、それを派遣会社に伝えておくことが大切です。関係者への情報提供や伝達も忘れずに行いましょう。

9.まとめ

職場見学は、派遣社員が紹介された業務を引き受けるかどうかを判断するための重要な機会です。また、派遣先企業の担当者にとっても、派遣社員の人柄やスキルを事前に確認できる有意義な場となります。

ただし、面接や選考と誤解されるような言動には注意が必要です。派遣社員に業務を依頼する際には、その業務に関連する質問をすることは問題ありませんが、個人情報など業務に関係のない事項については質問しないようにしましょう。

職場見学当日の対応から、その後の派遣社員の就業開始までをトラブルなくスムーズに進めるためには、職場見学の実施に向けた事前準備をしっかりと行うことが大切です。

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