子育て時短勤務補助金はいつから?両立支援の詳細を紹介

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子育て時短勤務補助金はいつから?両立支援の詳細を紹介子育て時短勤務補助金はいつから?両立支援の詳細を紹介

2023年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」のなかで、子育て期の時短勤務に対して補助金を支給する「育児時短就業給付(仮称)」が盛り込まれました。時短勤務は一定の条件を満たす労働者に認められている制度であり、期間を定めて雇用される派遣社員も対象となります。派遣先企業の担当者としても、自社で受け入れている派遣社員が育児により労働時間の短縮を希望する場合に備えて、時短勤務に関連する政策や必要な両立支援について理解しておくのが望ましいでしょう。

この記事では時短勤務補助金の基礎知識とともに、派遣先企業も把握しておきたい両立支援の内容をわかりやすく解説します。

目次

  1. 子育て期の時短勤務に補助金
  2. 育児時短就業給付とは
    • 育児時短就業給付はいつから
  3. 短時間勤務制度とは
    • 短時間勤務制度の利用状況
    • 短時間勤務制度の課題
  4. 育児時短就業給付のメリット・デメリット
    • 育児時短就業給付のメリット
    • 育児時短就業給付のデメリット
  5. 育児時短就業給付の内容
    • 支給条件
    • 支給金額
  6. 育児時短就業給付の懸念点
    • マミートラックの助長
    • 女性に対する育児負担の偏り
    • フルタイム勤務者との不均衡
  7. 育児と仕事との両立支援
    • テレワーク
    • フレックスタイム制
    • 時差出勤制度
    • 時間単位の年次有給休暇制度
    • 子の看護休暇
  8. まとめ

1.子育て期の時短勤務に補助金

国は子どもを育てながら時短勤務(短時間勤務)をしている労働者に対し、賃金の1割に相当する額の給付金を支給する方針を打ち出しました。少子化対策の方針を示した「こども未来戦略方針」(2023年6月閣議決定)に盛り込まれた施策の一つで、短縮した時間を問わずに給付がおこなわれる見込みです。

時短勤務は育児・介護休業法によって規定されている労働者の権利です。しかし、時短勤務を選択すると収入が減るため、制度の利用をためらう労働者も多いのが現状です。このような状況を受けて創設される子育て期の時短勤務補助金には、労働時間の短縮による収入の低下を補うとともに、育児中の従業員に時短勤務の活用を促すねらいがあります。

子育て時短勤務補助金はいつから?両立支援の詳細を紹介

2.育児時短就業給付とは

育児時短就業給付(仮称)とは、2歳未満の子どもを育てながら時短勤務をしている労働者を対象に、時短勤務中の各月に支払われた賃金額の1割を支給する制度です。国による少子化対策の一つであり、働く親の育児と仕事の両立を金銭的な支援で後押しします。これにより、時短勤務を選ぶことで収入が減る状況が改善され、子育て中の労働者が柔軟な働き方を選択しやすくなります。

育児時短就業給付はいつから

厚生労働省は2023年12月の第188回職業安定分科会雇用保険部会において、育児時短就業給付に関する具体的な制度設計案を提示しました。これによると、育児時短就業給付は2025年度から実施される予定です。今年の通常国会で関連法案を提出する方針で、2025年度に向けて制度の整備が進められています。

参考:「年収の壁」への当面の対応策|厚生労働省

3. 短時間勤務制度とは

時短勤務(短時間勤務制度)とは、1日の所定労働時間を原則6時間とする制度です。育児を理由とする時短勤務の場合、対象は3歳未満の子どもを育てている従業員で、期間を定めて雇用される有期派遣社員も含まれます。

育児・介護休業法により、事業主は短時間勤務制度を設置する義務があり、対象の従業員が時短勤務を申し出た場合には拒否することができません。また、勤務しない時間数を超えて賃金額を減らすなど、時短勤務を利用する従業員の不利益となる行為は禁止されています。

なお、以下に該当する従業員は労使協定の締結により適用除外できます。

  • 雇用された期間が1年未満の場合
  • 週の所定労働日数が2日以下の場合
  • 業務の性質や勤務体制から、所定労働時間の短縮が困難だと認められる場合

短時間勤務制度の利用状況

厚生労働省の資料によると、育児を理由とした短時間勤務制度を「利用している」または「以前は利用していた」の合計が、女性・正社員で51.2%、女性・非正社員で24.3%であるのに対し、男性・正社員は7.6%でした(令和4年度調査)。女性と比べ、時短勤務を利用する男性は少なく「利用希望もない」と答えた男性も41.2%にのぼります。

両立支援制度の利用状況_短時間勤務制度:単数回答

出典:仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査について|厚生労働省

短時間勤務制度の課題

短時間勤務制度の課題として、制度活用による収入減が挙げられます。時短勤務を選択する従業員は、所定労働時間が通常の8時間から6時間に短縮され、労働時間は通常の75%となります。これにより基本給も75%となり、通常よりも25%少なくなってしまうのです。

また、責任のない役職に変更される、業務の責任の範囲が変わる、残業のない部署に異動するなど、時短勤務を利用した従業員に働き方の変化も起きています。労働時間の短縮により、これまでの働き方を継続できなくなる可能性があることも、短時間勤務制度の課題といえるでしょう。

4. 育児時短就業給付のメリット・デメリット

育児時短就業給付の対象は2歳未満の子どもを育てながら時短勤務で働く従業員に限られます。この制度には多くのメリットがある反面、一部の従業員に対する支援の提供がデメリットとなることも考えられます。

ここでは、育児時短就業給付のメリット・デメリットをご紹介します。

育児時短就業給付のメリット

育児時短就業給付のメリットとして、時短勤務の利用促進が挙げられます。給付金が支給されることで収入の低下を補えるため、子育てをしながら働く従業員が時短勤務を選びやすくなります。これにより、片方の親に負担が偏ることなく、育児期も柔軟に働けるようになるでしょう。また、育児と仕事の両立で生じる負担が軽減されることで、企業としては子育てを理由に離職するケースを防ぎ、従業員のキャリア形成を促進できるメリットもあります。

育児時短就業給付のデメリット

育児時短就業給付のデメリットとして、子育て以外で時短勤務を利用する従業員との不均衡が挙げられます。時短勤務を選ぶ理由は育児だけでなく、家族の介護や自分の病気などを理由に労働時間を短縮する人もいるため、公平性の観点から慎重な検討が必要になると指摘されています。また、給付金を支給することで時短勤務の長期化・固定化につながり、本人のキャリア形成に支障が生じる可能性もあります。

5. 育児時短就業給付の内容

育児時短就業給付は一定の条件を満たす労働者に対し、現行の育児休業給付とは別に支給される新しい給付制度です。本制度の支給条件と支給金額を以下にまとめました。

支給条件

育児時短就業給付の支給条件は、2歳未満の子どもを育てる時短勤務者です。育児休業給付と同様に、時短勤務の開始日より前の2年間に12か月以上雇用されている(雇用保険の被保険期間が12か月以上ある)労働者が対象となります。

なお、時短勤務の労働日数や労働時間については、制限を設けない方針で進められています。

支給金額

育児時短就業給付の支給率は、時短勤務中の各月に支払われた賃金額の10%です。子育て中の時短勤務者の賃金に上乗せする形で支給されます。育児を理由に休業するよりも、労働時間を短縮して働く時短勤務を選びやすくするために設定された支給率で、時短勤務中の手取りの減少を抑えることができます。

また、時短勤務後の賃金と給付額の合計が時短勤務前の賃金を超えないように調整し、一定の賃金額を超える場合には給付率を下げる必要があります。

6. 育児時短就業給付の懸念点

子育て期における柔軟な働き方を支援する育児時短就業給付ですが、本制度の導入によって以下のような懸念が生じることも指摘されています。

マミートラックの助長

マミートラックとは、子どもを持つ女性が産休や育休から職場復帰した際に、自分の意思とは関係なく出世コースから外れてしまうことをいいます。マミートラックは従業員のモチベーションを低下させ、人材確保の面でも不利に働きます。育児時短就業給付が始まると、時短勤務を延長する従業員が増え、マミートラックを助長する可能性があると指摘されています。育児とキャリア形成を両立するどころか、昇進には縁遠いキャリアコースに乗ってしまうおそれがあるということです。

女性に対する育児負担の偏り

育児時短就業給付が始まると時短勤務が固定化し、女性に対する育児負担の偏りが一層強まることも懸念されます。先述のとおり時短勤務を利用する労働者は女性に偏っているため、育児時短就業給付によって時短勤務が長期化すると、今後も育児の大部分を女性が担うことになると指摘されています。こうなると、育児時短就業給付の目的である「共働き・共育ての推進」からも逸れ、女性に負担が偏りすぎる状況が続いてしまいます。

フルタイム勤務者との不均衡

育児中の時短勤務者に給付金が支給されると、フルタイムで働く従業員から不満が出る可能性もあります。時短勤務により労働時間が減っているにもかかわらず、フルタイムで働く場合と同程度の収入を得ることができるからです。時短勤務者にとっても、フルタイム勤務者との不均衡が生じることで、職場内で肩身の狭い思いをするかもしれません。育児時短就業給付を円滑に進めるには、一緒に働く従業員にも理解を求める必要があるでしょう。

7. 育児と仕事との両立支援

時短勤務以外にも、企業が導入できる両立支援はさまざまあります。従業員が育児と仕事を無理なく両立し、自社で長く活躍してもらえる環境をつくるために、企業は以下のような両立支援に積極的に取り組むべきでしょう。

テレワーク

テレワークとは、ICTを活用した時間や場所にとらわれない働き方のことです。働く場所でテレワークを区分すると「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」「モバイル勤務」の3形態に分けられます。在宅勤務は自宅を就業場所とする働き方、サテライトオフィス勤務は本拠地とは別のワークスペースを就業場所とする働き方、モバイル勤務は移動中の車内や顧客先、ホテルなどを就業場所とする働き方です。オフィスへの出社を必須としない柔軟な仕事スタイルで、育児をしながら働く従業員への両立支援策となります。

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、自分の生活に合わせて労働者が自ら働く時間を決められる制度です。具体的には、あらかじめ働く時間の総量を決めたうえで、日々の始業時刻と終業時刻、労働時間を労働者が自由に設定します。子育てをしながら働く労働者の場合、出退勤時刻を調整して子どもの送り迎えをするなど、フレックスタイム制を活用することで時間を効率よく使えるようになります。

なお、フレックスタイム制においては法定労働時間を超えて働いたとしてもただちに時間外労働とはならず、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となります。通常とは異なる取り扱いに注意が必要です。

時差出勤制度

時差出勤制度とは、始業時刻と終業時刻を変更する制度のことです。多くの場合は1日の所定労働時間を変えずに、通常の出退勤時刻の繰上げ・繰下げをおこないます。たとえば通常の始業時刻を8時、終業時刻を17時としている企業が1時間繰り下げる場合、始業時刻は9時、終業時刻は18時となります。フレックスタイム制とは異なり、時差出勤制度では労働者が出退勤時刻や労働時間を自由に設定することはできません。

時間単位の年次有給休暇制度

時間単位の年次有給休暇制度とは、1時間単位で有給休暇を取得できる制度です。有給休暇は原則1日単位となっていますが、「就業規則への記載」と「労使協定の締結」の2つを満たす場合、企業は年5日の範囲内で時間単位の有給休暇を付与することができます。有給消化率の向上につながるとともに、より柔軟な働き方が可能となることで従業員のワークライフバランスも整うでしょう。

子の看護休暇

子の看護休暇とは、小学校就学前の子どもが病気や怪我をした場合に、有給休暇とは別に休暇を取得できる制度です。労働者1人につき年間5日、子どもが2人以上の場合は年間10日の取得が可能とされています。2021年1月の法改正により、1日単位と半日単位に加え、1時間単位でも休暇を取得できるようになりました。

なお、病気や怪我の程度による制限はなく、労働者が必要と考える場合に休暇取得を申し出ることができます。

8.まとめ

育児時短就業給付は2025年4月開始予定の新しい給付制度です。対象は2歳未満の子どもを育てる時短勤務者で、有期雇用で働く派遣社員も対象となります。通常の勤務から時短勤務に切り替えることで発生する賃金の減少を補うねらいがあり、政府が進める少子化対策の一つに位置付けられています。

企業が取り組むべき育児と仕事の両立支援策としては、テレワークやフレックスタイム制、時間単位の年次有給休暇制度などもあります。これらの制度を取り入れると、子育て中の従業員だけでなく、誰もが働きやすい職場環境が実現します。従業員のニーズも確認しながら、自社に必要な制度の導入を検討しましょう。