派遣社員の評価は必要?派遣先企業が押さえるべきポイントと配慮義務を解説

人材派遣の実践
派遣社員の評価は必要?派遣先企業が押さえるべきポイントと配慮義務を解説派遣社員の評価は必要?派遣先企業が押さえるべきポイントと配慮義務を解説

派遣社員を受け入れている企業では、派遣会社から派遣社員の評価を求められることがあります。しかし、「なぜ評価が必要なのか」「どのように評価すればよいのか」と疑問に思う派遣先担当者の方も少なくありません。派遣社員の評価は、2020年の労働者派遣法改正で規定された配慮義務と深く関係しています。そのため、派遣先企業の担当者は、評価の必要性や方法を正しく理解しておくことが大切です。

本記事では、派遣社員の評価について、派遣先企業が押さえるべきポイントや配慮義務を中心に解説します。

 

この記事でわかること

  • 労働者派遣法改正により新設された、人事評価に関する配慮義務の内容と法的位置づけ
  • 派遣先均等・均衡方式と労使協定方式に基づく、派遣社員の評価方法と必要な情報提供
  • 公正な評価を行うための実務上の留意点と、モチベーション向上や生産性改善につながる効果

目次

  1. 派遣社員の評価とは
  2. 派遣社員の評価が必要な理由
    • 労働者派遣法の配慮義務に基づくもの
    • 義務や努力義務との違い
  3. 派遣社員の評価方法
    • 派遣先均等・均衡方式
    • 労使協定方式
  4. 派遣社員を評価する際に押さえておくべきポイント
    • 派遣会社とのすり合わせを済ませておく
    • 業務内容と成果に基づいて評価する
    • 評価結果を派遣料金に反映させる
  5. 派遣社員を適切に評価するメリット
    • 派遣社員のモチベーション向上
    • 生産性の向上
    • 優秀な人材が集まりやすい
  6. 派遣社員の評価でトラブル防止のために注意すべき点
  7. まとめ

1.派遣社員の評価とは

派遣社員の評価とは、派遣社員の職務内容や職務遂行スキル、勤務態度、成果などを客観的に判断する取り組みを指します。

通常の職場では、同じ企業に所属する上司が部下の人事評価を行います。しかし、派遣社員の場合、派遣会社が日常の勤務状況を把握することはできません。そのため、派遣社員の業務を日頃から見ている派遣先企業に対して、評価の実施が求められます。

派遣会社は、派遣先から得られた評価を、賃金の見直しや処遇改善を行う際の判断材料として活用しています。

派遣社員の評価とは

2.派遣社員の評価が必要な理由

派遣先企業が派遣社員の評価を行う際には、一定の時間や労力がかかります。そのため、派遣先企業の担当者としては、なぜ評価が必要なのかをしっかり把握しておくことが重要です。ここでは、派遣社員の評価を行わなければならない理由について解説します。

労働者派遣法の配慮義務に基づくもの

2020年の労働者派遣法改正により、「人事評価に関する配慮義務」が新設されました。
これは主に同一労働同一賃金の実現を目的とした規定です。派遣社員の場合、派遣会社のみで人事評価を行うことは困難です。

そのため、派遣社員を日常的に指導・監督している派遣先企業に対して、年1回程度の評価実施が求められます。派遣先企業は、この配慮義務に基づき派遣社員を公正に評価し、その情報を派遣会社に提供する必要があります。

義務や努力義務との違い

法律の規定には「配慮義務」と似たものとして「義務」や「努力義務」もあります。ただし、この3つは法的拘束力の強さに違いがあります。

配慮義務は「義務」ほど強くはありませんが、「努力義務」よりは強い位置づけです。
単に努力するだけでなく、計画を立てて実行に移し、一定の成果を上げることまで求められます。

一方、努力義務は「努力すれば果たしている」と扱われ、具体的な成果までは求められません。また、義務の場合には実施内容の報告が必要とされますが、配慮義務には報告義務まではありません。

罰則については、義務違反には制裁が設けられているのに対し、配慮義務には罰則はありません。ただし、配慮義務に違反した場合でも行政指導の対象となる可能性があります。

3. 派遣社員の評価方法

派遣社員の待遇や評価の方法には、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2種類があります。では、それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。

派遣先均等・均衡方式

派遣先均等・均衡方式とは、派遣先企業で直接雇用されている従業員の待遇や給与などを基準とする方法です。派遣先企業で派遣社員と同じ業務に従事している従業員と比較し、均等・均衡な評価を行う必要があります。

また、派遣会社は賃金に限らず、福利厚生などの条件についても派遣先従業員と同水準になるよう整備しなければなりません。そのため、派遣先企業は派遣会社に対し、比較対象となる労働者の職務内容、配置変更の範囲、雇用形態、待遇、選定理由などの情報提供を行う必要があります。

労使協定方式

労使協定方式とは、派遣会社で締結される労使協定に基づき、派遣社員の待遇を決定する方法です。派遣社員は派遣会社に雇用されているため、この方式では労使協定が待遇の基準となります。

ただし、同じ派遣先企業で同じ業務に従事していても、所属する派遣会社が異なれば待遇に差が生じる可能性があります。そのため待遇格差をなくすために、派遣先企業からの協力や情報提供が欠かせません。

派遣先企業は、教育訓練や給食施設、休憩室、更衣室といった福利厚生に関する情報を提供する義務があります。こうした情報も踏まえて、派遣会社は派遣社員の評価や処遇を決定することになります。

4. 派遣社員を評価する際に押さえておくべきポイント

派遣先企業が派遣社員の評価を行う際には、公正さを確保することが重要です。では、そのために押さえておくべきポイントを確認していきましょう。

派遣会社とのすり合わせを済ませておく

公正な評価を行うためには、派遣会社と派遣先企業が評価基準に関して共通の認識を持っていることが欠かせません。認識にずれがあると、適正な評価や待遇への反映が難しくなります。

そのため、評価基準や評価のウエイトなどの情報は事前に共有し、双方で認識をすり合わせておきましょう。実務では、派遣会社から評価シートなどが提供される場合もあります。

業務内容と成果に基づいて評価する

派遣社員が従事している業務の内容や成果を根拠に評価することで、公正性を担保できます。その際には、定量評価と定性評価の両方を組み合わせることが重要です。定量評価は客観性を確保でき、定性評価では数字には表れにくい部分を正当に評価できます。どちらか一方に偏らないようバランスに注意しましょう。

評価結果を派遣料金に反映させる

派遣会社では、派遣社員の評価結果に応じて賃金を引き上げる必要が生じる場合があります。その際、派遣料金の改定について派遣先企業に交渉が行われることになります。

派遣先企業としては、同一労働同一賃金の考え方を踏まえ、評価結果を派遣料金に適切に反映させることが求められます。交渉にあたっては、派遣社員の勤務態度や業務遂行能力などの要素を考慮して応じるのが望ましいでしょう。

5. 派遣社員を適切に評価するメリット

派遣先企業が派遣社員を適切に評価することは、法律を守るためだけではありません。評価を通じて、次のようなメリットも得られます。

派遣社員のモチベーション向上

派遣社員にとって、自分のスキルや勤務態度が正しく評価されることは大きな励みになります。評価が適切に行われれば、より意欲的に業務へ取り組むことが期待できるでしょう。その結果、派遣社員と良好な関係を築きやすくなり、職場全体の雰囲気の改善にもつながります。他の従業員にも良い影響を与えることがメリットです。

生産性の向上

適切な評価を受けることで、派遣社員は自分の強みと課題を把握できるようになります。その上で改善に向けて努力の方向性を明確にできるため、業務の質の向上が期待できます。また、スキルアップへの意識も高まり、結果として職場全体の生産性向上につながります。

優秀な人材が集まりやすい

企業にとって、有能な人材を確保することは最も重要な課題の一つです。派遣社員のスキルや働きぶりを適切に評価していれば、信頼できる企業として選ばれる可能性が高まります。

それは派遣会社経由の人材確保にとどまらず、直接雇用の際の求人募集でも有能な応募者を集めやすくなるでしょう。結果として、将来的に優秀な人材を確保しやすく、長期的な成長につながる点が大きなメリットです。

6. 派遣社員の評価でトラブル防止のために注意すべき点

派遣会社にとって、派遣社員を高く評価することは派遣料金の上昇につながる可能性があります。そのため、派遣先企業の人事担当者の中には、評価を低めに抑えたいと考えるケースがあるかもしれません。

しかし、あくまで客観的かつ適切な評価を行うことが求められます。事実と異なる内容を記載したり、根拠のない評価を行ったりすることは避けなければなりません。虚偽の情報を提供したり、十分な情報を提供しなかった場合には、配慮義務違反とみなされる可能性があります。

行政処分や社名公表といったリスクがあるため、常に適切な評価を心がけましょう。

7. まとめ

派遣先企業による派遣社員の評価は、2020年の労働者派遣法改正において「人事評価に関する配慮義務」として新設されました。派遣会社との事前の取り決めに基づき、「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかの方法で適切に評価しなければなりません。

派遣会社は、派遣先から提供された評価情報をもとに派遣社員の賃金を決定します。評価内容が事実と異なっている場合には配慮義務違反とされる可能性があるため注意が必要です。

法律の遵守はもちろんのこと、生産性の向上や優秀な人材の確保といった観点からも、適切な評価を継続的に行うことが重要です。

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