安全衛生教育は派遣社員も必要?派遣先企業が対応すべき内容を解説

人材派遣の実践
安全衛生教育は派遣社員も必要?派遣先企業が対応すべき内容を解説安全衛生教育は派遣社員も必要?派遣先企業が対応すべき内容を解説

企業では自社の従業員に対して安全衛生教育を実施する義務があります。ただ、派遣社員に対しては、どのような義務があるのか、判断に迷うこともあるでしょう。そこで、派遣先と派遣元の役割分担を把握することが重要です。本記事では派遣社員の安全衛生教育について、派遣先企業が対応すべき内容や、注意点などを中心に解説していきます。

目次

  1. 派遣社員にも安全衛生教育が必要?
  2. 雇い入れ時に実施すべき安全衛生教育の内容
    • 8項目の実施が必須
    • 実施方法
  3. 派遣先企業と派遣元企業の役割分担
    • 派遣先企業が行うこと
    • 派遣元企業が行うこと
  4. 派遣先企業が行う具体的な安全衛生教育の内容
    • 製造業における安全衛生教育
    • 小売業における安全衛生教育
    • オフィスにおける安全衛生教育
  5. 安全衛生教育を実施する上での注意点
    • 派遣元企業との連携や情報共有が必要
    • 現場に即した内容で実施
    • 災害時の対応を盛り込む
  6. まとめ

1.派遣社員にも安全衛生教育が必要?

安全衛生教育は、労働安全衛生法59条により、事業主に実施が義務づけられているものです。派遣社員は派遣元企業と雇用関係にあるため、派遣元企業が事業主だと考える人もいるかもしれません。しかし、安全衛生教育に関しては、派遣元企業だけでなく、実は派遣先企業にも実施の義務があります。

派遣社員は、直接雇用の従業員と比べて、就業環境が変わりやすい傾向にあり、労働災害を防ぐ観点からも、安全衛生教育の必要性は高いと言えます。正しい手順で安全に作業してもらうためにも、安全衛生教育をしっかりと実施しましょう。

なお、安全衛生教育を実施するタイミングは、直接雇用の従業員と同様に、雇い入れ時と作業内容変更時です。

参考:労働安全衛生法 第六章 労働者の就業に当たっての措置(第五十九条―第六十三条)(e-Gov 法令検索)

安全衛生教育は派遣社員も必要?派遣先企業が対応すべき内容を解説

2. 雇い入れ時に実施すべき安全衛生教育の内容

雇い入れ時に実施すべき安全衛生教育の内容は、労働安全衛生法で定められています。具体的にどんな内容を、どのように実施すればいいのかを確認していきましょう。

8項目の実施が必須

労働安全衛生法59条では、雇い入れ時の実施が必須の安全衛生教育として、次の8項目が規定されています。

  1. 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること
  2. 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること
  3. 作業手順に関すること
  4. 作業開始時の点検に関すること
  5. 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること
  6. 整理、整頓及び清掃の保持に関すること
  7. 事故時等における応急措置及び退避に関すること
  8. 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項

参考:労働安全衛生法 (安全衛生教育) 第五十九条

以前は業種によって省略できる項目もありましたが、2024年4月の法改正により、現在ではすべての業種で8項目すべての実施が必須となっています。ただし、事務職など危険な作業が少ない職種では、整理整頓や機器の安全な取り扱いといった内容を中心に実施しても問題ありません。

実施方法

雇い入れ時の安全衛生教育は、自社内で行う以外に、外部機関の講座を受講させる方法を採ることも可能です。自社内で実施する場合は、作業方法や自社の設備を熟知している現場の責任者が講師を務めると効果的でしょう。

外部機関を利用する場合、コストはかかりますが、社内の負担を減らせるというメリットがあります。リソースに限りがある場合は、外部機関の利用を検討してみるのもいいかもしれません。また、パソコンやスマートフォンを使ったeラーニング形式で受講させることも可能です。

3. 派遣先企業と派遣元企業の役割分担

安全衛生教育は、派遣先企業と派遣元企業の両方が実施する義務を負っているため、それぞれの役割分担を理解しておくことが重要です。それでは、具体的に何を行うべきかを見ていきましょう。

派遣先企業が行うこと

派遣先企業は、まず派遣元企業が実施した雇い入れ時の安全衛生教育の内容を確認します。その上で、派遣先の事業所に即した具体的な作業手順や、使用する機械などに関する教育を実施する義務があります。

また、派遣社員の作業内容が大きく変わる際には、その都度、作業内容変更時の安全衛生教育を行わなければなりません。危険を伴う特定の業務(危険有害業務)に従事させる場合は、特別教育を実施することも派遣先企業の役割です。

派遣元企業が行うこと

派遣元企業は、雇い入れ時の安全衛生教育として、労働災害防止に関する一般的な教育を実施します。派遣元企業は、個々の派遣先の作業内容や操作する機械などについて詳細に把握しているわけではないため、教育内容は基本的なものに限られます。

派遣先の変更などに伴い作業内容が変る場合には、その業務に合わせた安全衛生教育も行う必要があります。

4. 派遣先企業が行う具体的な安全衛生教育の内容

派遣先企業が実施すべき安全衛生教育の具体的な内容を、業種別に見ていきましょう。

製造業における安全衛生教育

製造業の現場には、労働災害につながるヒヤリハットなどの危険が潜在しています。そのため、現場の具体的な状況を把握している派遣先企業が安全対策を徹底することが非常に重要です。

また、製造業では危険を伴う業務が多いため、フォークリフトやクレーン、ゴンドラ、ボイラーなどの特定の業務に関しては、特別教育を実施する必要があります。特別教育では、業務で使用する機械や設備を安全に使用するための知識をしっかりと教育しましょう。

小売業における安全衛生教育

小売業は製造業と比べて危険な業務は少ないものの、バックヤードでの業務には注意が必要です。商品の品出しや売り場の装飾作業などでも、思わぬケガにつながるリスクがあります。

たとえば、脚立からの転倒や、ダンボールで手を切るなど、現場で起こりやすい事故のリスクについて共有することが大切です。過去にその職場で起こった事故や発生したヒヤリハット事例などを教育に含めるのも有効です。

オフィスにおける安全衛生教育

オフィス業務では、ケガをするような事故は少ないかもしれません。しかし、長時間にわたるデスクワークやパソコン作業が原因で、メンタルヘルスや身体的な不調を引き起こすリスクがあります。

そのため、腰痛や肩こり、眼精疲労の予防法、そしてストレスマネジメントに関する教育も重要です。働く人の心身の健康を守るためのアプローチを教育に取り入れましょう。

5. 安全衛生教育を実施する上での注意点

派遣先企業で安全衛生教育を実施する際に、注意すべきポイントを見ていきましょう。

派遣元企業との連携や情報共有が必要

派遣先企業と派遣元企業は、安全衛生教育の実施内容を互いに報告し、情報共有することが大切です。派遣先企業は、派遣元企業での教育内容を正確に把握しておくことで、重複を避け、より効果的な教育ができるようになります。綿密に連携しながら進めることで、危険防止につながる安全衛生教育を実現しましょう。

現場に即した内容で実施

同じ業種でも、現場の状況や潜在的なリスクは事業所によって異なります。そのため、実際の業務を行う現場の状況に合わせて、教育内容を調整することが重要です。

また、安全衛生教育を実施しただけでは、派遣社員が内容を十分に理解しているとは限りません。理解が不十分なままだと、危険を未然に防げない可能性もあります。チェックリストや確認テストなどを実施して理解度を把握し、高所作業や機械操作などの危険を伴う業務の場合は特に、確実に理解してもらえるように進めましょう。

災害時の対応を盛り込む

災害発生時は派遣元企業だけでなく派遣先企業も、派遣社員の安全に対して責任を負います。万が一の事態に備え、救命訓練や避難訓練などを、雇い入れ時だけでなく定期的に実施するのが望ましいでしょう。

災害や事故が発生した際にパニックにならないよう、具体的な対策方法を安全衛生教育に盛り込んでおきましょう。いざという時でも落ち着いて行動できるようになります。

6.まとめ

派遣社員の安全衛生教育は、派遣元企業だけでなく派遣先企業にも実施義務があります。派遣元企業が一般的な内容を扱うのに対し、派遣先企業は現場に即した具体的な教育を行います。危険有害業務に必要な特別教育の実施も、派遣先企業の役割です。

災害時の対応なども教育に含め、派遣元企業と連携しながら、安全な職場環境を整えていきましょう。

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