派遣社員のキャリアアップ措置|派遣先企業が知っておきたい協力・配慮の義務と教育訓練の進め方

人材派遣の実践
派遣社員のキャリアアップ措置|派遣先企業が知っておきたい協力・配慮の義務と教育訓練の進め方派遣社員のキャリアアップ措置|派遣先企業が知っておきたい協力・配慮の義務と教育訓練の進め方

派遣社員のキャリアアップ措置は、労働者派遣法に基づき"派遣元の事業主"に課せられた義務です。しかし、この措置を現場で機能させるには、"派遣先の企業"による協力が不可欠であり、法的な協力義務も課せられています。

派遣社員のキャリアアップ措置への協力を怠ると、法令違反のリスクや派遣元とのトラブルにつながる可能性があります。

本記事では、派遣先企業として知っておくべき協力や配慮の義務についての根拠や、実務の進め方、そして措置への協力がもたらすメリットを解説します。

 


この記事でわかること

  • 派遣社員のキャリアアップ措置の概要
  • 派遣先企業が果たすべき具体的なキャリアアップ措置の「協力・配慮」について
  • 派遣社員のキャリアアップ措置に協力することで、派遣先企業が得られるメリット


目次

  1. 派遣社員のキャリアアップ措置とは
    • 派遣社員のキャリアアップ措置の概要
    • キャリアアップ措置の対象者
  2. キャリアアップ措置の具体的な内容
    • 教育訓練の実施に協力する
    • キャリアコンサルティングへの協力体制を整える
    • 教育訓練を見据えた契約内容・料金設定の見直しに協力する
    • 教育訓練の受講機会の確保と柔軟な配慮
  3. キャリアアップへの協力が派遣先にもたらす3つのメリット
    • 派遣社員の定着率と安定稼働につながる
    • 教育を通じて業務品質を高める
    • 派遣社員と派遣元から信頼される
  4. まとめ

1.派遣社員のキャリアアップ措置とは

派派遣社員のキャリアアップ措置とは、派遣元の事業主に課された、派遣社員のキャリア形成のための取り組みを支援する義務のことです。この措置の目的や具体的な内容について、詳しく見ていきましょう。

派遣社員のキャリアアップ措置とは

派遣社員のキャリアアップ措置の概要

平成27年9月30日施行の労働者派遣法改正により、派遣元事業主は派遣社員に対するキャリアアップに取り組む必要があります。労働者派遣法には、次のように定められています。

第30条の2 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者が段階的かつ体系的に派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるように教育訓練を実施しなければならない。
この場合において、当該派遣労働者が無期雇用派遣労働者(期間を定めないで雇用される派遣労働者をいう。以下同じ。)であるときは、当該無期雇用派遣労働者がその職業生活の全期間を通じてその有する能力を有効に発揮できるように配慮しなければならない。
2 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の求めに応じ、当該派遣労働者の職業生活の設計に関し、相談の機会の確保その他の援助を行わなければならない。

引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 | e-Gov 法令検索

キャリアアップ措置の目的は、派遣社員の能力向上と職業生活の安定です。派遣社員の専門性を向上させ、職務の幅を広げることで、派遣先での正社員への転換や直接雇用、待遇の向上につなげていくことが重視されています。

措置の具体的な内容は次の3点です。

  1. 段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画

    教育訓練は次の全てを満たす必要があります。

    • 雇用する全ての派遣社員が対象
    • 有給かつ無償で実施
    • 派遣社員のキャリアアップに資する内容
    • 入社時の教育訓練を含む
    • 派遣社員の長期的なキャリア形成に役立つ内容
  2. キャリアコンサルティングの相談窓口の設置
  3. キャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供について配慮(派遣元が配慮すべき事項)

教育訓練は、派遣社員の待遇改善や正社員化、職務に必要な技術向上といったキャリア形成に役立つ内容でなければなりません。

出典:派遣労働者のキャリアアップのため、 教育訓練計画を策定してください。(厚生労働省)

出典:派遣元事業主の講ずべき措置は・・・(厚生労働省)

キャリアアップ措置の対象者

キャリアアップ措置の対象者は、派遣元事業主に雇用されている派遣労働者全員です。ただし、措置の内容によって対象者が異なります。

  • 教育訓練:派遣元に雇用されている派遣労働者全員(義務)
  • キャリアコンサルティング:相談を希望する全ての派遣労働者(希望制)

2.キャリアアップ措置の具体的な内容

派遣社員のキャリアアップは、基本的には派遣元の義務ですが、派遣先企業として派遣元に協力することが重要です。そこで、派遣先が取り組むべき内容を詳しく解説します。

教育訓練の実施に協力する

派遣元が作成する教育訓練計画に基づいて、派遣先もOJTの実施やスキル習得支援に協力する必要があります。以下を参考にして教育訓練に協力しましょう。

  • 派遣社員の志向や能力を派遣元が把握できるよう情報共有する
  • 教育訓練を受けられるよう、勤務スケジュールを調整する
  • OJTの内容を派遣元と共有し、重複や不足を防ぐ
  • 派遣元では実施できない教育訓練を実施する

4つ目の「派遣元で実施できない教育訓練を実施する」点が特に重要です。均衡・均等待遇(同一労働同一賃金)の観点から、派遣元の求めに応じて、派遣先の通常の労働者と同様の業務を行う派遣社員に対しては、同様の教育訓練の機会を提供するよう努めなければなりません。

参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

キャリアコンサルティングへの協力体制を整える

派遣社員にキャリアコンサルティングの機会を確保することは、派遣元事業主の義務です。この義務を円滑に果たすため、派遣先企業には派遣元への協力が求められます。
派遣先がキャリアコンサルティングの実施に協力すると、派遣社員の強みや弱みを正確に把握でき、キャリア形成につなげやすくなります。派遣先企業として有効な協力体制には、次のような取り組みが挙げられます。

  • 派遣元のキャリア相談員や調整担当者と連携し、必要な情報を共有する
  • 派遣社員が経験した職務内容やその習熟度を、派遣元へ正確に報告する体制を整える
  • 業務評価シートなどを活用し、派遣社員の能力に対する客観的な評価を派遣元に共有する

これらの協力により、派遣元は派遣社員の適切な職業生活の設計に必要な情報に基づいた質の高い相談機会を提供できます。

教育訓練を見据えた契約内容・料金設定の見直しに協力する

教育訓練の実施には当然費用が発生します。派遣先企業としては、派遣元が負担する教育訓練費用も考慮したうえで、契約内容や料金を検討することが重要です。

派遣元企業が教育訓練費を確保するために、派遣料金の引き上げを行わず、マージン率のみを引き上げる事例が見られます。しかし、これは派遣社員の賃金削減を招くことになり、キャリアアップ措置の趣旨に反するため、労働者派遣法上でも望ましい対応ではありません。

派遣先としても、キャリアアップ措置の必要性を理解し、派遣元と誠実に協議することが求められます。教育訓練の費用負担を踏まえ、必要に応じて契約料金の見直しに応じるなど、相互理解に基づく歩み寄りの姿勢を見せましょう。

教育訓練の受講機会の確保と柔軟な配慮

派遣先には、派遣元が実施する教育訓練を派遣社員がスムーズに受講できるよう、柔軟な配慮を行うことが求められます。たとえば、次のような取り組みが有効です。

  • 派遣元から教育訓練の計画を情報共有してもらい、現場の業務に支障が出ないよう調整する
  • 教育訓練が勤務時間外に重ならないよう、受講日程を調整する
  • e-ラーニングなどオンラインでの受講が可能な場合、社内で実施できる環境や時間の確保に協力する
  • 派遣社員本人にヒアリングを行い、受講中は業務の負担を軽減するなど、業務と訓練の両立ができるよう調整する

教育訓練は、社内講座や外部スクールとの提携、資格取得支援など多岐にわたります。派遣元事業主がどのような教育訓練の機会を提供しているのかを事前に把握し、現場での業務調整を適切に行えるようにしましょう。

3. キャリアアップへの協力が派遣先にもたらす3つのメリット

派遣先企業がキャリアアップに協力するメリットは、法令遵守だけではありません。ここでは、派遣先のメリットを3点解説します。

派遣社員の定着率と安定稼働につながる

キャリア形成支援への協力は、派遣社員の定着率向上と安定稼働に直結します。派遣社員が支援を受けることで、自身のキャリアを前向きに捉え、派遣先への満足度や信頼感を高める効果があるためです。

キャリア形成によって派遣社員のスキルが高まれば、任せられる業務の範囲も広がり、派遣先での評価が待遇改善(時給アップなど)につながりやすくなります。結果として、派遣社員の職場への満足度が高まり、長期的な安定稼働と離職の抑制が期待できるでしょう。

教育を通じて業務品質を高める

教育訓練によって派遣社員の能力が高まると、業務品質の向上が期待できます。派遣社員が訓練で業務に必要な知識やスキルを習得し、日々の業務で活かせれば、作業精度が上がり、ミスや手戻りを減らせるでしょう。これは、派遣先企業の生産性向上に直結します。

派遣元が派遣先のニーズを踏まえて研修計画を立て、教育訓練を業務に活かせるよう、派遣先は現場の具体的なニーズについて十分に情報共有を行うことが重要です。

派遣社員と派遣元から信頼される

教育訓練やキャリア支援に前向きな姿勢を示す派遣先は、派遣社員と派遣元の双方から高い信頼を得やすくなります。

【派遣社員からの評価】
能力向上や待遇の改善は、派遣社員にとって重要な労働条件です。派遣社員のキャリア形成に協力的な派遣先は「成長できる・安心して働ける職場」と評価されやすくなります。

【派遣元からの評価】
派遣元にとっても、派遣社員の教育・キャリア支援に協力的な派遣先は貴重な存在となるため「安心して人材を送り出せる企業」と評価されるでしょう。

派遣元との協力関係を築くことは、優秀な派遣社員を優先的に紹介される可能性を高めるなど、結果的に派遣先企業の人材確保に貢献します。

4. まとめ

派遣社員のキャリアアップ措置は、派遣元に課された義務であると同時に、派遣先にも法に基づく協力義務があります。

派遣社員のキャリア支援は単なる法令遵守にとどまらず、派遣先にも長期的なメリットをもたらします。派遣社員が働きやすくなり長く働いてもらえる効果が期待できるほか、業務に関する技能が向上し、より高度な業務を任せられるようになります。

派遣先としても有益なキャリアアップ措置が実施できるよう、派遣元と積極的に連携し、双方にとって良いパートナーシップを築きましょう。

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