派遣先企業が守るべきコンプライアンス|派遣法・36協定・違反リスクも

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派遣先企業が守るべきコンプライアンス|派遣法・36協定・違反リスクも派遣先企業が守るべきコンプライアンス|派遣法・36協定・違反リスクも

派遣社員を受け入れている企業は、派遣社員にとっての雇用主ではないものの、労働者派遣法の遵守や適切な労働時間管理など、さまざまな責任を追っています。しかし、派遣先企業が果たすべきコンプライアンスを正しく理解していないケースも少なくありません。

知らないうちに法律違反してしまうリスクを防ぐためにも、基礎知識を押さえることが重要です。本記事では派遣先企業が守るべきコンプライアンスのポイントをわかりやすく解説します。

目次

  1. 労働者派遣法に基づいて派遣先企業が守るべきこと
    • 派遣期間の制限
    • 派遣社員の事前特定禁止
    • 二重派遣の禁止
    • 契約書不記載業務依頼の禁止
    • 同一労働同一賃金
    • 日雇い派遣は原則禁止
    • 離職後1年以内の労働者派遣の禁止
    •  
  2. 36協定と労働時間管理のポイント
    • 時間外労働・休日労働は派遣元企業での36協定が必要
    • 労働時間の管理は派遣先企業が行う
    • 割増賃金が発生する場合の対応
  3. 派遣先企業でコンプライアンス違反があった場合のリスク
    • 罰則の適用
    • 行政指導
    • 労働契約申込みみなし制度の対象になる
  4. コンプライアンス遵守のために派遣先企業が実施すべきこと
    • 派遣先責任者と派遣先苦情申出先担当者の選任
    • 派遣元企業との連携強化
    • 安全衛生管理体制の強化
  5. まとめ

1.労働者派遣法に基づいて派遣先企業が守るべきこと

労働者派遣法では、派遣先企業が果たすべき義務や禁止事項について規定されています。具体的にどのようなことを守るべきか見ていきましょう。

派遣先企業が守るべきコンプライアンス|派遣法・36協定・違反リスクも

派遣期間の制限

同じ派遣労働者を、同じ部署やグループなど同一の組織で受け入れられる期間は、最長3年までと定められています。ここでいう「組織」とは、基本的に「課」や「グループ」などを指し、企業全体ではありません。ただし、実態に即して判断されるため、指揮命令系統が同一の場合には同一組織として扱われる場合もあるため注意が必要です。

また、個人単位だけでなく事業所単位でも3年の制限が設けられています。事業所単位の制限は、労働組合または過半数労働者代表に意見聴取を行えば、延長が可能です。

派遣社員の事前特定禁止

派遣社員の選定は本来、派遣元企業が行います。派遣先企業は受け入れ予定の派遣社員に対して、事前の面接や試験、履歴書の提出などを求めることはできません。

業務に必要なスキルや資格の条件などを派遣元企業に伝えて、適切な人材を選定してもらうことは可能ですが、年齢や性別などの指定はできません。

二重派遣の禁止

二重派遣とは、派遣先企業が受け入れた派遣社員を、さらに別の企業や事業所へ派遣することです。仮に派遣社員を取引先などへ再び派遣する行為があれば、それは二重派遣に該当し、問題となります。

二重派遣が行われていると、派遣社員が実際に働いている事業所と派遣元企業との間に契約関係がなくなり、労災やトラブル発生時の責任が不明瞭になるため、禁止されています。

契約書不記載業務依頼の禁止

派遣社員に依頼できる業務は、契約書に明記され内容のみで、記載されていないほかの業務を任せることはできません。

たとえば、契約書に経理業務と記載されていれば、依頼できるのは経理業務のみです。他部署で人手が足りていない場合などでも、派遣社員に手伝いを頼むことはできません。

同一労働同一賃金

派遣社員にも同一労働同一賃金の原則が適用されます。派遣先企業で直接雇用されている従業員を基準に、派遣社員の待遇格差が生じないようにします。これは給与だけでなく、教育訓練や福利厚生の面も含まれます。

また、派遣先企業は「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかの方法で派遣社員の待遇を決定する必要があります。

「派遣先均等・均衡方式」では、派遣先企業で直接雇用されている同じ業務内容の従業員と比較し、給与や各種手当、賞与、福利厚生、教育訓練の機会など、あらゆる待遇面で不合理な格差がないように調整します。この際、仕事内容だけでなく、「責任範囲」や「転勤の有無」「ノルマの有無」など雇用条件全体を総合的に考慮して判断します。

一方、「労使協定方式」を選択した場合は、派遣元企業と労使協定で定めた待遇基準に基づき、基準を満たしていれば、派遣先企業の従業員と必ずしも同じ水準でなくても問題ありません。

日雇い派遣は原則禁止

31日未満の期間を定めた派遣契約は「日雇い派遣」に該当します。日雇い派遣は雇用が不安定になりやすいなどの理由から2012年の労働者派遣法改正で原則禁止になりました。現在では、派遣期間を31日以上に定める必要があります。

ただし例外として、60歳以上の人や、雇用保険の適用外である学生、生業収入が500万円以上で副業として働く場合などには適用されません。また、世帯主収入が500万円以上で主たる生計者でない場合も例外として扱われます。

離職後1年以内の労働者派遣の禁止

派遣先企業は、自社を離職してから1年以内の人を派遣社員として受け入れることができません。たとえ派遣先の部署が異なっても、法人単位で判断されます。こうしたルールは、労働者の待遇悪化を防ぐために設けられています。

ただし、派遣元企業が該当者を選定してしまう可能性もゼロではありません。万が一、離職後1年以内の人が派遣社員として同じ法人に派遣された場合、派遣先企業は速やかにその旨を派遣元企業に通知する必要があります。

ただし、この規制は60歳以上の定年退職者には適用されません。定年退職者は年齢や就業形態の特性から、例外として扱われています。

2. 36協定と労働時間管理のポイント

派遣社員の36協定や労働時間の管理は、直接雇用の従業員とは異なる扱いが求められます。派遣先企業がとくに注意すべきポイントを見ていきましょう。

時間外労働・休日労働は派遣元企業での36協定が必要

派遣社員に法定労働時間を超える時間外労働や休日労働をさせる場合、派遣元企業で36協定の締結が必要です。法定労働時間は1日8時間、1週間40時間であり、法定休日は週に1日または4週間を通じて4日です。

36協定の締結は直接雇用の従業員にも必要ですが、派遣社員の場合、派遣元企業での締結が義務となっている点が異なります。

労働時間の管理は派遣先企業が行う

36協定の締結がない場合でも、派遣先企業は派遣社員が法定労働時間を超えないように管理しなればなりません。もし超過があれば、派遣先企業の責任となります。

36協定を締結している場合も、派遣先企業は協定で定められた労働時間の上限を守らなければなりません。

割増賃金が発生する場合の対応

36協定に基づく時間外労働や休日労働では、割増賃金が発生します。派遣社員の給与支払いは派遣元企業が行うため、割増賃金の支払い義務も派遣元企業にあります。

しかし、派遣先企業は労働時間の計測義務を負っており、時間外や休日労働の時間を正確に把握して派遣元企業へ報告する必要があります。

3. 派遣先企業でコンプライアンス違反があった場合のリスク

派遣先企業がコンプライアンス違反をすると、どのようなリスクがあるのか見ていきましょう。

罰則の適用

労働者派遣法違反には罰則が設けられているケースがあります。たとえば、二重派遣については、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。二重派遣を行った派遣先企業だけでなく、二重派遣先の双方が罰則の対象となります。

ほかにも、派遣期間の制限違反には30万円以下の罰金など、罰則が定められているため注意が必要です。

行政指導

違反があっても必ず罰則が適用されるとは限りません。しかし、罰則の適用がない場合でも、行政指導(勧告など)の対象となることがあります。これは罰則規定のない禁止事項に関しても同様です。

もし是正勧告を受けたら、速やかに対応しなければなりません。是正されない場合には、企業名が公表される可能性もあるため注意が必要です。

労働契約申込みみなし制度の対象になる

労働契約申込みみなし制度とは、労働者派遣に関する一定の違反が確認された場合に適用される制度です。適用されると、派遣先企業が派遣社員に直接雇用の申込みをしたとみなされます。

この制度のもとで、派遣社員が1年以内に申し込みを承諾した場合、派遣先社員はその派遣社員を直接雇用しなければなりません。

4. コンプライアンス遵守のために派遣先企業が実施すべきこと

コンプライアンスを守るために、派遣先企業はどのようなことを実施すべきなのか見ていきましょう。

派遣先責任者と派遣先苦情申出先担当者の選任

「派遣先責任者」とは、派遣社員に関わる法令の遵守や安全衛生の確保など、業務全般を管理する役割を担当する人のことです。派遣社員を受け入れる企業は、必ずこの責任者を選任しなければなりません。

一方、「派遣先苦情申出先担当者」とは、派遣社員からの苦情受付や対応などを担当する人のことで、派遣先責任者と同様に選任が義務づけられています。なお、この担当者は派遣先責任者とは兼任することも可能です。

派遣元企業との連携強化

コンプライアンスを遵守するには、派遣元企業が締結している36協定の内容や有無を正しく把握することが重要です。時間外労働や休日労働の実施状況についても、派遣元企業と適切に情報共有し、認識のずれや、知らなかったことによる違反を防ぎましょう。

安全衛生管理体制の強化

派遣先企業では派遣社員も自社の従業員と同様に安全衛生の対象となります。安全衛生教育を実施する際は、必ず派遣社員も含めて行いましょう。

また、安全管理者や衛生管理者、産業医の選任基準は派遣社員も含めた労働者数で判断されます。人数基準を満たす場合は選任義務が生じるため注意が必要です。

5.まとめ

派遣先企業が守るべきルールは多岐にわたり、違反すると罰則の適用や行政指導などのリスクがあります。知らず知らずのうちに違反しないよう注意が必要です。

とくに36協定や労働時間管理は、派遣元企業との連携が不可欠です。情報共有を適切に行うことで、より確実にコンプライアンスを守ることができるでしょう。

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